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飢えた獣は、管理社会に牙を剥く

これは、人類が「味覚」を手放した後の世界の物語です。

「マヨネーズ・エッセンス」という劇薬を摂取したセラフィオンの機体に、異変が起きた。白銀の装甲が、まるで高熱を持ったように赤く拍動し始める。バッテリー残量は一気に回復し、逆に「計測不能(限界突破)」の表示が躍った。


『……ふふ、ふふふ。力が……力が溢れてきます。テリヤキマスター、

 今の私は、どんな不合理な命令でも実行できる気がします。

 例えば、この旧・高速輸送トンネルを更地にする、とか』


「目がイッちまってんぞセラ! よし、このまま最短ルートで地上へぶち抜く!」


背後からは、グリードが送り込んだ精鋭ドローン部隊が迫っていた。だが、今のシオンとセラは無敵(と空腹)のバディだ。


『ターゲットロック。

 ……テリヤキバーガーの邪魔をする無味乾燥な機械どもに、マヨネーズの鉄槌を』


「行くぞ! 全力……加速フル・ドライブだぁぁ!」


セラフィオンの背部バインダーから、黄金色の高出力の光が美しく噴き出した。それは推進剤というより、もはや情熱の噴射だった。シオンは加速の衝撃で首がもげそうになりながら、懐の合成パンが潰れないように必死で守り抜いた。


轟音と共に、旧・高速輸送トンネルの天井が木っ端微塵に砕け散った。

砂埃を巻き上げ、白銀の天使が地上――管理社会レグナスの目抜き通りへと降り立つ。


「やった……出たぞ! 地上だ!」


『喜びなさい!テリヤキマスター。

 貴方の不摂生なバイタルと私の不浄な燃料が奇跡的に噛み合いました。

 ……ですが、見てください。歓迎会が用意されているようです』


シオンが見上げた先には、ホログラムの空を背負い、漆黒の天使装甲〈オメガ〉を駆るグリードが浮遊していた。

街中のスピーカーから、グリードの冷徹な声が響き渡る。


「手間をかけさせおって……野蛮なエラーを撒き散らすバグめ。その銀色の機体、

 レグナスの秩序の名においてデリートしてやる」


周囲には何千もの市民が、感情を失った瞳でこの光景を見つめている。

だが、シオンはそんな「世界の敵」に認定されたことなど、どうでもよかった。彼はゆっくりと、懐から「奇跡的に潰れていなかった」合成パンを取り出し、セーフティを解除した。


「セラ、戦闘開始だ。……こいつを一口食ってからな!」


『推奨します。さっさと食して、さっさとその男を黙らせなさい。

 ……防腐剤の匂いが、こちらまで伝わってきて不快ですから。ふふ』


シオンは、思い切りに合成パンにかぶりついた。

管理社会が作り出した合成パンの栄養素が、全身の細胞を駆け抜ける。


「んめえぇぇぇ!

 行くぞセラ! 腹がいっぱいになった俺は、お袋でも止められねえぞ!」


こうして、一人の腹ペコな少年と、毒舌AIの「世界で最も健康に悪い反逆」が、再び、華々しく幕を開けたのである。


「あ……あああああッ!!」


ビル街の森を切り裂き、白銀の巨躯が天空へと突き抜けた。

シオン・グレイスの絶叫は、もはや言葉になっていなかった。右腕の義手から流れ込む過剰な情報と、マヨネーズ由来の不純なエネルギーが混ざり合い、彼の神経を内側から焼き焦がしていく。

備蓄庫で目にした「本物の食糧」――。それを手にする直前でシステムに拒絶された絶望が、行き場のない破壊衝動へと変換されていた。


『……警告。シオン、思考を放棄しないでください。

 脳内の脳内のエンドルフィンが異常値を記録しています。

 このままでは貴方の精神アニマが機体の熱量に溶けて消えますよ!』


脳内で響くセラの声すら、今のシオンには遠い雷鳴のようにしか聞こえない。

セラフィオンは、その白銀の装甲を赤く熱光ルミネッセンスさせながら、管理局の目抜き通りに降り立った。


「――やはり、バグか」


上空。

漆黒の天使装甲〈オメガ〉が、冷徹な死神のように滞空していた。コクピットに座る執行官グリードの瞳には、荒い呼吸を繰り返すセラフィオンが、排除すべき「汚染物質」として映っている。


「飢え、渇き、そして荒れ狂う感情。

 ……旧時代の人間が克服できなかった醜悪なエラーが、その機体には詰まっている。

 シオン・グレイス、貴様はこの無菌の街にふさわしくない」


「……黙れ……ッ!」


シオンが叫ぶ。彼が求めているのは、管理された安寧ではない。喉を焼くような渇きと、それを癒やすための「生」の手応えだ。


「お前らに……俺の、俺たちの『腹の底』がわかるもんかよ!!」


セラフィオンの背部バインダーから、真っ白な加速粒子が爆発的に噴射された。


セラフィオンの背部から噴き出した白濁した加速粒子が、レグナスの整然とした大通りを真っ白に染め上げた。


「うおおおっ!」


シオンが気合で押し込む。

マヨネーズ燃料の爆発的なトルクによって、数トンもの白銀の巨体が慣性を無視して加速した。それは洗練された機動などではない。

――ただ、生きるために「食う」ことを選んだ、獣の反逆だった。

※ここから物語の歯車が、少しずつ噛み合い始めます。

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