39.凪の現状は
どこで情報を得たのかは分からないが、ソノラとサラが乗り込んだのはこの村の守護騎士本部だった。
探す手間がはぶけたのはよかった。それに、派遣されていたのがジンだったのもだいぶありがたい。
ちゃんと応接間に案内され、飲み物まで出してくれた。ソノラとサラもちょこんとおとなしく座り、冷たいお茶を飲んでひと息ついている。
向かいの席にジンも着席し、話を始める。
「直接神殿の方に出向くかと思っていました……まさか、ひとりではないなんて……」
「さすがの俺も、そろそろ跡継ぎを決めなきゃだからな」
「跡継ぎ……?伴侶は飛び越えてですか?!」
「はい?」
ギョッとして俺を見るジン。
事前に守護騎士の『跡継ぎ』の勉強はしてるはずなんだがな?
「もしかして……わざと空けてらっしゃる?!」
「んなわけあるか!跡継ぎの意味が違う!それとこれとは別!」
「あ……あ〜、はい……そうでした……でも、なら、まだ安心ですね」
「……その安心っての、まさか、まだ?」
困ったように笑うジン。その表情で察してしまう。俺は頭を抱えた。
「そんなに嫌がらなくても……今はこんな状況ですから、前のようにはならないはずですよ」
「その話題に振っておいてよく言うよ……」
「あはは……まぁでもちょっと覚悟は必要かもです」
「もうやめて……」
そんな俺の様子を、気にしないわけがないソノラ。
「お師様?どうしたんですか?」
「いやまぁ……その、な?」
言葉にできない俺。もごもごしているせいで、心配が増したソノラの顔がどんどん迫ってくる。
困ってる俺を見て、助け舟を出してくれたジン。ソノラに向かってズバッと言ってくれた。
「レイルさんは、私の上司である風の代表守護騎士、サローノ様に……狙われてるのです!」
「「え、えええ!!!」」
泥舟だったわけだが。
あいかわらず綺麗にハモるふたり。ただでさえ立ち向かう気まんまんだったんだ。その思いに火をつけるカタチになった。
「おっさんやっぱり……無理すんなよな」
「お師様、僕たちが守りますからね!」
「うん……ありがとう……」
反論する気もなくなってしまった。こうなったらソノラとサラのふたりのパワーでどうにかなる事を願う事にする。
「ジン、聞きたいのはそっちじゃないんだ、いいか?」
「違うんですか……っ!」
「こんな事はしたくないが……燃やすぞ、その髪」
さすがに黙ったジン。俺の本気が伝わってくれてよかった。
グイッとお茶を飲み、お互い落ち着いてから風の領域の詳しい状況を聞いた。
「凪が終わり、風か戻り始め、日常が戻り始めた矢先の事でした。6日前……ほぼ1週間前ですね、神殿からほど近い場所にダンジョンが出現しました。構造は階層上昇型の塔です」
水の領域に出来た、俺たちが『浄化』したダンジョンと同タイプのようだ。相当、因縁深い喧嘩でもして、お互いに精神を病んだのかもな。ここまで同じ条件のダンジョンが出来てるなんてのは、初めて聞く。
「浄化は済んでるのか?」
「いえ……早急に対応したいのは山々なところなのですが、領域全体に再び訪れた凪の対応を優先するよう指示されています。ので……」
「なるほどな?その浄化を、俺がやればいいってことになるわけだ?」
「恐らくですが……直接サローノ様にお聞きしないことには……私からはレイルさんにお応えをお返しすることはできません」
ジンはあくまで補佐だ。ここで俺と会うことは想定してなかっただろう。俺と会うことがあれば『直接向かうよう伝えろ』、とか指示がない限りは勝手ができない。
こういう臨機応変がきかないところが、風の領域の規律の、悪い点だと思う。
「しゃあない……暑さでしんどいと思うが、歩いていくしかないな」
「そうで――……え?待ってください?まさか、地上を?」
ジンが震えて口元を押さえている。
「フランメには乗れないからな、我慢するしかないだろ?」
「水の領域からここまでならなんとかなったかも知れませんが、ここから先、凪の状態の地上を歩くのは非常に危険です」
俺とサローノの関係をイジって喋っている時とは違う、真剣な眼差しでうったえてくるジン。
「飲水なら心配ないぜ?俺がどうにかできるし!」
「僕もお手伝いできますよ〜!」
「バカを言うんじゃありません!!」
バンッ!と机を叩いて立ち上がり、怒鳴るジン。ソノラとサラは、ジンの変わりように怯えてしまった。
「お前がそこまで言ってことは、俺たちが考えてる危険の範疇の上をいくってことか?」
冷静な俺の声に、ハッとしてジンは座り直し、息を吐いてから続けた。
「驚かして申し訳ないです……が、レイルさんの言う通りです。日中の地上の温度は、今は45℃前後です。が、凪が続けば続くほど熱は逃げることはなく、上がり続けます」
「それは……確かに危険すぎる、な……」
「甘く見てました……」
「さすがに飲水どうこうじゃないね……」
通常の『凪』の期間は約5日程度。今回は、いつ終わるか分からない異常な『凪』だ。研究者から聞いた調査結果を、ジンが教えてくれた。
「あと1週間以上、このままの状態が続くのなら……生き物が住むことすらできない、灼熱の地獄と化し、地上は渇ききって……砂だけの領域と化してしまうそうです」
俺が思ってた以上に、風の領域は、危うい状態だった。




