30.神の啓示の
クロンとサラも、帰り道ふたりで過ごす時間は、有意義な時間だったみたいだ。神殿に着いた時のふたりの顔を見れば、それがよくわかった。
「さて、クロンくん。どう記すのかね?」
「代表守護騎士が先頭に立って出向いたことをいいことに、俺に全部やらせようとしているな?」
「ははは〜まさか〜……睨むなよ、やるよ……」
代表なのは俺も同じである。ので……結局帰ってすぐに書類を片付けることに。
「サラ、ソノラと一緒にいてくれ」
「うん、わかった。ふたりで夕食作るよ」
「お師様、クロンさん、がんばってくださ〜い」
夕日を浴びながらの帰り道だった。神殿に到着する頃にはちょうどよく日が沈んで、夜になっていた。
笑顔のソノラとサラに見送られ、クロンの執務室に向かう。
抱えていた新たな報酬を一箇所にとりあえずまとめて置き、クロンは引き出しから新しい申請書類を出して机に並べた。
「……」
書面をふたりで覗き込む。
筆を持ったまま……ふたりで固まる。
「レイルよ……」
「なんだクロン」
ゴクリと唾液を飲み込み、クロンは苦しそうな声で言った。
「こ、これ以上虚偽の申告をしなければならないのか……と……思うと……」
「まあ……なんだ、職権乱用も良いところだからな……」
「それに……説明のしようがない事実がある……」
隠しようがない。隠そうとしても、無理。
俺とクロンの視線は、報酬に向けられる。
「詳しい鑑定をしなければ、正確な情報を得られ無いだろう。だが……この遺物に関しては……もう無理だ」
ひとつの鉱石を拾うクロン。加工がされていない、大きな原石。ゴツゴツとしているが、ぱっと見でもわかる透き通った輝きを見せるダイヤモンドと、豊かな草原を思わせるエメラルド。
どっちとも、水の元素の領域でもたらされる報酬の内容ではない。
「出現場所も境界線付近でもないしな……う〜ん」
混ざり合う事もあり得ない。
元素神の気まぐれで、あり得ないことではないかも知れない。喧嘩が原因だとしたら、勢いで変な所に出ました、なんてこともあるかも知れないが。
そんなこと、神のみぞ知るってやつだしな。
「……え」
「レイル?」
耳元に熱い吐息の様な、囁きを感じる。
「謝罪なのか?それなら、ふたりを守れるが……でもお前は……」
『私の声なら、私のしたことなら……元老院は納得するでしょ?文字や記録を残す為の人が決めたルールなんて権力のある者の名を出せば黙らせられるわ』
我が愛馬ながら、とんでもないことを言いなさる。でも確かに……俺やクロンの名だけでは、正当な理由を書き記しても呼び出し確定だ。
『私がこうするのは、ソノラちゃんとサラちゃんの為。それと……元素神様がね?風の元素が割り込んできた理由を自らの目で見て、確かめなさいと啓示なされたから』
フランメの独断ではなく、元素神からのご命令ということか。人のルールどうこうの言い方はともかく、啓示自体は本当なのだから、問題は無いってか。
「わかった、そうさせてもらう……ありがとうフランメ」
「フランメと話してたのか?彼女がこんなに長々と珍しいな」
「それだけ重要なお話だったわけだクロン、あのな――」
クロンにフランメとの話の内容を伝える。驚いてはいたが、納得をせざるを得ないと、唸りながらも書面を文字で埋めていった。
「元素のおかげで生かされていることを、忘れるなともとれるな」
「持ちつ持たれつではあるけどな……どれかひとつでもこの世界から消えてしまえば、人は生きることはできはしない」
「『その目で確かめろ』か……なら、ここを出たら風の元素神殿を目指すのか」
「どこどこに行け、とは言って無かったが……異例の要素に風が含まれているなら……とりあえずは行ってみるしかはないだろうな」
暇を利用して、のんびり旅をするつもりではいた。
理由なく世界を回るにしても、今いる水の領域から近い風の領域に向かうのが順当。
その間で、弟子を見つける……これはもう、達成済み。
「心休める旅ではなくなったなあ」
「啓示であるのなら、仕方あるまい……現場を見ていたサラトガも、その啓示の力になってくれるだろう」
「ソノラとサラ……可愛いふたりがいれば心は満たされるか……」
「変なことするなよ、絶対に」
なんだよ、変なことってのは。
睨むクロンに危ないことはさせない、しないと約束。一応怒りは収まったらしい。
フランメのおかげで、時間がかからず書類仕事は終えれた。ひと息ついて報酬の確認をするか、と話をしていたところに響くノックの音。
「お師様〜クロンさん〜はいりますよ〜」
「軽食だけど……あれ?もう終わってる?」
「いや!まだある!」
「ちょうど休憩するところだったんだ、ありがとうサラトガ」
タイミングよく、サラとソノラが夕飯を持って部屋に来た。
可愛いお皿に盛られたサラダ、ピラフ、ソテーされた香ばしいチキンのワンプレート。
「サラ、いい奥さんになるよ」
「俺は男だよおっさん」
勘違いもしたくなる、そんな飯だった。




