25.真相の
「や〜おつかれおつかれ!問題なく上がれそうだぜ?」
「そうか……しかし、あまり気持ちのいい倒し方では無かったな」
手を握ったり開いたり……水からなにかが死に絶える感触が伝わったとクロンは言った。
見ての通り、クロンは筋肉隆々の武闘派な人間だ。その拳で……とまでは無いが、正々堂々と戦うことを好む。だからなのだろう、一方的に水責めをして窒息死させてしまったことが不快極まりないんだ。
「俺からすれば、気持ちの良い倒し方なんてどこにもないと思うけどな」
「まあ、な……進もうか」
腕っぷし云々より、今は入り口での歓迎でわかった塔の傾向に、頭をひねる必要がある。
「こりゃ幻惑系か?」
「基本そうだろう……レイル、お前の出番はないかもな?」
「それはそれでありがたいさ。ま、なにかあったらお前を連れて無事に帰るって役目だけはやらせてもらうがな?」
「はは!そんなことも、させはしないさ」
なんて、お互い軽口を言い合いながら階段を上がっていく。今度は問題なく、たどり着いた。
作りは同じで、階段が逆側にある。
変わったところは、ない。
「同じ、か?」
「そんな単純な理由はないダッ!!」
「……大丈夫か?」
「だいじょぶら……見えない壁か。なら先ほどと同じく、水をまとわせれば道すじが見えるだろう」
先ほどと同じく、クロンが水を部屋に充満させる。と、いっても、見えない壁にまとわりつかせると言った感じだ。
「さっきよりも水の中にいるみたいで面白いな」
「我ながら、美しいと思うよ」
「……なら、そんな顔すんのは違うと思うがな」
「……」
ふと思い出す。
水の元素の暴走で死に絶えた人がいること。
詳しく知らない俺が気付いたんだ、クロンがどんな気持ちでいるかなんてわかりきってる。
「サラを連れて行くのなら、これだけは知っていて欲しい」
そう言って、クロンは自分の奥さんの話をしてくれた。
サラがまだ3歳の時、高熱を出して倒れた日があった。熱程度なら、水の元素使いなら自分の中の元素を使って冷ますことは簡単なのだな、その時はまだ幼く、元素の力の使い方なんてわからない時だ、そんなこと出来るはずはない。
「……それに加え、その熱はサラの元素に悪さをした」
『治癒法』の拒否反応。誰がなにをしても『治癒法』がサラの体に沁み入ることは無い。
「間が悪いことに、ダンジョンの出現で俺は発たなければならなくなった。それも要因だろう、補佐だった妻は、代表守護騎士の目が届かない今なら……そうでなくとも、母としてできうる限りを尽くす気で……治癒法をサラに施した」
だが、その『治癒法』が、サラの拒否しようとする元素の力と反発して奥さんを飲み込んだ。
サラの中の水の元素から熱が引いたのは、その時サラが見た、母が苦しみ、水の中で動かなくなってしまった恐怖で、心が冷えていったから。
「まて……俺がサラから聞いたのは、攻撃法で母ちゃんがって……でも、それじゃ」
「なんてことだ……俺は、母への思いの強さ故に治癒法だけしか使えないのだと……」
静かに揺れ輝く水面がやけに綺麗なのが、なんとも言えないこの空気感に混ざって、本当の幻惑のなかに迷い込んだように思わせる。
こんな時に、こんなところで妙な答え合わせをする事になるなんてな。
「レイル……お前には、荷が重くなるのではないか」
クロンの言うことも一理ある。けど、前向きになった今のサラに、「やっぱりやめる」なんて言えやしない。
「いや……サラが目にしたものを、俺は信じる。真相がどうあれ、前に進もうとしているなら、それを妨げることはしたくない」
「お前のような非常識に近い人間のそばにいて勉強することも、大事か……」
「俺良いこと言ったよな?」
「レイル……この事はふたりだけの秘密に、な」
「もちろんそのつもりで……おい!クロン!さすがに悪口だぞ!」
非常識とまで言われるとはな。根に持たれ、悪口を言われるくらい、愛されてるサラは幸せ者だ。
「魔物を倒しながら進むより面倒だな」
「目の前にあるのに回り道させられるのが厄介だな……まさかそれがこうも立て続けだとは……」
いっその事、脳みそかき回すくらいの幻惑に惑わされた方がいいと思うほど……無駄に歩かされるだけ。突発的な事が起こる可能性を考え、常に気を張りながらなのが、更にきつい。
「精神攻撃だ……っ」
「お前は普段がゆるすぎるからだ、これくらいいつものことだろう」
「なんかこう、張り合いが無さすぎて」
「レイル……いつも火の元素使いは血の気が多くて困るとか言ってるが、お前も大概だな」
地域性というか、元素性というか。こんな癒やし空間を歩かせられ続けたらどうもムズムズしてしまう。クロンの言う通り、俺も大概だってことだ。
「弟子にまで教えるなよ?そんなところ」
「いやーはは……そう出来たら良かったんだが」
「良かった……?」
教えたつもりなんか無かったんだが……違うことをしよう!なんてデカい口叩いたのが不味かった、かもしれん。




