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期待の新刊  作者: 光闇居士-Twilight Master


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6/9

真相

 銀色の輝く個室に、吉田百合子はひとり、椅子に座っていた。瞳の焦点はどこにも定まらず、ただ虚空をさまよっている。

放心したように、静かに息をしていた。やがて、革靴の乾いた音が近づき、彼女の真正面でぴたりと止まった。

白いスーツに身を包んだ女性が、ゆっくりと膝を折り、うつむいたままの百合子の視線の高さに顔を合わせた。

「吉田さん、これをお飲みになって」

白い手袋の上に、三角形の小さな銀色の錠剤が乗せられている。

百合子はゆっくりと顔を上げ、女性の顔をじっと見つめたあと、指先で錠剤を摘み、喉の奥に滑り込ませた。薬が効き始めたのか、彼女の肩がわずかに落ち、大きく深く息を吐いた。

少しだけ、瞳に光が戻ったように見えた。

「そろそろ始めます。よろしいですか?」

「……はい」

小さな、しかしはっきりとした返事。

「それでは、私の後について来てください」

導かれるままに、百合子はさらに広い銀色の部屋へと足を踏み入れた。

中央に長いテーブルが置かれ、その一端の椅子に座らされる。

やがて、白いスーツの三人——最初に彼女を連れてきた女性、そして新たに現れた年配の女性と若い男性——がテーブルの向かい側に着席した。年配の女性が中央に陣取り、静かに口を開いた。

「それでは、吉田百合子の査問を始めます」

「私は議長のスーザン。こちらはハインツ君、リタ君はもうご存じですね」

百合子は小さく会釈を返した。ハインツが、淡々とした声で読み上げる。

「吉田百合子。本名ステファン・カーター・ヨシダ、27歳。西暦2314年生まれ、統合政府管轄エリア061区住民。元アステロン社ワープシステム移動管理官。——に間違いありませんね」

「……はい」

今度はリタが続ける。

「2338年、タイムスライディング社の21世紀ツアーに参加。以降2339年、2340年と連続3回。同ツアーを繰り返し、2341年には正式に2004年へのタイムイミグレーションを申請」

「はい……間違いありません」

テーブルの表面から、鮮やかな3D投影が浮かび上がる。

百合子の個人履歴、移動記録、クレジット残高——すべてが高速で流れ、色鮮やかに点滅した。スーザンが穏やかだが鋭い視線を向ける。

「3回連続のツアー、そして移民。相当な額を使いましたね」

「……はい。ほぼ、私の全クレジットでした」

声は消え入りそうに小さかった。

「統合政府のタイムイミグレーション推進補助条例は、ご存じですね」

「はい……23世紀後半から24世紀初頭にかけての人口限界問題解決のため、申請者には全経費の補助が……」

「その条件は?」

ハインツの声が、少し冷たくなる。

「移民先の時代に完全に溶け込み、歴史に影響を与えないこと」

「そして?」

リタが静かに畳みかける。

「……その時代の人間に、恋愛感情を抱いてはならない。恋愛対象となり得るのは、同時代へ移民した仲間のみ」

百合子は、まるで古い教典を暗唱するように、言葉を紡いだ。ハインツが、わずかに眉を寄せる。

「規定違反者の処罰は?」

「……即時隔離。元の時代への強制送還。以後、タイムトラベラーおよびイミグレーションの永久剥奪。そして、重い刑事責任の追及」

「よくご存じじゃないですか」

リタの声に、皮肉が滲む。ハインツが一気に言葉を叩きつけた。

「あなたは前職の地位を利用して、移民先の時代を意図的に調整。対象の男性と恋に落ち、監視官に発覚して禁固された後も、本来のパートナーであるはずの男性を使って、さらにその恋人に自分の存在を伝えようとした」

「まぁまぁ、ハインツ君」

スーザンが静かに制する。

両手の指を組み、あごを乗せ、ゆっくり身を乗り出した。「ヨシダさん。——あなたは、条例をことごとく破ったわけですね。未来へ送還される前に、何か言い残したいことはありますか?」

百合子の唇が震えた。

「……もう一度。もう一度だけ、あの人に会わせてください」

「きみね!」

ハインツが立ち上がりかけるのを、スーザンが手で抑える。「会って、別れをする。それでいいんですね」

「……はい。お願いします」

長い沈黙のあと、スーザンは静かに頷いた。

「わかりました。許可しましょう」

「しかし議長——」

リタの抗議を、スーザンは片手で遮る。そして、百合子をまっすぐ見据えて、ゆっくりと言った。

「ただし、あなたが彼に、すべてを忘れさせるんですよ。いいですね?」

百合子は、涙を必死に堪えながら、頷いた。

「……はい。わかりました」

黒いスーツのタイム監視官に導かれ、百合子は裕樹の待つ部屋へと向かった。ドアの前で、別の長身の黒ずくめの男と出会う。

「カジ君……?」

「ステファン、大丈夫だった?」

本来、彼女のパートナーとなるはずだった男——カジは、穏やかに微笑んだ。

「彼に全部話したよ。意外と冷静に受け止めてる。さすが名作家って感じだね」

「カジ君、ごめんね……いろいろ、無理を言ってしまって」

「とんでもない。僕はいつだって、君の理解者でいたいんだ」

「……ただ、荷物を届ける時の時間転送設定を一年早めてしまったせいで、彼を巻き込んでしまって……」

「もういいの。本当に、ありがとう」

百合子はそう言い残し、静かにドアを開けた。銀色の光が、彼女の背中を優しく、しかし冷たく照らしていた。

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