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29.帰路の

「キュルル〜」


 目を開けると、目の前でディーネが俺たちの無事の帰還を喜んでくれていた。


 背後の塔はズズズッっと土煙を上げながら沈んで消えていった。いつも通り、ダンジョンが消えた直後に降り注ぐ光と共に、どちゃっと報酬があらわれる。


「これまた……えらいもんだな……」

「俺もここまでのモノはさすがに……」


 今回は、量というより、質……に寄っているみたいだ。


「きれいなローブですね〜」

「この靴かっこいいな……」


 全員で持てるものを持つ。持てるものというか、気に入ったものを手に持ってもらっている。小間物はディーネが水の玉にまとめて運んでくれるらしい。


 ディーネにクロンとサラ、フランメに俺とソノラで別れ、神殿に向かって飛び立つ。


 少し距離を離して。


「ソノラ」

「なんですか?お師様」


 フランメに乗ってご機嫌のソノラ。少し伝えにくい雰囲気だが、このモヤモヤした気持ちを吐き出したかった。


「今は、俺やクロンの様な守護騎士が付いて行動をしてるけどな……修練を終えた後は、そうはいかなくなる」


 指導次第ではあるだろうが、念を押すに越したことは無い。


「なぁなぁにしてしまったが、責任を持って行動をする意味を、ちゃんと心に刻み込んでおいて欲しい」

「……はい」

「まあ……偉そうに言ってる俺も、ソノラと出会って、サラと出会って……その意味を深く思い知らされてるところなんだけどな?俺は今更を感じて、今までの俺を恥じて後悔をしてるんだ」


 独り身だった弊害と言うべきか、ただ単に俺がお気楽すぎただけか。どちらもかも知れない。守護騎士に囲まれて生きてきたから、守護騎士を志そうとしている命を預かる事の重さ。その意味を……本当に、今更。


「大丈夫です、お師様」


 後ろでしがみつくソノラの腕が、キュッと強くなった。


「僕、そんなお師様の強さと優しさをわかってます。僕たちのこと、すごく心配してくれてるから、怒ってくれるんだって」

「ソノラ……」

「それくらい、ちゃんと向き合ってくれようとしてくれるお師様のこと大好きです。だから、ちゃんとその思いと願い、継いでいきます」


 顔を見られなくてよかった。うるっときてしまった。


「じゃ、じゃあ……もう突発的に飛び込んだり、無茶なことは絶対にしちゃダメだぞ?約束な?」

「う〜〜ん……」


 あれ?この流れで、返事渋るか?


「それはちょっと了承しかねます」

「なんで?!」

「だって、もしお師様の身になにかあった時……無茶できないじゃないですか」


 そこまで俺はおじいちゃんになった覚えはないが。俺の返事を待たず、ソノラは続ける。


「お師様の無茶を止めるには、僕も無茶しなきゃじゃないですか?だから……絶対は、ないのです」

「うっ……俺、そんな危なっかしいか?」

「はい!」

「ヒヒ〜ン!」


 ソノラの元気いっぱいの肯定に、フランメものっかって鳴いてる。味方はいないらしい。

 それに……悔しいが今までの行いに覚えも、まぁ……あるのがな。


「精進します……」

「ふふふ!お師様と僕の、師弟の関係!バッチリですね!」


 そうだった。ソノラと俺はお互いに学び合う。そんな関係を築いていこうと約束したんだ。


「まだまだ学べることはたくさんあるもんだな」

「お師様でそうなら、僕はもっともっと沢山のことを学んでいけるんですね?」

「ああ、世界は広いんだ。ダンジョンだけじゃなく、いろんなところに行って、いろんなものをみて……新しい発見を、たくさん見つけていこう」


 俺の体にしがみつく、小さな体の温かさ。俺が守らなきゃいけない、命の温かさなんだ。


 安全なところで待っている。そう思っていたから。


 飛び込んできたソノラを見た時、かなり肝を冷やした。

 クロンも同じだっただろうな……まぁ、クロンの持つ親心からの驚きと恐怖とはちょっと違うとは思う。

 けど、あの瞬間……目の前にいるのに、俺の手が届かなかったら。そのままなにも出来ず、ソノラに万が一のことが起きていたら。


 そう考えて……本当に、怖かった。


「(不自然な横入りができたこと……本来なら弾かれるはずなのに)」


 ソノラと出会ってから普段ならありえない事が多く起こっている。それがソノラの持つふたつの元素の影響なのか。それとも――。


「お師様、いろんなところに行くとのことですが……火の元素神殿(エレメテンプルム)には戻らなくて良いのですか?」


 そういえば、それも悩みのひとつだった。


「だいたい半年くらいかな〜とは伝えてはあるんだが……帰ったら帰ったで缶詰めになるだろうしなあ」

「ダメなのです?」

「多分帰った後は……ソノラと過ごす時間は、修練の時間だけになる」

「え!!!なら帰らない方がいいです!」


 元々、計画を立てて出立したわけじゃないが。

 こんなあっさり即答されると、悩みのひとつにしていたのが馬鹿らしくなってしまった。


「ふっ……あっははははは!そうかー!帰らない方がいいか!」

「はい!」


 簡単に、ふっ飛ばしてくれるなんてな。弟子だからじゃない。ソノラだから、なんだろう。

 こんな調子で過ごしていければ悩みなんて無くなるんだろうが……世の中そう、上手くはいかないんだよな。

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