22.思い出の味の
【登場人物】
レイル・スプリッター ……主人公(おじ様)
フランメ ……愛馬♀
ソノラ ……男の娘
サラトガ ……男の娘(サラ、サラちゃんさん)
クロンダイク ……水の代表守護騎士
「うっ……うう……っ!」
難しい状況だ。
「ど、どうしよう……おっさん……」
「お師様……」
「えぇ……?俺ぇ……?」
ダンダンっと床を叩き泣き崩れるクロンを見ながら、困っているソノラとサラ……もちろん俺もだ。
数分前――。
疲れていたのは本当だ。だから、ソノラの寝顔に癒され、温かいその体温を感じて……眠ってしまったのは仕方ない。
だが、ふうっと目が覚めた時……サラまで一緒に眠っていたのは知らなかった。
「ソノラがこんなに気持ちよく寝てたら……まあそうなるか……」
なんて軽く考えて。
おそらく食事の準備ができた事を知らせにきたのだろうけど、気が抜けちゃったのかな?と、起こすのもかわいそうなので二度寝を決め込もうとした。
それがいけなかった。
「おい、レイル……食事――」
ノックもせず、部屋に入り声をかけたクロン。
「……っ」
俺を挟んで、ソノラとサラが気持ちよさそうに寝息を立てているその光景みたクロン。
「そんなに……」
薄めで見えた範囲だが……なんだ?震えてる?
「そんなにパパが嫌いなのかサラトガぁぁぁぁっ……わぁぁ」
「え……なに……えぇ?」
大声で泣き始めたクロン。その声で、ソノラもサラも目を覚まし……寝起きで寝ぼけてる状態で目の前で起きている異様な状況に困惑して俺に助けを求めてる、というわけだ。
友人とはいえ、プライベートもがっつり付き合いがある訳では無い。どちらかと言えば戦友という表現が合う意味での友人だ。
だから余計に……この状態のクロンをどうすればいいかなんて……正直わからない。
「なぁサラ……クロンっていつもこんな感じなのか?」
「え、うん……仕事中は、ちょっと怖いんだ」
「ご飯の時間はお仕事じゃないから、お父さんになっちゃったんですね」
「……だとしても、なぁ」
あからさまに俺に対して怒りと悔しさで泣き喚いてるのに、俺がなにか言っても……拗ねていじけるだけっぽいが。
「父さん……」
「うう〜……」
「ね、父さん……聞いてよ」
困ってる俺を察してか、サラが動いた。
「父さんを守りたいって言った俺が、父さんのこと嫌いなわけないじゃん」
「……ぅ」
「俺はおっさんと寝てたんじゃなくてソノラと寝てたんだかし」
その言い方はちょっと傷つくが……ちょっとだけどおさまってきたか?
「遅くなっちゃってごめん、今日は父さんの好きなトマトシチューなんだ、食べるよね?」
「……たべる」
「うん!温めてくるね!待っててね!」
鼻をすすりながら立ち上がってサラを見送るクロン。
「僕もお手伝いしてきますね〜」
「あ、おい!ソノラ!」
空気を読んだつもりか、単に手伝いたいだけか……その優しさは今は!気まずいがすぎる!
「レイル」
「お、おう……」
クロンも気まずいのはわかってそうだ。
「サラの作るシチューは絶品なんだ、妻の味がする」
「そうか、そりゃ楽しみだ」
「お、俺にとって……最後の晩餐に……なるうぅぅ」
「お、おい、大げさだろ……もう泣くなよ……」
わかってなかった、みたいだ。
背中を擦りながらか食堂に移動した。
ずっと泣き続けながらシチューを頬張るクロンが気になりすぎて、おかわりする手は止まったが、クロンの言う通り……シチューは絶品だった。
「サラ……最後の晩餐とか言ってかなり情緒がよろしくなさそうだ……後は頼んだ」
「あ、あはは……」
まだ時間はあることは、サラもわかっている。だからちょっと呆れて笑っていけど……他人の前で感情をあらわにして自分のことを思って泣いてくれたことは、嬉しいと思ってるはず。
「それもこれもお師様がサラちゃんさんを連れてこうとするからですけどね」
「ソノラ〜?お前もノリノリだっただろっ」
「それは……はい……そうです……」
ありゃ?こっちもこっちで……様子がおかしいか?
「僕には、育ててくれた方はいますが、本当のお父さんはいません」
部屋に戻って、窓の外を見ながらソノラは言った。
「育ててくれた方がちょっと変な方だったのもありますけど……大事にしてるものがその手から離れるというのは……とても辛いことなんですね」
「ソノラ……」
「一緒に行くことなんて、簡単なことだと思ってしまっていたことは……ちょっと反省しなきゃですね、お師様」
元素使いとしての理由で考えていたことも、反省点だと思わせるソノラの言葉。
「僕を置いていった理由……わからないけど……お父さんとお母さんも、あんなふうに悩んで泣いてくれたのかな……」
残された側の、ソノラの気持ち。
「きっとそうだよ、ソノラ……まぁでもあんな喚き散らしてはないだろうけどな?」
「あ、あはは!確かにちょっと……もう少ししっとり泣いててほしいかもです」
親子の関係性は、もちろん俺も捨て子だったから深くは知るところじゃない。ママは、ママで師匠だから。
ソノラを見て思った。
俺は必死だったから、自分の親の存在のことなんて考えてられなかった……が、こんな風にソノラの心に影を作ってしまっているのなら、手がかりのひとつでも見つけることを旅の理由にしてもいいんじゃないかと。




