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真相

 銀色の輝く個室で、吉田百合子はひとりでじっと椅子に座っていた。目の焦点が合ってないことから、放心状態である。革靴の音が近づき、百合子の直前で止まった。真白のスーツを着た女性は身を落とし、うつむいたままの百合子の視線にあわそうとした。

「吉田さん、これをお飲みになって」、白い手袋の上に三角の銀色の錠剤が置いてあった。百合子は頭を上げ、目の前の女性を眺め、ゆっくりと錠剤を手に取り、飲み込んだ。少し落ち着いたか、百合子は大きく深呼吸をした。

「そろそろ始めます。よろしいですか?」、

「はい・・・」と百合子は小さく答えた。

「それでは、私の後について来てください」

 百合子は2倍の大きさを有する別の銀色の部屋につれて来られた。長いテーブルの前にある椅子に座らされた。しばらくして、同じく白いスーツを着た人間が二人と最初に自分を誘導してくれた女性を加え、3人が長テーブルの向こうに座った。少し年配の女性が真ん中に陣取り、左手に若い男と3人が着席すると、テーブルの表面から3Dの投影画面が現れ、写真や文字が鮮やかな色で綴られていた。

「それでは吉田百合子の査問を始めます」と年配の女性は言った。「私は議長のスーザン、こちらはハインツ君、リタ君はもう知っていますね」、百合子は軽く会釈をした。「吉田百合子、本名ステファン・カーター・ヨシダ、27歳。西暦2314年生まれ、統合政府管轄エリア061区の住民。もとアステロン社のワープシステムの移動管理官で間違いないですね」とハインツは問いだ。

「・・はい」百合子はうなずいた。

「2338年のタイムスライディング社の21世紀への旅に参加し、その後2339年、2340年と3度にわたって、同ツアーの参加を重ね、2341年には正式に2004年へのタイムイミグレーション(時間移民)を希望しましたね」と今度はリタが続いた。

「はい・・間違いありません」と百合子は答えた。

3D投影画面上に、百合子の個人データらしき物が高速に映り出されていた。

「3回続けての旅行、そして移民、かなりのお金を使いましたね」とスーザンが百合子に質問した。

「はい、ほぼ私の全クレジットでした」と百合子は消えそうな小声で返事をした。

「そのようですね。ヨシダさん、あなたは統合政府がタイムイミグレーション推進の補助条例をご存知ですね」。

「はい、23世紀後半から24世紀初頭にかけての人口限界問題を解決するため、タイムイミグレーションの申込者には統合政府から全必要経費の補助が出されます」と百合子は答えた。

「そうですね、しかし、その条件とは?」とハインツ。

「タイムイミグレーションした時代に溶け込み、その後の歴史に影響を与えないように徹底することである」。

「そして?」とリタ。

「そして、そのためにはタイムイミグレーションする時代を選択できず、特にその時代の人間に恋愛感情を抱いてはいけない、恋愛感情を対象に出来るのはあくまでも同時代へ移民した仲間のみである」百合子はなにかを復唱するかのように答えた。

「以上の規定を破った者は如何なる処罰が下されるのかね」ハインツはちょっと不機嫌そうに百合子に問いかけた。

「・・はい、規定を違反した者は、直ちにその時代から隔離され、元の時代に連れ戻されると同時に、以後2度とタイムトラベラーおよびイミグレーションを認めない。また重い刑事責任を追及される」

「なんだ、よくご存知じゃないの」とリタの声。

「しかし、あなたは前職のワープシステムの移動管理官という特殊な地位を使って、時間移民先の時代を自分の好みに調整し、移民した時代の男性と恋に落ち、タイム監視官に発覚されて禁固された後も、本来同じ時代へと移民したパートナーであるはずの男性を使って、さらに移民先の時代の恋人に自分の存在を知らせようとした」ハインツは一気に百合子を責めた。

「まぁまぁ、ハインツ君、そんなに感情的にならなくても」と議長はハインツをなだめた。そして、両手の指を交差しあごを支えながら、すこし身を乗り出して百合子をじっくりと眺めながら、ゆっくりとした口調で「ヨシダさん、ハインツ君が言うように、あなたはことごとく条例を破ったわけでしたね。未来へ送還される前に、何か言いたいことはありますか?」

「もう一度、もう一度だけ、あの人に合わせて下さい」、

「き・・きみね!」議長は興奮したハインツを制しながら、

「会って、別れをして、それでいいですね」。

「はい、お願いします」百合子はきっぱりと答えた。

「わかった。許可しよう」、「しかし、議長・・」

議長はリタの発言を止め、百合子に「ただし、あなたが彼にすべてを忘れさせるんだよ、いいね?」と言い放した。

「・・・、はい・・わかりました」百合子は涙を我慢しながら答えた。

黒いスーツを身にまとったタイム監視官に導かれ、百合子は裕樹に会いに行った。ドアの前で、別の長身なこれまた黒づくめした男性に会う。

「カジ君?」、「ステファン、大丈夫だった?」

百合子は本来自分のパートナーとなるはずの男性を見上げた。

「彼に全部話したよ。意外と冷静に受け止めているようだね、名作家にふさわしい態度だよ」。

「カジ君、ごめんね、いろいろ無理言っちゃって」。

「とんでもない、おれはいつでも君のよき理解者でいたいのさ」、

「ただ、荷物を届けさせるときに時間転送の設定を1年間早まって、変に届いちゃったおかげで、彼を無理やり巻き込んだ形となって・・」

「うん、もういいの、本当にありがとう」百合子はそう言い残して、裕樹のいる部屋へ入った。

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