内緒の話ですけどね
ウィルソン達の引き渡しは、シグルド様の来訪から三日後だった。
ちなみに今回は責任者かつ関係者としてシグルド様と、東部シルトムーロの代表として兄も一緒に行くことになった。
「ノア様! ノア様、助けて下さい!」
「私達は被害者なんですよ!?」
飛空艇がシャヘル国の発着場を飛び立ってから一時間半。
その間、シンディとウィルソンはこの調子でずっと、自分達は無実だと訴えている。静かなのはロメオだけだ。
定期的に様子を見にくるとこの調子なものだから、さすがの兄もげんなりした顔をしていた。
「今回、君達の罪の裁量を図るのはカベルネだ。命を取られることはないだろうから、ちゃんと自分がしてきた罪を理解してきなさい」
「私は知りませんでしたわ!」
このやりとりも何度しただろうか。兄を見れば額に青筋が浮かんでいる。
その内に爆発しそうだな……なんて思いながら、私は彼らの隣に座らされているロメオに問いかける。
「と、言っていますが、どうですかロメオさん?」
「ご存じですよ。その場にいましたからね。自分がいない時に対応するようにとウィルソン様が説明し、仕事を学ばせるためにいつもご一緒してましたから」
「ロメオ、あなた!」
キッとシンディが目を吊り上げるが、ロメオは肩をすくめてみせるだけだ。
こうして捕まってしまったら、もう従う理由もないからだろう。騒ぐウィルソンとシンディを見るロメオの目はとても冷ややかだ。
「貴様、今まで誰のおかげで無事だったと!」
「その俺の無事のせいで、大事な人達にまで迷惑をかけたんだ。あの時、俺はカベルネで捕まるべきだった」
そう言ったロメオの言葉には悔しさが滲んでいた。
ふむ、と思いながら私は彼の前にしゃがんで目線を合わせる。
「大事なんですね、その人達」
「もちろんですよ。どうせ捕まるなら――――皆にこれ以上迷惑かける前に、生まれ育ったカベルネの空が見える場所で捕まりたい」
「捕まったのはシャヘルですけどね。でも、潔いのは良いことです」
「ただの二択ですよ」
ロメオはそう言って卑屈に笑う。
どうせなら故郷でという彼の、そういう気持ちは分からないでもない。
正直に言うと私はシンディやウィルソンは好きではないが、ロメオに関してはそうでもなかったりする。まぁ嫌いではないだけで、別に好意的な感情ではないけれど。
うちの執事に乱暴を働いたことは見過ごせないが、理由はあったし、彼はずっと申し訳なさそうだった。
仲間思いで、理不尽を「嫌だ」と思える。それなら彼の本質は、そうそう悪い人間ではないと思う。もっとも空賊の一員だから犯罪者ではあるけれど。
「まぁ、ノア兄さんも言いましたけど、命を取られることはないでしょう」
「その分、自由はないですけどね」
「そうですね。けれど、そう生きたのはあなたですよ」
「分かっていますよ。……でも、一緒にいられて、楽しかったなぁ。知らないでしょうけど、俺の仲間ね、すごく格好良いんですよ!」
思い出すように言って笑うロメオの顔は誇らしげだ。
つられて笑ってしまうくらいに。
「まぁ犯罪ですけど、でも確かに格好良かった。悪い奴らから美術品を盗み出し、売りさばくわけでもなく、それで悪事を暴くもんですからね。そういう姿勢は普通に格好良いですよ」
「でしょ!? でっすよねぇ、格好良いですよね? いやー、話が分かる!」
私が褒めると、ロメオは嬉しそうに目を輝かせた。
本当に彼は仲間のことが大好きなのだろう。
そうしてひとしきり笑ったあとで、
「……だから俺は、死ぬほど後悔してる。こんなの、矜持も何も、あったもんじゃない」
と目を伏せた。
「前後が変わっても、どのみち方法自体は悪いですよ。あなた達のやってることも、そこの二人に関わったこともね」
静かに頷くロメオに向かって「それで」と話を続ける。
「捕まって、罪が確定したら。法の上での罪をちゃんと学んできてください。そうして出てきたら、その『格好良い』ことをするために、違うやり方を考えましょう。わたしで良ければお手伝いしますよ」
「え?」
「割とファンなんですよ。――――内緒ですけどね」
人差し指を立てて片目を瞑ってみせれば、ロメオは驚いた顔をしたあと。
くしゃりと笑った。
「アハハ。……それは、色んな意味で。……その、ありがとうございます」
吹っ切れたような顔だ。何だかんだで死にそうな顔よりはずっと良い。
先ほども言ったが、たぶん罪が確定しても、死ぬことはないだろうと思う。
どのくらいのものが科せられるかは分からないけれど、それでもやり直せる時間は十分にあるはずだ。
そんなことを考えていると、突然、飛空艇内に警報が鳴り響く。
ハッとして顔を上げた次の瞬間。
――――飛行艇が大きく揺れた。




