43.その思い出は
「そうだな……目移りして気を散らすより、目の前の仕事を確実に、だよな」
「はい……よろしくお願いします、火の代表守護騎士レイル・スプリッター様」
礼儀正しく頭を下げられ、名を呼ばれ。なんだか恥ずかしくなって頭をかきながら返事をした。
「こちらこそ、だ」
「珍しく照れてます?その顔をサローノ様に見せてあげたらいいのに」
「あ!それ!そのこと!」
「はい?」
なんのためにここに来たのか忘れてた。
俺をイジってるつもりなんだろうが、ジンの本心を知ってしまった今となっては、効果無しだ。
「もうお前のことばにゃ踊らせれんぞ」
「……はて」
「とぼけんな〜?俺は応援するつもりだぞ?」
「えへぇっ?!」
そんな変な声出したら、あらぬ幽霊騒ぎでもうひと仕事増える事になるんじゃないか?ってくらいの声を上げるジン。
一瞬嬉しそうな顔をしていたが、すぐに表情が曇った。
「いや、でも……サローノ様の気持ちはきっと、変わらない……」
「そりゃ普段から俺の事推して煽ってるからじゃないのか」
「うぅっ」
今度は泣きそうになってる。こんなに感情を出す奴だったんだな。それもきっと、サローノの事を心から慕っているからだろう。
だからこそ、自分の気持ちを押し殺してしまって、サローノの幸せを1番に願ってしまっていることで、ひねくれてしまったわけだ。
「ははっ!恋敵が急に応援するとか言い出したから困惑してるか?」
「恋敵だなんてとんでもな……っ……いえ、正直、はい、です」
「いいね、素直になってきたな?」
「やる気になってるレイルさんには、敵わないことを知っていますから」
「そんなこと……ないさ」
お互い思い出したのは、ジンがまだ新人守護騎士だった時に参加した【超高層、階層上昇型ダンジョン浄化作戦】の時のこと。
土と火の元素の境界に出現した過去最大の高さのダンジョンの『障り』を祓う為に、各元素の代表守護騎士と精鋭数名が参加した大型の浄化作戦だ。
ひと月近く時間をかけて浄化を成功させたものの、脱出の際に事件が起きた。サローノの【帰笛】が正常に作動しなかったんだ。
崩れ落ちる巨塔に取り残された風の守護騎士達を救出する為に、俺はフランメを翔けて飛び込んだ。
本当に、がむしゃらに。
瓦礫を焼き溶かして進んで、サローノを守るように覆いかぶさるジンの姿を見つけた。
意識を失いかけていたジンをフランメの背に乗せ、同じく意識を朦朧とさせてあるサローノを抱き抱えた。
息絶えてしまっていたふたり以外の守護騎士も見つけ、ギリギリマントを掴んで、どうにか脱出。
俺も必死だったから、確かこんな感じだった、くらいの記憶だが。
「あの出来事があったから、サローノ様はあなたのことを――」
「危機的状況で昂ぶった精神状態に乗っかった吊り橋効果だろ?俺は何度も勘違いだって伝えてるのにさ……」
「男の私でも惚れそうなくらいでしたから、勘違いのひと言程度じゃ、刻まれたものは剥がれ落ちませんよ」
間違った行動をしたわけじゃない。だから俺も、強く突き放すことはできなかった。
「だからってよ……あんな事しなくてもさ……」
「……深い愛のなせる技でしたね」
「本気で言ってる?」
これもまた、お互いに思い出した。
大型作戦から数カ月後。
感謝を伝えたい、と、風の元素神殿に招待された俺。
亡くなってしまったとはいえ、家に帰してくれたことを親族に感謝され、この時は正気だったサローノにも饗され、もちろんジンにも礼を言われた。
上機嫌になった俺は、うっかり酒を飲んでしまった。これがまず良くなかった。
その後、ふらふらの俺を介抱したのが、サローノ。寝所に運んでくれたことに礼を言う。俺はうっかり、その手でサローノの髪を撫でてしまった。
その瞬間に、サローノの中でなにかの糸が切れたんだろうな。俺はドゴッ!とベッドに押し倒された。
ふわりと薫る甘い風。体がしびれ、動けない。
「元素使うのはだめだろ、元素は」
「人間にも有効なのが分かって面白かったですけどね」
「いや、だから、本気で言ってる?」
幸い声は出せた。叫んだ。助けてって。
姿が見えなくなったサローノを探してたんだろう。その声に気付いて、真っ先に来たのがジン。
鼻息荒く、興奮して風を撒いているサローノと、無様に鼻水垂らして泣く俺。ジンは、その光景をしばらく唖然として見ていたな。酔って記憶が無くなることばかりなのに、この時の記憶は残っていた。
「俺も男だからな?サローノが魅力的で美しい女性だっていうのは感じてたよ?だけどさ……アレは怖いよ……」
「もったいないことを……」
「ジンちゃんのスケベ」
「羨ましいんだから仕方ないでしょう!?!?」
肯定してキレることってあるんだ?
「怖い怖いって……サローノ様から聞いてますよ?レイルさんが先に手を出したんじゃないんですか?」
「そんなことするわけな――……ん?」
よく思い出せ、俺。押し倒されたことのショックで、運ばれている最中の記憶が……モヤってる、かも。




