ひびがはいったら
「な、なんだよう。おめえは!」
「わるい、二人と知り合いでさ――話が聞こえてきたから気になって」
おれはすぐに力を抜いて男の肩から手のひらをはなす。そして男の肩をポンと払って謝った。
酒をおごると言ったら、男は不審そうな顔でおれをもう一度見てから、千鳥足でまた席に座る。
「それじゃあ……鑑定された魔石の核にヒビが入っていたってことか。でもそれならよくあることだろ?しかもそこまで大きなヒビじゃなかったなら鑑定時に分からないことはよくある……って聞くし、処刑されるほどのことなのか?」
おれは、既に何杯も酒をおかわりして、焦点の定まらない瞳をした冒険者の男にまた言った。
ゴラルトの祝祭。ヌーグを倒してゴラルト王国が出来た。建国からある祝祭への献上品。やっぱり信じられない。
「……そんなわけ、ねえだろ」
思わず声が出た。
一度の鑑定で献上する奴がどこにいる。
鑑定士は真贋を見る。だがおれの目は、石の内側の、傷の一筋まで見える。親方にも、こんな目は見たことがないと言われた。
そんなおれでも、何日もかけて、核まで一層ずつ見る。そうしても、見落とすのが怖くて、何度も見る。そうしてきた。
なのに献上するものに、ヒビ。
「らからよお、おれは詳しく知らねんだってよ!」
呂律の回らない状態で男が続ける。
「鑑定士が居なくらったんらよ!」
そこまで言って男は机に突っ伏す。酒臭い息を幸せそうに吐きながらいびきをかき始めた。
結局、ゴラルトの祝祭の当日が処刑日という以外は、肝心なことが何一つ分からない状態で酒場を後にした。20ビルを支払っておつりを断って、外にでる。
もう外は喧噪が過ぎ去って静かなものだった。
宿に戻って、寝酒を煽る。おれは二人と最後にした会話を思い出していた。
「ロイド、お前は今日で抜けろ」
おれは何を言われているか分からなくて、鑑定していた魔石をうっかり取り落とした。床で鈍く跳ねたそれの、核に走った細い傷——おれにしか、見えない傷だ。
おれはまじまじとクロの整った顔を見る。
整いすぎて冗談を言っていてもそう聞こえないんだ。こいつは。だから聞き返した。
「は?」
「ここにはもう来なくていいっつってんだよ」
ララが被せて言ってくる。3人ではじめたパーティ。
鑑定士のおれと、剣士のララ。そして勇者でありパーティのリーダ―のクロ。
「ララの言うとおりだ。鑑定なら鑑定屋に頼めば、少ない料金でやってくれる。……なのにお前は役立たずなうえに、おれらと同じだけの取り分が必要だなんてやってられないだろ?」
「お、おい待ってくれよ」
「うっさいわねえ!もういらないって言ってんのが分かんないの?明日からあたしとクロの二人のパーティなんだからさ」
ララがクロの腕に自分の腕を絡めて、おれにけりを入れてくる。
ふざっけんな。
今、思い出してもふつふつと怒りがわいてくる最後。
でも……ゴラルトの祝祭まではあと……。




