にせものの烙印
献上品の管理は、ゴラルト王立商会の倉庫が請け負っている。
おれは数日かけて、そこに出入りする人間と品物を確認した。
昨日は、朝は革手袋をした検品官が二人。昼は荷を運ぶ人足が四人。夕方は帳簿を抱えた商人たち。その他にも雑多な品物を運ぶ人は大勢いたけど、魔石自体が数が少ないので出入りする人間を確認するのは簡単だった。
誰も、おれを気に留めないのもやりやすい。
鑑定士のライセンスは、パーティを追放されても消えないから、倉庫の隅で「個人依頼の検品です」と言えば、それで通った。
便利なもんだ。役立たず、と笑ったあいつらは、このライセンスがどれだけ物を言うか知らない。
物流と人の流れを確認し出して丁度2週間目の夕方、ようやく目当ての箱に近づけるときが来た。
二人の検品官はドレスの納品に来た若い娘に話しかけに行く。おれに、ちょっと見ててくれって言って場を離れた。
おれは信頼してくれた二人には心の中で手を合わせながら、祝祭の献上品の中身を確認する。……やつらが処刑されることになった原因を。
きずものと判定された魔石だったからか、木箱を開けるとすぐにそれは見えた。
申し訳程度のクッションと、傷入り魔石の烙印を押した札。それと共に入れられた箱の隅に転がっている卵ほどの大きさの魔石。
「……まじか」
二人に追放されたあの日。
まさに追放された瞬間に取り落としたあの魔石だ。見間違えるわけがない。おれが最後にフラクタルで鑑定した石。あれが、ここにある。……献上品の傷入り魔石として。
だけど、おれは自分の眉に力がはいるのが分かった。おかしいんだ。
あの日、追放を言い渡される前に、3人で見つけた魔石を思い出す。
今、目の前にしているのとほとんど変わらない色、形、そっくりな魔石だった。間違いなく国宝級。
だが、今目の前に転がった魔石の核にはわずかに走った、細い傷。
それが二つの石を分ける決定的な違いだった。
二つとも二人に渡して、それで追放された。
プロの鑑定士なら、時間をかければわかるくらいの小さな核の傷だった。
もちろん、インクルージョンや固まった魔力の場合もあるけど、これは違う。
誰かが、おれの鑑定した本物を抜いて、傷の入った石を本物として二人に差しだした?
”鑑定士が居なくらったんらよ!”
酔っ払いの言葉が戻ってくる。
そんなことがあるのか?
鑑定士は、嘘をつけない。真贋を偽れば、呪いが自分に返る。だから「偽物だ」と告げた鑑定士は、本気で偽物だと信じている。
いや、信じているふりを、できる奴がいる。呪いを返すほどの自己欺瞞。
呪いが返るのも構わないくらい、欲に目がくらんだ奴が。
——あの石なら、売れば一生遊んで暮らせる。それだけの価値が、ある。
心臓が嫌な音を立てた。同業のこんな所業を聞くのははじめてじゃない。
暗い考えに取りつかれていたら、検品官が戻ってくるのが見えた。
おれは急いで箱から離れた。すれ違った時に礼をいわれる。どうやら娘との会話はうまくいったらしい。なんでもないように手を振った。心臓がどきどきして正直、飛び出しそうだった。
「やばいよな……これ」
宿への道で、ようやく言葉にした。
手のひらには、核に小さな傷の入った魔石。
おれは、検品官が戻ってくる一瞬に、あらかじめ用意していた似た魔石を箱に残し、フラクタルの傷入り魔石だけを抜き取っていた。
そして石を見ながら考える。
クロと、ララは……本物を献上しようとしたのに、この、傷入りの魔石を献上するように、騙された?
もしかしたら……騙されたんじゃなく――嵌められた。
手のひらの中で、傷入りの魔石がやけに重くなった。




