27.消えた水の
上層に気を取られているわずかな時間。壊された壁の穴が瓦礫を集め自然に修復されていた。
内部の戦闘で破壊された場合でも同じ様になるが、外からの衝撃でも同じ様になるらしい。これは学びになったな。
「ふたりとも」
ソノラとサラを並ばせ、大人しく見ている様に!と、俺とクロンでしっかりと言いつける。
「今度こそちゃんと見ててくれよ?フランメ」
「ヒンッ!!」
「うん、良い子だ」
風は吹き続けている。追い返そうとするような強い風じゃないのが、気持ちが悪い。クロンも同じ様に感じているらしく、険しい顔をしてる。
「臨機応変って事で、俺も参戦させてもらえるかなクロンさん」
「それはそれはありがたい……だが余計な手間はかけさせるなよ」
こんな状況だからこそ、いつも通りの掛け合いをして気合を入れる。
「かっこいい……」
「かっこいいです……」
それのどこがかっこいいのか分からないが、そんなキラキラした目を向けられると……なんだかこっ恥ずかしいやり取りなのか?なんだか顔が熱いな。
「集中しろレイル」
「わかってる」
9階層は罠もなにも無い、まっさらな部屋だった。うえに上がる階段にも、1階層であったような幻惑すらない。
恐らく、元素の環境変化が起こって元々あった障害が機能しなくなったのだろう。
進みやすくなったと言えば聞こえはいいが、その分の障害が最上層に吸収、集約された可能性が高い……とも言える。
最上層に一歩。足を踏み入れたところで、俺とクロンは武器を手にする。
「かっ、かっこいい」
「お師様激シブですっ」
「……アヒン?」
俺の【焔式】がカッコいいのは分かってもらえてるようで安心だ。ま、サラの視線は俺じゃ無かったけど、仕方ない。
「頼むぞ【蒼星の大槌】」
透き通る空のような、その空を映した水面の輝きのような。美しい水色に銀の細かい細工が施された、クロンの上半身が隠れるくらいの大槌。
「あいかわらずデカいな?」
「このサイズの遺物の鉱石から切り出した加工武器はなかなか無いからな……羨ましいか?」
「前から言ってるけど、俺は大きさより使いやすさなの。そんなもん、お前にしか使えんし」
「はっはっはっ!」
軽々と片手で大槌を回し、構えを変えるクロン。見た目通りの重さのはずなのに……馬鹿力が過ぎるぜ。
「よーしお前たち!階段からでないよーーに!」
「「はーーい」」
可愛く揃って手をあげて、よい返事だ。
「クロンどうしよう」
「なんだ?」
「すごく心があったかくなってるんだよ〜……愛かな?」
「……しらん!が、サラトガはその変な愛の対象から外せ」
「それはなぁ……認めてもらうために、ひと肌脱がなきゃだな〜」
「本気でやめろ!!」
クロンに笑いかけ、床を蹴り飛び上がる。空間に向かって【焔式】を振るう。すると、ゴオッと風に煽られ、ひとすじだった炎の軌跡は大きく天井にまで火柱をあげた。
なにかを切った手応えは無い。だが、なにかになってもらう為の布石にはなっただろう。
「まったく不思議なものだな」
「それは……どれのことを言ってんだ?」
「そうだな……まずは」
俺の炎を消しながら、風が中央に集まっていく。小さな竜巻が室内に出来上がっていく。
「お前に弟子がができたこと」
「不思議とまで言わなくても……」
竜巻の中に、徐々に本体が模られていく。ほとんど骨と皮だけの、髪が逆立っている老婆だ。
「そんなお前と、その弟子を連れて、ダンジョンの浄化の為に共闘をしていること」
「それは俺もわかるわ!まさかのって感じだよな」
カラカラに干からびてるミイラみたいな見た目。目玉は無い、黒い空洞がポッカリと空いてる。なのに、俺とクロンをしっかりと見て睨んでるってのが分かる。
「後は……水の元素のダンジョンのはずが、風の元素に変わった異常事態ってところか」
「……俺に対しての不思議と同じレベルなのか?」
声とも言えない声を上げ、竜巻の老婆が巻き起こした複数の細長いつむじ風が、俺たちを襲う。
避けたことで、お互い離れてしまったが、
「それだけ一大事ってことだ!」
「気にかけてくれてるってことにしといてやる、よっ!」
クロンは俺に向かって叫びながら、大槌をくるくる回し水の元素を纏わせていく。俺は巻き込まれないよう、壁に【焔式】を差し、少し高い位置に上り待機する。
「フランメ〜頼んだぞ〜」
「ヒィン〜」
俺の呼びかけで、フランメは蹄鉄をカカッと鳴らす。シュワッとフランメを中心にして薄い膜が展開され、ソノラとサラを包んだ。
「フランメこんな事も出来るんですね!すごいです!」
「元素神馬直々に守ってもらえるなんて……ありがとう、フランメちゃん」
「ヒン!?」
サラにちゃん付けされたのが嬉しかったらしい。薄かった膜がゴリッと分厚くなった。俺としか過ごしてないからな、嬉しいって反応が極端に表に出たみたいだ。
「風は水の中でも流れるかな?」
振り上げた大槌を床に叩きつけるクロン。グワンっと大きく空間ごとたわみ、大槌から大波が溢れ出す。




