恐らくそれが彼らの矜持
ここ近年、この世界での物流は――特に国を跨いでのものは飛空艇での運搬が主流になっている。
障害物のない空を利用すれば、そのスピードを各段に上げることが可能だからだ。
ただ問題は空にも悪い連中がいるということ。つまりは先ほどから話題に上がっている空賊だ。
飛空艇で移動していれば、空賊に襲われる危険性はもちろんある。
けれどそれはあくまで被害者としてだ。
シグルド様はウィルソンがマリーノ・ファミリーを『脅した』と言っていた。普通の貿易商が、いったいどうやって空賊を落としたというのだろうか。そもそも普通に考えれば連絡を取ることだって出来ないだろう。
兄も同じことを考えたようで、
「ウィルソン氏はどうやって空賊と連絡を取っていたのでしょう?」
と聞いた。するとシグルド様は「仲介者がいたんです」と答えた。
「フォルテくんはウィルソンの娘の従者を覚えていますか?」
「はい。確かロメオとかいう……。そう言えば彼もシンディに脅されている様子でしたね」
「ええ。どうやら彼がマリーノ・ファミリーの空賊だったそうです」
私と兄は思わず「えっ」と同時に驚いた。
まさかマリーノ・ファミリーの空賊だったとは。この間の様子を見る限りでは、空賊っぽさはあまりなかったように感じられるけれど。まぁ空賊っぽさというのが何なのかというのは、上手く説明は出来ながいが。
受けた印象としては、気が弱そうだが人は良さそうな感じだっただけに意外である。
シグルド様の話によると、先日の動画のこともあり、ロメオをウィルソン達と一緒に拘束したのだそうだ。暴れる二人と違って抵抗する様子もなく、とても大人しく捕まったらしい。
その取り調べの際に、ウィルソンとシンディが白状したそうだ。
「まぁ最初は『我々はあいつに唆されたんだ!』というような事を言っていましたけれど」
呆れた様子でシグルド様はため息を吐いた。
見事なまでのなすりつけである。これまでの行いから、それを信じる人間はまずいないだろうけれど。
ちなみにロメオ自身は、それに関しては頑として口を割らなかったらしい。仲間は売らない、ということだろうか。そういう部分ではマリーノ・ファミリーの空賊らしさを感じた。
「しかしどうしてマリーノ・ファミリーの空賊がウィルソン達と?」
「ウィルソンがカベルネに商談に来ていた時に、たまたま知り合ったそうです。……まぁ知り合ったというよりは、ロメオが空賊だとバレて逃げていた時に、偶然出会ったみたいですけどね」
ロメオが空賊だとバレて逃げていた時に、飛び込んだ先の建物にいたのがウィルソンだったそうだ。
最初は突き出されそうになったが、外から聞こえる声と彼の様子で事情を理解したウィルソンは、即座に良からぬ企みを思いついたそう。
彼はロメオに「助けてやる代わりに、役に立ってもらおう」と今回の件の取引を持ちかけた。それがアシュとナーサを……という件に繋がる。
何と言うか、悪い意味での発想力はすごい。よくその一瞬で思いついたものだ。
「彼が空賊なら、少なくとも荒事には慣れているはずでしょう? ウィルソンをぶっ飛ばして黙らせるくらい簡単なのでは?」
「そういう性格の人間ではなかったということが大きいですね。それにターゲット以外を傷つけるのは、マリーノ・ファミリーの一員としての矜持に反するのでしょう。……というか、君は相変わらず物騒ですね」
「シグルド様もそう思います? 僕も兄として悲しいです」
「せめて悲しそうな顔を作ってから言ってくださいね、お兄様?」
自分の考えが多少物騒なのは理解しているけれど、この二人にだけは言われたくないなと思いつつ。
だけどシグルド様の言葉は分かる気がした。マリーノ・ファミリーにまつわる噂からも、題材とした本――創作物だからだいぶ装飾はされているだろうけれど――からも、彼らの誇りのようなものは伝わってくる。
彼らは恐らくそういう者達なのだろう。誇りを持ち、義理堅い。
だからこそ仲間を切り捨てることができなかった。例え要求された行いが、自分達の矜持に反することだったとしても。
若干の複雑な気持ちを感じていると、そこでふと、兄が軽く手を挙げた。
「事情は理解しました。それとシグルド様がいらっしゃった理由も。……今回の件はもしかして、外交問題になりそうなのですか?」
「ええ、なりそうなんです。良いところに気が付いてくれましたノア君」
「え、それはまずいのでは」
「ええ。カベルネ国とは長い間友好関係を築いていますから、亀裂が入るとまでは行きませんが。けれどだからこそ、早急な対応を要します」
話しながらシグルド様はこめかみを親指でぐりぐりとほぐす。頭が痛いと、その整った顔が訴えている。
「そこで申し訳ないのですが、フォルテ君にお願いがありまして」
「何でしょう?」
「カベルネ側と連絡を取り、今回の件に関わったウィルソン、シンディ、そしてロメオの三名をカベルネに引き渡すことになりました」
国内でのことならば国内の法で裁けば良い。けれど今回の件はカベルネ国とも関わっている。そしてマリーノ・ファミリーはカベルネ国を飛び回る空賊だ。
話し合いの結果、カベルネ国にて罪の裁量を図るのが一番だろうという話になったらしい。
「シンディが一緒なのは何故ですか?」
「ウィルソンが空賊とやり取りする際に毎回同席させていたらしいですよ。自分が不在の時に任せられるようにと」
「ああ、なるほど……。でも、しっかりするところはそこじゃない気がしますねぇ」
「まったくですよ」
はあ、とシグルド様はため息を吐いた。
大きなものは空賊との関係だが、他にも調べたら余罪が色々出てきたのだろう。
「それで話は戻りますが、彼らの引き渡しに、フォルテ君も一緒に来て貰いたいのです」
「私ですか? 特に役に立ちませんよ?」
「御謙遜を。向こうの学院での評判は伺っています。――――あちらのアカデミーの友人たちと別の空賊団を捕まえたとか?」
「うっ」
思わず言葉に詰まっていると、兄が半眼になってこちらを見る。
「フォルテ、向こうでそんな事してたの?」
「いや、その……実習中にちょっとね? あっでも兄さん、私はサポートだから! そう怖い顔しないでもサポートだったから!」
「実に優秀であったと伺いましたよ? 相手の空賊の武器を銃弾で撃ち落とし無力化する様子は、さすが魔弾娘だと評判だったとか」
「シグルド様ッ!」
またそのあだ名が出た! そして全てバレている……。
誤解のないように言っておくが、別に空賊が乗っている飛空艇に殴り込みをかけたのではない。実習先でたまたま酒を飲んで暴れていた奴を捕まえたら空賊だった、という話である。バイソンのマークのついた服を着ていたところから、素性が割れたそうだが。
いや、まぁ、それよりも……。
兄の様子を恐る恐る伺えば、とても呆れた顔をしていた。
「魔弾娘って呼ばれるのが嫌だから、カベルネに行ったんじゃなかったっけ?」
「いや確かにそれも理由にはあるけど、不可抗力というかですね……」
「どうせ知られていないと思って調子に乗ったんでしょ」
「うう……」
もはやぐうの音も出ない。
しおしおと私が肩を落としていると、シグルド様は笑って、
「ですがそのおかげで、フォルテ君はカベルネ国にとても良い印象を持たれています。まだ学生の君を巻き込む形になるのは本当に申し訳ないのですが、フォルテ君が同行することで少しでもこちらのイメージを良くしたいのです」
だから頼めないだろうかと、シグルド様に頭を下げられた。
師匠にここまでされては否とは言えない。
そもそもカベルネとの友好関係が崩れて困るのは東部シルトムーロだ。
「分かりました。師匠にも、カベルネにもお世話になっていますし。私もこれからも仲良くしたいですから」
了承の意味を込めて笑って頷くと、シグルド様もほっとした顔で「ありがとう」と微笑んでくれた。




