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失神

8日目の朝、裕樹の元にひとつの郵便物が届けられた。差出人は吉田百合子、不思議なことに荷物はずっと保管されていて、差出曜日は一年前となっている。一年前は、たしか百合子が出版社へ入社ばかりで、まだ二人が出会う前のことである。なんで、このような荷物が自分の元に。

中身は一枚のCD-ROMと銀のチェーンがついたドアの鍵である。鍵は百合子の自宅の鍵であることを裕樹は知っている。

唯一の手がかりかもしれないと思い、裕樹はおそるおそるCD-ROMを確認した。

自分の目を疑った。タイトルは一條裕樹作品集である。作品略歴には長編小説が12本、短編35本と、エッセイ、社説、評論などほか30ほどの作品が載せている。

「何だこれは!」

 作家紹介では1976年から2045年となっている。つまり、これは、作者の生涯を通して綴った作品集である。69歳か、それなりに生きてたんだな。変なところに感心したのだが、実に奇妙な出来事である。注意してみると、デビュー作でいきなりヒットした歴史題材だった処女作からこの間入稿した短編のミステリー小説までに、作品は時系列で並んでいた。

裕樹は本棚の自分の作品コーナーと照らし合わせた結果、間違いはなかった。さらに追ってみると、作品集では来年の春の出版となる次回作の長編小説に注目した。まさにこれから進めなければと考えている作品がそこにあった。

何かの冗談にしては、出来過ぎだった。

これで、この間の原稿の説明がついた。しかし、このようなことは可能だろうか。空想が商売のフィクション小説家とはいえ、春樹はいくらか分の理性を持っているつもりである。

とても信じられなかった。吉田百合子、彼女は何者なんだ?

裕樹は深く考えるのをやめた。残った鍵を手にし、さっそうと出かけた。吉田百合子の住むところへ。

百合子の住む部屋は裕樹も一度だけ入ったことがある。都内1DKのマンションの一室である。

特に警察の捜査が入っていると思ったが、意外にも、そういった痕跡は全くなかった。部屋はきれいに片付けられていて、朝、仕事に出かけたままの状態に思った。しかし、前に来たときも思ったが、生活感の全くしない部屋だった。一見家具はそろっているが、冷蔵庫は空っぽだし、寝室のたんすのなかにも、衣服はほとんど置いてない。居間の机にあるパソコンをつけてみたが、パスワードロックがされていて、見られない。

変った物といえば、壁に不思議な物体が飾られていた。一見中国のタオ教のシンボルである【陰陽】に見えたが、白と黒の半円の中央に螺旋形が綴られている。グルグルと永遠に回り続けているふうに見えた。裕樹は見ているうちに吸い込まれそうな感覚に陥った。

突然、後ろから物音がして、振り返った瞬間に頭を黒い布か何かで包み込まれた。必死に抵抗したものの、甘いバニラのような香りがして、意識を失った。

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