32.お似合いの
女性の買い物に付き合うのはあまり好きじゃ無かった。これは似合うか?とか、あれとこれはどっちがいいか?とか。
俺はそんな事に興味がないから、好きな物を買えばいいし、好きな方を選べばいいと答えていた。
別にデートでも無かったから余計にな?そんなだからモテないのだと、怒られるだけだったし。不快だった。
だが、今目の前で報酬をひとつひとつ手に取って、選ぶソノラとサラを見守っていると……その時の俺の態度が完全に悪かったのだとわかった。
「ね、ね、お師様!これはどんなものですか?」
「父さん、聞いてもいい?こっちとこっちの違いってなに?」
俺もクロンも、デレッデレになって事細かに説明して、教えてあげる。
そりゃそうなるだろ。キラキラ輝くかわいい笑顔がふたつ並んでキャッキャッしてるんだぞ?緩むに決まってるだろ。
「どうだあ?ふたりとも、決まりそうかぁ?」
自分でもこんな声が出るのかと、驚いてる。
真剣に悩むソノラの顔が可愛いったらない。
「とっても迷っちゃいます……このフードか、こっちのお薬か……」
「なんでまた、薬を?」
「クロンさんの件もありますし、お師様になにかあった時のために……って」
自分の為になる物を選んでいいのに……なんて優しい子なんだ。
「俺はクロンみたいに見境なくなんでも口にはしないから、安心しなさ〜い?」
「見境ないは余計だぞレイル」
聞こえるように言ったのがバレ、睨まれたけど気にしない。
フンッと笑顔で返し、ソノラが迷っていたフードを手に取り、そっと被せる。
「うん、よく似合う」
「お師様……」
「完成された遺物は、元素神様直々の力が込められている貴重な贈り物だ。ソノラを確実に守ってくれる……俺は薬より、こっちの方が嬉しいよ」
「はい!では、これにします!」
キュッとフードを握り、ソノラは満面の笑顔で応えてくれた。なんて幸せな気分なんだろう。こんなに心が温かくなったのは初めてだ。
「本当に……いいのか?」
「うん」
サラの方も決まったかな?
「おいそれは……」
「イヤリング型の気付け薬、俺はやっぱりこれがいい」
「でもな……片方だけだし、こっちのスカーフとか、手袋なんかの方がやくにたつだろう?ダメなのか?」
クロンを眠りから覚ました、あのアイテム。他に有用な遺物がたくさんある中で、それを選ぶとはな。
「うん、ダメ……空の方は、父さんが持ってほしいから」
「サラトガ……」
そう言って、片耳にイヤリングを付けるサラ。小さな飾りではあるが、動くたびにゆらめく、不思議なイヤリングの輝きは、サラをほんの少し……大人びて見せる。
「今生の別れじゃないけどさ?離れてる時間はきっと寂しくて心細く思っちゃうでしょ?だから、その気持ちも半分こってこと……はい、父さんの」
もう片方を受け取り、クロンはプルプルと震えだした。
「サ、サラトガぁぁぁ……」
ま、そうだよな。俺でも泣く自信がある。
「も〜……恥ずかしいよ〜」
「もうさみしいよぉぉぉぉ」
サプライズは失敗したが、無事にプレゼントは渡せたわけだ。
ソノラが選んだのは、『清流のフード』
これは何点か以前にも出ているらしく、クロンが詳細を知っていた。元素の力を安定させ、水の元素神様の守護を併せ持つ一級品。白い生地に、青い糸の刺繍がされているデザインも、主張が強くなく、さわやかで色んな洋服に合わせやすい。今のソノラにぴったりな遺物だ。
本来なら、塔で出た報酬からも選べるのだが……流石に問題だらけの異例の結果が出てしまった報酬を選ばせるわけにはいかなかった。
「そろそろ仕事するぞ、クロン?」
「うっ……ぐすっ……わがっだ」
「やっぱり可愛らしいですねっ」
「ソノラ……俺が泣いてもそう思うか?」
「それはノーですね」
俺とクロンのなにが違うって言うんだ……。
夜も更けて来た。興奮冷めやらぬソノラとサラだったが、寝るように言いつけ、退室させた。
俺とクロンもできれば休みたかったが、わずかに残った仕事を片付けにかかる。
「クロンさん、朗報ですよ」
「なんだ?気持ち悪い言い方をして」
「いいから来いって」
報酬の梱包も無事完了!ってことで、クロンを誘って外に出る。
馬屋に顔を出し、フランメに預けていた大荷物からあるものを取り出す。
「渡しそびれてたんだよな〜……っと!どうだ?サラには内緒で」
「仕方ないな」
中庭に向かい、適当なところに腰を下ろす。
水の音と涼やかな虫の音に耳を澄ませながら、キュポっと栓を開ける。
「お口にあうかしら?」
「さっきからなんだ?気持ち悪いな?」
「酌をするのは女の方がいいだろ?」
「こんなむさ苦しい女がいるもんか」
小さなグラスに注ぎ入れ、静かに乾杯をする。
「……キッツ」
「確かに少し強いな?大丈夫か?」
「あとは全部お前のな!」
「ふっ……ありがたくいただくよ」
俺は酒は得意じゃない。けど、今晩は……クロンと一緒に飲みたいと思ったんだ。そんな俺の気持ちを分かってくれたクロン。夜遅くまで、付き合ってくれた。




