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28.聖なる水の

 部屋全体に水か満ちていく。クロン自身も水の中。

 普通なら息ができなくて、苦しむのだろうが……そこは元素様々なんだろうな。逆に心地よさそうにしてる。


「ギッ!ギギイィィイ!!」


 竜巻のおばさんの方は……ま、なんとかギリギリ飲まれてないってところか。竜巻で弾いてるというよりは、水を巻き込んで渦潮を作って本体だけをなんとか守ろうとしてる。

 とはいえ……竜巻の回転でできた渦は、クロンにも影響が出て始めてる。水の流れが巻き込まれ、立っているのがちょっとしんどそうに――。


「レイル、見てないで終わらせろ」

「あ、やっぱ俺?いいのか?」

「十分その気だったろうが……圧をかけるぞ」


 なんて呑気にしてたら、水圧を強めるというクロン。

 どういう原理かは分からないが、水自体が重く圧縮されてる……らしい。受けたことがないから分からないが、分かりたくもない。圧なら、言葉だけで十分だ。


「おい、ばあさん」

「ギャッ!ギギ!!」


 上から声をかけると、汚い声で返事をしてくれた。ばあさんじゃないって怒ってんのかね?


「そんなに文句言うなら、もっと潤わせてほうがいいぜ?」


 ギロリと睨まれた。俺に気を取られたおかげか、俺の言うとおりにしたのか、竜巻の回転速度が落ち込んだ。

 内側に水が入り込み、ばあさんの体に潤いが満ちていく。


「おいクロン!!美女になったぞ!!」

「……なにを言ってるんだお前は」

「すごいな!水分ってのは!」

「感心してないでトドメを刺せレイル。美女に食われるのは本望かもしれんが、相手は魔物(モンスター)だぞ?腹上死ではなく、腹を裂かれて死ぬだけだ」


 俺だって誰でもいいわけじゃない。

 目の前の婆さんが金髪のナイスバディの美女に変わったとしても、魔物(モンスター)か人間かの分別ぐらいついてる。


「わかってる……って事で、せっかく生まれ変わったところ悪いが」

「ギッ?!」

「さよならだ」


 足場の【焔式】を蹴り、飛び上がる。滞空時間はわずかしかない。瞬時に元素を練り上げ、右手に力を込める。真上から飛び込み、ボスの頭をその手で掴んだ。


「【躍動する(エル・)灼熱の核熱(ディアブロ)】」


『攻撃法』を唱え、腕を屈伸させてすぐに【焔式】に戻る。


 触れた瞬間はなにも感じなかっただろう。だが、段々と感じてくるはずだ。


「ッ……ギィギッ?!ィィィイイイイ!!」


 内側から焼かれる熱さと痛みに。


「あいつなんてもんを……フランメ!すまない!俺も入れてくれ!」


 水の中を走り、滑り込むようにソノラ達がいるフランメの保護膜の中にはいるクロン。


 俺を見捨てた訳じゃない。俺の『攻撃法』から逃げたんだ。

 それもそうだ。【躍動する(エル・)灼熱の核熱(ディアブロ)】は、単純に火を巻き起こすだけの『攻撃法』じゃないからだ。


 クロンが逃げ込んだ直後、ボスの体の内側から熱線がひとつふたつと発せられていく。満たされた水にも刺さる。刺さった熱線は消えることなくその場に留まり、水を沸かせボコボコと沸騰させ、蒸発させていく。


 そして、ボスは内側から焼かれ、爆発四散。


 その爆発で、部屋中に満たされていたクロンの水は跡形もなく蒸発して消えた。


「ナイス回避」

「バカか!人がいるのにそんなものを使うな!」

「だってよ、せっかく出した【焔式】は使えないし、竜巻の中にご一緒なんかしたら体が切り刻まれるだろ?」

「それは……まぁ……」

「俺はお前の攻撃法に合わせた攻撃法を駆使したまで……俺はクロンの力をリスペクトしてるんだがな〜?」

「まぁ、なんだ……浄化を済ますか」


 文句ばかり言うより、前向きに捉えて欲しいものだ。


「頼むぜクロン」

「ああ」


 フランメは保護膜を解いた。クロンに続いて、ソノラとサラも階段から上がり、『浄化』を見守る。


「我元素神(エレメゴッズ)に血と魂を捧げし従者なり――『澄み清められし聖水』にて、蝕む穢れを討ち祓わん――……【神を癒し清める光(アル・ディラ)】」


 かすかにくすぶり残ったボスの破片が、ひとすじの水の流れに巻き込まれ集まっていく。水の中でその破片はシュワシュワと溶けていく。


 水とひとつになった『障り』は、大きな雫となって落ち、波紋を作って染み入るように床に消えていった。


「お師様のと違って、なんだか洗われるような静かな浄化なんですね」

「はじめてみた……父さん……やっぱりすごい」


 ふたりともクロンに見惚れてぼーっとしている。


「こらこらソノラ、俺がまるで大雑把にやってるみたいに言うんじゃな〜い」

「あ!違います!お師様の浄化はこう……派手でドヤっててカッコいいってことです!」

「……ありがと」


 ソノラよ……あれは火の元素の『浄化』であって、俺だけじゃなく歴代の守護騎士がやってきてるんだ。それもちゃんと教えていかなきゃだな。


「のんびりしてる場合じゃない、急げ」

「だな、集まれ、脱出するぞ」


深層洞穴型(しんそうどうけつがた)』同様、『階層(かい)上昇型(じょうしょうがた)』ももちろん『浄化』が終われば崩れていく。


 もし取り残されでもしたら、一大事だからな。


「さ、目を閉じて……」


 昔々の大昔……脱出できなかった守護騎士は、帰って来なかった。そう、言い伝えられている。

『浄化』をする為の攻略ももちろん大事なのだが、脱出をいかに迅速に行うかの方が大事だ。


 村のダンジョンで俺がフランメに怒られたのも、当然のことなんだ。

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