45.叱咤されたのは
山積みになった、大量のフン。
使い回されたゴワゴワの藁。
人間の寝床にその臭いが回らないよう設置された風の石。
「ったく!!」
わかっていて、放置しているということだ。
「こら!ジン!」
「イタッ?!な、なんで急に殴るんですか?!」
「お前ら風の守護騎士は何を管理してんだ?!あそこの環境はなんだ?!ええ?!」
「ん……?そこの管理の指示は、受けてませんので知らないですよ私……」
「ふざけるな!さっさと片付けてこい!さもないと元素神から罰が下るぞ!」
カコッカコッと、怒る俺の後ろから現れたフランメ。
怒りに満ちた視線がふたり分、ジンを襲う。
サァっと顔面を青くしたジンは、「すぐ済ませます!」と、慌てて休息所の奥へ走っていった。
「サラ、すまないがフランメを磨いてやってほしい」
「わ……ひどいニオイ……よっし!すぐきれいにするね」
「僕も手伝います!ピカピカにしますよフランメ〜っ」
「プルッヒィン!」
ご機嫌の治し方自体は簡単なもんだ。まあ、ソノラとサラがいなかったら、ここの休息所は焼却処分されてたろうけど。
なんてことをやっていたら、結局出発できたのは2時間後だった。
無事フランメの美しさは戻り、ジンの超速の清掃によって乗り物置き場は清浄化された。が、戻ってきたジンのニオイがひどかった。
「あの……サラさん……お願い、できますか……」
「フランメから聞いたけどさ……指示指示って、そんなのに従ってばっかで守護騎士がつとまんの?目の前で困ってる人がいても、死にかけてても、あんたは助けないの?」
サラはフランメを優しく撫でながら、ジンを睨んで怒っている。
「そんなことはありません……お言葉、染み入ります……だから私は、レイルさんのようには慣れないのですね……」
「おっさんがどうのはよくわからないけど、もっと自由にしてもいいんじゃない?風って、自由に吹くもんじゃん」
知ってか知らずか。サラはジンの心をえぐっている。そして、背中を押している。そう感じるのは、ジンの表情をみれば分かる。
馬のフンがきっかけで、こうなるとは思わなかったが。
「うんうん……そうだな。そうあるべき時も、きっとジンにも来るだろうな」
「はあ?おっさんなにいっ……」
「まあ気にすんな!それより時間が惜しい、サクッと洗ってやってくれ」
まだまだ言いたいことがありそうなサラだったが、前に進むことが今は大事な事だとしぶしぶ納得。ジャバジャバと雑に水の元素を練り上げてジンに浴びせた。
「頭冷えた?ジンさん」
「はい。ありがとうございました」
「わ〜……水も滴るいい男、ですね〜」
「そ、そうですか?ちょっと恥ずかしいのでそんな近くに……ああ」
ジンも顔は女性のような美しさを持っている。ソノラに「いい男」なんて言われたのが嬉しかったのかな?距離感バグってるソノラに近づかれ、ジッと見つめられて照れてるみたいだ。
少しは、ほぐれたみたいだな。
自身の水気わ風でふんわりと乾かしたジン。
もちろん、フランメにも。
丁寧に、毛並みに艶が出るように、仕上げをした。
「気を取り直して、参りましょう」
「少し急ぐか……ジン、アレできる?」
「……アレ?あ、アレですか?いいですね、やりますか」
俺とジンだけがわかってる、アレ。
怪しく笑う俺とジンを、警戒して見ているソノラとサラ。
「こうしてちゃんとしたカタチでお見せするのは初めてですね?さ、受け取ってください?」
ジンはふうっと息を吐き、すうっと息を吸う。
わかりやすく、体内の風の元素を練り上げていく様子を、見せてくれているみたいだ。
「【その風と共に翔けることを誇りなさい】」
足元から太ももにかけ、少しだけ生ぬるい風がふわりと巻き上がった。
ソノラとサラの足にも同様に、風がまとわりついた。くすぐったそうに、表情をむずむずとさせながら驚いている。
「では参りましょう〜」
「ちょ!まって!説明してくれないとわからんだろ!」
「ふふ……歩けば、わかりますから」
ジンを怪しみながらも、言われて通りに一歩前に足を出してみるサラ。その後ろをソノラも付いていく。
「ふぇっ?!わっ?!ちょ?!」
「わはわはわぁ?!す、すごい〜〜〜……――」
「あ!先行くなよ?!とまれとまれ!」
スーッと。地面を滑るようにサラを追い越し、地下道の先に消えていくソノラ。
「走れジン!初めてじゃ制御がムズいんだから!」
「体幹が弱いのは年のせいだからでは?」
「うるっせぃ!とめろ!」
「はいはい」
華麗な身のこなしでダンジョンの浄化をこなしてる俺が、体幹が弱いわけないだろ。最初だけ、ちょっとびっくりしただけだ。
ソノラのことはジンに任せ、俺は転んでしまったサラを起こしに行く。
「サラ、大丈夫か?」
「ん……大丈夫。これ、なに?足が地面についてない……ような?」
「おお、鋭いなサラ!いまかけてもらったのはなかなか珍しくてな?付与法ってやつで、他者に他元素の力を貸し与える珍しい元素法。風のみたいに、流れるような機動力が手にはいるんだ」
まるで、風と同化して空を飛んでる気分になれる。
ほんの数cmくらいだが、サラの言うとおり、自分の足と地面の間に風が流れを起こしているんだ。




