36.その暑さは
風の領域がどんな場所なのか、風の代表守護騎士がどんな人物か。聞き終えたあとは、ふたりとも不安そうな顔をしていた。
「ま、なんとかなるよ。フランメから俺達が向かう事を知らされてるんでしょ?だったら雑な扱いはされないんじゃね?」
「そうですよ〜!お師様が、遊びに来ちゃったよ〜!って言うのとはわけが違いますからね!」
「う、う〜ん……そうだといいんだがなぁ」
すぐに楽しそうに笑顔で話し出す。
なるほどな?これくらい怖いもの知らずじゃなきゃ、あんな無茶な事はしないか。
「なあフランメ……彼女は、いつも通りなんだよな?」
「ヒンヒン」
「俺が行くことを伝えても、いつも通りなんだよな?」
「……」
「なんで返事しないの?」
ソノラとサラのワクワク楽しい旅の気分が、台無しにならない様にするには……俺の行動次第。それを教えてくれる、フランメの沈黙だった。
***
水の領域を、風の領域へ向けて歩き出して3日。
野宿も楽しいキャンプ気分で滞りなく、道中も暴れる野生動物に出会うこともなく穏やか。順調に進めて何よりだった。の、だが。
「む、むしあついです……」
「おっさ〜〜ん!どうにかしろ〜〜っ」
「俺がなんかしたら熱くなるだけだぞ!どうにかしに行くんだから、少しだけ我慢しなさいっ」
後半日も歩けば、風の領域との境界に着くだろう。本来なら、涼しい水と、爽やかな風が合わさり、快適極まりない最高の環境を生んでいる別荘が多く建ち並ぶほどの、避暑地のような場所なのだが。
「砂漠地帯も有しているからな、通常通り風が流れていれば、その熱気を海側に逃がしてる。それが無いんだ。ただただ熱が溜まっていくだけ……」
聞いていた通りの、凪の影響がで始めていることを、俺たち全員、全身で感じていた。
飲み水には困ることは無いが、さすがの暑さに足取りが重くなっていく。
「境界でこれなら中心地に行ったらもっとヤバいんじゃ?」
「ひっ……サラちゃんさん、そんな恐ろしいこと言わないで下さい……」
わざわざ熱へ向かって歩いているんだもんな、そう考えるのも仕方ない。そんなふたりに、俺は朗報を伝える。
「たぶんだが、神殿がある都市内は……ここまでの暑さにはなっていないと思う」
俺の発言に、疑いの眼差し。だが、これは信じてほしい。
「風のところは、部署がしっかり分かれてるって話したろ?こういう緊急事態に対応するところもあるんだよ」
「それがなんで、暑くないなんて言えるの?」
「領域全土ってまではさすがに無理だろうが、民の居住がある場所に限り、風の流れを起こして熱を逃がす守護騎士が派遣されるんだよ」
「なるほど……24時間体制で、守護騎士フル稼働で、みんなの生活を守ってるってわけですね」
道中の灼熱地獄は変わらないが、町や村に辿り着けばなんてこと無い。事前に説明しておいて良かった。ソノラもサラも、納得してくれた。
「でも待って?おっさんはなんで知ってた?凪?ってやつ、頻繁に起こってるの?」
サラは鋭いな。緊急の対応とは言ったが、急にこんなことがあれば大体混乱する。その対応が、スムーズに行われていること。それを、俺が知っていると言うことは、だ。
「年1で一定期間、大体ある」
「な、なんだよ〜〜……なら平常運転?急ぐこと無いじゃん」
「そこの川で水浴びします?」
「いやいや、急ぐべき急ぐべき!」
冷たい川のせせらぎに誘われ、寄り道しようとするふたりを止める。
「その年1が終わった後に起きた凪なのっ!だから急がなきゃなのっ!代表にお説教されるのが嫌だったら顔洗うだけに我慢して!ほら!いくぞ!」
気を許してくれているから見せてくれているだろう、素の姿。急務がなきゃ、ここでキャッキャッしながら水遊びしてたよ、俺だって。
代表の事を口にしたおかげか、歩いてくれてはいるが……さすがに体力が持たなそうだ。
「一気に都市まで……ってのはさすがに厳しいな。境界近くの村で休んでいくか」
「そ、そうしましょ〜」
「風の守護騎士も派遣されてるなら話も聞けそうじゃない?」
「だな!そうと決まれば……ゆっくりいこう……」
サラの言った通り、情報収集を目的とすれば、ただの寄り道にはならない。代表に問い詰められても、正当な理由で村に立ち寄っていたこととして、報告ができるしな。
それから数時間、暑さに唸りながら気合で境界を越えた。
越えたら越えたで、越える前よりも、ひどい暑さと熱が俺達を襲ったわけなのだが。
幸い、まだ草木が枯れ果てているようなことは無く、ありがたいことに、道にかかるように日陰が出来ていた。
「これが続いてしまうと……この木も、草も、花も……無くなってしまうのでしょうか……」
「元々乾燥地帯ではあるから、そこまで弱くはないはず……でもそうだな?人だけでなく、領域全部、守ろうな」
「はい!」
急激な環境の変化は、自分の体も辛いはず。そんな中、他元素の事をそんな風に気にかけ憂う事ができる。なんて、自慢の弟子なんだろうか。




