37.暑さの先は
各元素の境界の近くには、村か町が必ずある。
明確な領土の境目、そんなものは、実はない。ここからここが水!火!って判断ができないからだ。まるで生きているように、ちょっとずつ変化してるらしい。元素神様の気まぐれかなんかだってことらしい。
ま、この世界がこの世界として成り立っているのは元素神様のおかげだからな。そんな尊い世界を、領土の範囲なんて細かい事で争い合うなんてバカなことに、力を入れるバカはいない。それよりダンジョンをどうにかしなきゃって方が重要だからな。
ならどうして、必ず村や町があるのか。
それは、ダンジョン同様、大きな境界の変化があれば、元素神様のどんな影響が出るかかわからないってのがあるらしい。だから観測はしておこうって事で、人里がある訳だ。
それを承知している俺、風の領域へ、適当なルートをとって向かっていたわけじゃない。もちろん、この暑さから早く逃れるためってのもあるけどな。
俺ひとりなら多少無茶をしたっていいし、フランメに乗ってきゃいいわけだ。
けど、可愛い弟子と、預かっている子もいるわけだからそんな事はできない。
「って事で!最短で到着っ!」
「か、風があります……!気持ちいいですぅ~」
「息苦しさも感じない……風ってすごいんだ……」
村の囲いの中に入った瞬間に、全身に風を感じた。じっとりとついた汗が、すうっと引いていくくらい、清々しい風だった。
「っと……感動するのもほどほどにして、とりあえず宿に行こう。汗も流したいし、な?」
「「さんせいー!」」
水を得た魚の様に、元気いっぱいな返事をするソノラとサラ。
「まーだあんなに走れる体力あるんだなぁ……」
「ヒ〜ンヒッ」
「ジジ臭くて悪かったな……フランメも疲れたろ?まずはお前の体を綺麗にしなきゃだな」
「ヒヒン〜ッ」
見つけた宿には、専用の井戸が付いていた。しかも使い放題だってさ。水の領域が近いからなんだろうな。宿代の割には贅沢だって思った。
「おあずけだった水遊びでもするか?」
「べ、べつにあそびたかったわけじゃないもん!」
「僕は遊びたいですけど、フランメを綺麗にする方がだいじです!」
井戸から冷たい水を汲み上げ、3人揃ってフランメの体を労う。慣れてしまってる俺の手はともかく、ソノラとサラにも体を磨かれ、くすぐったそうだが、嬉しそうにしているフランメ。
「気持ちいですか?フランメ」
「暑い中荷物運んでくれてありがとうな、フランメ」
「ンッフッヒィン」
俺達ですら汗だくだった道中だ。3人分の荷物を背負ったフランメは、もっと大変だったろう。それに、俺は知ってる。
そっとフランメの耳元で、礼を言った。
「俺たちの熱を吸ってくれてたろ?あんまり無茶するなよ?お前が倒れでもしたら――……あ〜……とにかく、ありがとうな」
「……ンヒ」
「なんだよその反応」
火は熱をもつ、その熱は火のように熱いもの……そんな概念がある。だからこそ、出来ることがある。
体内にあるその熱を、フランメは奪い、ソノラ達には分からないように和らげてくれていたんだ。
照れてるのかなんだか知らないが、ぷいっと顔を背けられた。あいかわらず素直じゃない。
「よし!だいぶ冷えたんじゃないか?あとは拭き取れば……うわ?!」
「「わきゃ〜!」」
ブルルっと全身を震わせ、体を濡らしていた水を吹き飛ばしたフランメ。図らずとも、水遊びのスタートになった。
「やりましたねフランメ〜!」
「びしょ濡れじゃん!こうなったら……うりゃ!」
「こ、こら!宿の人におこらぶふっ!!……やったなー!!」
「ヒヒヒ〜ン!」
年甲斐もなく、はしゃいでしまった。
桶の水をかけあって、井戸の周りが水浸しになるまで遊びまくった。
こんな風に、無邪気に『楽しい』って感じたのはいつぶりだろうか。そんなこんなで小一時間騒ぎまくった結果。
「……すみせんでした、片付けます」
「「ごめんなさい……」」
流石に怒られた。
けど、その片付けも、楽しかった。
水を掃き出して、地面を慣らして……なんてやれば、結局泥だらけになるだろ?変な顔って、笑いあって、本当に楽しかった。
「とりあえず今日はゆっくり休んで、朝イチで守護騎士に……って聞いてるか?」
「そうですね……歩きつかれました、し……」
「ソノラは遊び疲れたんだろ?ふあ〜あ……」
「それはサラちゃんさんものくせに〜」
宿にある食事処で夕食を食べながら、明日の話をし始めてすぐだった。
モグモグ口を動かしてはいるものの、まぶたが重く下がっていくソノラと、あくびの止まらないサラ。
この様子だと、朝イチってのは、難しそうだな。
「まったく……あんなにはしゃぐから……んふぁ〜……あ」
「お師様もおねむですね〜」
「サラのがうつったんだよ!」
「俺のせいにするなよなっ」
正直俺も、食欲よりも眠気が勝ってしまっているのは本当だ。とは言え、残すのは失礼だからな。ちゃんと皿をきれいにしてから、食事処を出た。
「俺が起こしに行くから、それまでゆっくり寝てていいからな?」
「「ふぁ〜いおやすみなさい〜」」
「おう、おやすみっ」
それにしてもソノラとサラ……この短期間で、息が合いすぎじゃないか?




