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42.隠していたのは

 異常な手際の良さで、俺たちが過ごす事になる休息所のスペースを準備するジン。話しかける間も与えず、そりゃもうテキパキと。


 数名で一区画、簡易的に仕切られたプライベート空間に俺たちを押し込め、


「それではごゆっくり〜」


 ボロ布でてきたカーテンをシャッ!と閉めてジンは姿を消す。


「風のように逃げていきましたね……さすが補佐、というところなのでしょうか?」

「んなところ見習わなくていいからな?」

「あははっ!ジンさん性格悪いけど、素直なところもあるんだね」

「図星刺されて逃げたのにかあ?素直じゃなさすぎだろ?」


 まさかジンがサローノの事を、ね。

 あり得ないことじゃない。思春期の頃からずっとサローノと過ごしていれば、そういう気持ちになってしまうかも知れない。


 俺だって、同じ代表守護騎士として、サローノのことは慕ってはいる。それくらい熱心に守護騎士を務めてるからな。


「俺の知らないところで三角関係作るなよなあ……はあ……」

「お師様とサローノさんとの間になにがあったんですか?」

「俺も気になる!ただの怖いじゃなさそうじゃん?」

「……君たちにはまだ早いっ」

「「え〜〜〜!ケチ!」」


 話さなくとも、会えばわかる。なんだかんだ、察しのいい子達だからな。だから……話したくない俺の気持ちも、察してくれた。


「お師様は半分だけで〜す」

「えぇ?ケチなのはソノラじゃないかっ」

「しりません〜……ふふふっ!」

「じゃ〜残ったやつは俺の〜っ!」

「あ!こら!返せっ!」


 食料の奪い合いをして、戯れるカタチで。


 この日の夕食は、食事処で作ってもらったハムサンドと果物。たったそれだけだったけど、すげーうまかった。腹八分目で、物足りなさはもちろんある。けど、なんだかすごい満たされた。


「歩きっぱなしではあったからな……ゆっくり休め」


 食べ終えてすぐにころん。お休み3秒も良いところのソノラとサラ。休息所の気温も、快適に管理されてるしな。


「さて?ジンはどこにいる、かな?」


 ランタンの明かりを絞り、カーテンの外へでる。並んでいるカーテンの先、奥の方に明かりが見えた。物書きをしている人影が布に映っている。影の形から見て、ジンに間違いなさそうだった。


 それ以外の場所からは明かり見えない。もう眠っているか、俺達以外に人が居ないのどちらかだ。なんにせよ、覗いて探すなんてことにならなくてよかった。


「ジン」

「っど!わ……レイルさんですか……おどかさないでくださいよ……」

「そんな驚き方するなんて、なんかやましいことでもしてたのか?」


 驚いた表紙に、膝に乗せていただろう紙が数枚俺の足元にヒラリと舞ってきた。盗み見るつもりなんてなかったが、手に取れば目に入ってしまうもので。


「港方面の地下道……ダンジョン……化……?おい、ジンこれは――!」

「しーっ!まだ調査中なんですよ!大きな声を出さないでください!」

「どうしてこんな……風の領域になにが起きてんだ?」


 俺の問いに、ジンは神妙な面持ちでゆっくりと口を開いた。


「先ほどの村から港町へ行くには、元素神殿(エレメテンプルム)を経由してさらに東に行く必要があります。すぐにこちら側に影響はない……と、報告は受けています」

「俺らは大丈夫だからいい、なんてことはないだろ……なんでもっと早く言わないんだ?早く向かわないと港町方面への物流が止まって――」

「あなたはそうやって、なんでも自分でやろうとするから黙っていたのですよ」


 俺の発言に被せるように発せられたジンの言葉。睨みに近い、キッと鋭く強い視線を向けられ、俺は黙ってしまった。


「誰かを選ばず、誰もを救おうとする……レイルさんのいいところでもありますが、悪いところでもあるんですよ?覚えがあるでしょう?」

「うっ……」


 直近で思い当たる節がありすぎて、なにも言い返せない。


元素神馬(エレメゴッズホース)を通して事前に協力を願い出たのは、あなたの負担を和らげるためにしたことなんです、わかりますか?」

「……わかります」


 顔を上げられないまま、俺はその場に座り込んだ。

 俺の行動の、周りからの評価。ジンの言葉だけが全てではないのだろうけど、命令と言う形をとっていることで、気を使われていたんだ、ということがわかった。


「悪い事をしている訳じゃないのですから、そんなしょぼくれた顔をしないでください?老けて見えますよ?」

「いや、なんか、すまんな……」

「いい歳をして、考えるより体が動く。その勢いに身体が追いついている珍しい大人なことは誇っていいと、私は思いますから」

「……それ、フォローしてるつもりなのか?」


 ニコリと笑うジン。信じにくい笑顔なのは相変わらずだが、その表情で和んだのは確かだ。それでも、複雑に笑い返すだけしかできない俺。

 そんな俺に、ジンは笑顔を崩さないまま話を続けた。


「私の考えではありますけど……凪を止ませることができれば、ダンジョン化も収まるのでは、と予測しています」

「可能性は……どのくらいだ?」

「80%以上はあるかとは……ので、レイルさんは、風の代表守護騎士から受けた協力の要請を、全うしていただければきっと……そうすればきっと、あなたの心に憂いも後悔も憤りも残ることなく、風の領域は平穏を取り戻せるはずです」


 確証なんてのはない。ジンの考えってだけだ。

 けど、その言葉に俺は、いつもの調子に気持ちを切り替える事ができた。

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