21.離れがたさの
フランメにソノラとサラを任せ、クロンの元に向かう。
「クロン」
声をかけたが、背中を向けたまま。
「なんで殴らなかった?」
「……子供たちの前だからだ」
「それだけじゃないことくらい、わかってるぞ」
「……お前は本当に、勝手が過ぎる」
神殿の外にある小さな滝のある泉……墓石の前で。
「勝手はここまでにしようと思ってる……師になる覚悟に、サラをも持ち出したから」
「そうやって重荷を増やすのも、お前らしいんだけどな……さすがに、自分の子に手を出されるというのは中々に腹立たしいものだよ」
「手を出すって……変なことなんかしないぞ?!」
「当たり前だ!なにを想像してる!!ばかめ!」
それはクロンの言い方が悪いと、俺は思う。
「そのふざけた態度も、お前に預ける俺の覚悟を揺らがせている理由のひとつだぞ!」
「お?一応、そのつもりはちっとはあるんだな?」
「くっ……そうだよ……わかってはいる……サラトガは、ここにいてはダメなことくらい……」
父親として甘やかしてしまう部分はあるとは思う。でもそれは、目の前の墓石の下で眠っている妻の、サラの母の悲しい死が原因で、過度になってしまっているのだと。
「弟子としたのは、活発になったサラトガを抑え込むため……お前に勝手と言いながら俺も……勝手な事をしているな」
「サラはそれを優しさだと受け入れてるみたいだけどな」
「それは父に対してだ……師として、俺はサラトガと向かい合えていない……血が繋がっているというだけで、こうも違ってしまうものなのだと痛感してるよ」
普通であれば、きっとこんな心配を抱えることなく、師弟としていられたかも知れない。
この親子には、それが出来ない理由が重すぎる。
「そんなに長いことひとり占めにするつもりはない、まぁ、1年くらい?世界観光させるつもりでさ……広い世界を見ればきっと、サラの世界も広がる」
「……」
「なにもかも忘れてじゃない……心の傷を強さに変えるために。サラ自身も、強くなりたいと口にしていた。だから余計に、サラの思いも、底にあるだろうその強さを……俺に預けてほしい」
いつもどこか楽観的に話すのが俺の悪い癖だ。だが、今回ばかりは……真剣に俺の思いを伝えた。
「子離れ……か」
クロンはしゃがみ、墓石に向かって話しかける。
「サラトガになにかあれば……死よりも恐ろしい目に合わせよう」
「……え」
「妻もそう言っている」
そんな誓い方、あるか?
「戻ろうレイル」
「あ、おい、それ、いいってこと……なんだよな?」
「書類仕事が山のようにあるぞ」
「はっきり言ってくれないのか?!」
スタスタと神殿に戻るクロンのあとを追いかけて行く。確かに色々やることはあるが……返事が、返事が欲しい!
「あ、お師様〜おかえりなさい〜」
「お、おかえり……」
「……なにしてるんだ」
フランメの背中で片手で逆立ちをしているソノラを、落ちるんじゃないかとオロオロしているサラ。
フランメはわざと動いて遊んでる始末。
「仲がいいんだな……あんな顔、久しぶりに見た」
困っているが、楽しそうにしているサラの姿を見て、クロンは嬉しそうにしている。
「ソノラも訳ありだったから……どこか通じるものがあったのかもしれないな」
「……そうか」
仕事部屋に行くと伝え、クロンはサラを見ないように、去る。
そんな態度に、サラは少し寂しそうにクロンの背中を見つめていた。
「サラ、大丈夫!朝になりゃケロッとしてるさ」
「それはお師様だけですよ〜」
「うっ……ま、まぁあれだ、そんな心配するほどじゃないはずだから!」
「……うん」
俺の励まし方が下手すぎる……笑っちゃいるけど、拭えていないのがわかる。
「とりあえず色々書類仕事が残ってるから、しばらくここで世話になる……まだ、時間はあるから、な?」
「まだ……そっか、うん、わかった」
ソノラとフランメにも、2、3日程度ここにとどまることに了承してもらった。
そういうことなら、と、サラは客人用の寝室に俺たちを案内してくれた。
「あいかわらず……すけすけだなあ」
「こっち側からだけだよおっさん、外からは見えないようになってるの、知ってるだろ?」
「それはそうだけども……」
透き通るガラスと水のカーテン……綺麗で涼し気で、特別感は十分にあるが、俺はどうしても落ち着かないなと、毎度感じてしまう。
まあ、タダで泊まれるのだから、これ以上文句は言わないんだが。
「ちょっと触ったら壊れちゃいそうです……」
「そんなガチガチにならなくても大丈夫だよソノラ……食事は後で部屋に運ぶから……ゆっくりしてね」
サラが退室し、水が静かに流れる音だけになる……ひと息つけると深呼吸、しばらく外を眺めてから振り返ると……、
「……ん、ありゃ」
ベッドはフカフカの高級品……すーすーと寝息を立て、眠っているソノラ。
「急に色々ありすぎたもんな……ゆっくりおやすみ、ソノラ」
そんな俺も、ソノラの横でいつの間にか眠ってしまった。




