44.滑らせたのは
「まさか……覚えていらっしゃらない、と?」
ジトッとジンが睨んでくる。たじろぐしかない、俺。
「おかしいとは思ってましたよ。自分からサローノ様を口説いたくせに避けるような態度をとってる違和感……どうにか思い出してくれませんか、ねえ?!」
「っ……が……や……まって……くれ」
これはヤバい。本当にヤバい。
絞り出す。頑張ってあの日のあの時を思い出す。
ゆっくりゆっくり巻き戻していく。
「うう…………あ……あぁ」
ぼんやりと、頭の中に浮かんできた。
寝所への廊下を、サローノに支えられながら歩いてる。吹き抜けの壁から見える夜空がすごく綺麗に見えていた。だから俺は、
『綺麗だな……サローノ』
『……ふっえ?』
『ん?綺麗だって言ったんだ』
『そ……な……』
『これからも、守らせてくれよな』
『は、はい……』
みたいな会話をしたことを、思い出した。
サローノが照れて赤くなってるのを、俺は酒が効いてきてるののかな?と、勘違いをしたんだ。
それに、俺が綺麗だと言ったのは夜空の事だ。守るってのは、有事があれば手伝うよって意味合いで言ったつもりだった。
それを恐らく、『サローノ、君は綺麗だ。俺がずっと守るよ』に変換されて勘違いした、のだと思う。
酔っていたにしろ、当時の俺の語彙力の欠如したバカな口を塞いでやりたい。
「思い出したわ……」
「サローノ様は守護騎士である前に、女性なのですよ?窮地を救ってもらった直後にいい雰囲気になればメロメロになりますよ?」
「メロメロってお前……血走ってたぞ、目」
あそこまで追い詰めた……というか、思いを募らせてしまった原因は俺だった。
「私を応援すると言ってくれたこと……つい喜んでしまいましたが……やはり、レイルさんが責任を取るべきではないでしょうか」
「いやそれは……それは……」
ジンの言う通りかも知れない。だが、サローノに対しての俺が持っている感情は、恋でも愛でもない。そんな偽りで、責任を取るのは違うと思う。
「いったん保留にしよう」
「情けないですね」
「なんとでも言え!今は凪!凪に集中だ!」
「自分から聞きに来ておいて……まぁでもそれは、確かに、ですね。無事終わりましたら、ゆっくりサローノ様とお話してください」
ゆっくり話ができるどうかも、俺が凪を沈める事ができるかどうかにかかってる。とにもかくにも、集中だ。
「そろそろ私も休みます、レイルさんも、ごゆっくり」
「ああ、悪かったな。おやすみ、ジン」
ジンの寝床を後にして、自分の寝床に戻る。
ソノラとサラは、ちゃーんと寝息を立てている、はず。
「くふふっ」
「ふふ……で、きっとお師様は女性慣れをしていないだけなので――」
保留になったとはいえ、俺はジンを応援で?ソノラとサラは、サローノの応援をするってのか?
「こりゃっ!」
「わっ!」
「ひゃっ!」
勘弁、してくれ。
「なーに怪しい相談してんだお前たち」
「あ、怪しくないです!」
「そ、そうだぜおっさん!さみしいおっさんにぬくもりのプレゼントをって、ソノラが――」
「あ!あ!サラちゃんさんズルい!僕のせいにしようとしてるうっ!」
まったく。なんてかわいい喧嘩をしてくれるんだ。
「俺のためとか思ってんのか?」
「う……はい……お師様もいいお年ですし、これ以上引き伸ばしたら婚期を逃したまま老後へ突入です……」
「ぐふ……よいしょっ、と」
俺は、ソノラとサラの間に無理やり入り込んで、どーんっと寝転がる。そして、ふたりの引き寄せ、両手に華ってやつをしてやった。
「今はこれで十分なのっ」
「え、ええ〜……俺を巻き込むなよおっさん〜……」
「これはこれで……わ、悪くないかもしれませんっ」
「いいから寝るぞ〜!明日は今日より歩くんだからなっ」
ふたりになにも言わせないぞ!と、目を閉じる。
俺はもう切り替えたんだ。だから、ソノラとサラにも、付き合ってもらうんだ。
「凪を止めたら……な」
俺の大きなひとり言に、きっと気づいてくれてるだろう。
翌朝。
寝心地自体は最悪だったが、地べたよりは1枚布の上なだけマシだったってことにしておこう。
バキバキの体をほぐしながら、カーテンを開く。
休息所の中央で、ジンが炊き出しを用意してくれていた。
思ってた以上に、ここの休息所を利用していた人数が多かったから、らしい。
鶏肉と野菜の素朴なスープだったが、朝にはちょうど良かった。わがままを言うなら、サラに早起きして手を出してもらいたかったかな!ってところだな。
「腹も膨れたし、早速行くか〜」
「そうですね、急ぐに越したことはないですから」
「おっと。フランメ連れてくるから、ちょいまっててくれ」
乗り物置き場は少し奥まったところにある。
「いや〜悪い悪い。こんな暗いところで……フランメ?」
「ブルル……ッ」
こりゃヤバい。怒ってる。超不機嫌。
「あやまったろ?元素神馬とはいえ、お前は見た目まんま、馬なんだから」
『許さないんだから』
「うお……本気で怒って……る」
普段、馬屋を利用していても、ここまでは怒らないフランメ。
ここまで機嫌を損ねた原因。周りをよく見たことで、理解した。




