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『美味い』は禁止です。――それでも俺は、テリヤキを焼く  作者: 野村組
第1章:テリヤキ・レボリューション編
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食い意地の張ったテロリスト

これは、人類が「味覚」を手放した後の世界の物語です。


視界が、焼けた。


白。


次の瞬間、世界が“開く”。


『警告。“味覚”の逸脱を確認』

『……概念汚染レベル、上昇中』


無機質なアラートが、脳の奥に直接叩き込まれる。


『第一配給センター、全系統ロックダウンを開始します』


「……は?」


気づいた時。


シオンは――


“巨大”になっていた。


「な、なんだこれ……!?」


腕を動かす。


遅れて、白銀の腕が動く。


脚を踏み出す。


床が、爆ぜる。


「身体が……重機になったみたいだ……!」


操縦桿も、ペダルもない。


あるのは――


感覚。


視界は三百六十度。


いや、“視界”じゃない。


壁の温度、空気の流れ、振動。


全部が、直接流れ込んでくる。


(これ……俺が見てるんじゃない)


(“こいつ”が感じてる……!)


『落ち着きなさい、マスター』


セラの声が割り込む。


『あなたの悲鳴は、私のログにおいてノイズです』


「うるせぇ! これが落ち着いてられるか!」


『それよりも』


一拍。


『現在の出力であれば、あなたが執着している低俗な食品の調理も可能です』


「……えっ?」


『あなたの空腹感が、あまりに不快です』


『脳内のテリヤキ情報を圧縮してください』


『さもなくば、出力の三割が“よだれ”に割り当てられます』


「無理言うな!!」


シオンは叫ぶ。


「この腹の減りが――俺のガソリンなんだよ!」


その瞬間。


天井の穴から、影が落ちた。


シュゥゥゥ……


焼ける音。


高出力プラズマ。


全自動処刑機クリーナー


『ターゲットを廃棄物と定義』


『……微粒子化処置を開始』


「来やがったな……!」


赤い照準。


ロックオン。


シオンは、拳を握った。


「処理されるのは――お前の方だ!!」


踏み込む。


ドォォォォン!!


世界が、置き去りになる。


一瞬で間合いを詰め。


白銀の拳が、クリーナーの装甲をぶち抜いた。


だが。


「……っ!?」


“感触”。


鉄を砕く感触が。


骨に、筋肉に、神経に――そのまま叩き込まれる。


「痛ぇ……!? なんだこれ……!」


『当然です』


セラは淡々と言う。


『この機体は情動駆動型』


『あなたの“感じたこと”が、そのまま出力になります』


一拍。


『つまり今の攻撃は』


『“腹を立てたゴリラのパンチ”です』


「言い方ァ!!」


『もっとマシな思考をしなさい』


『“どう殴れば壊れるか”を考えるのです』


その時。


さらに影。


二機。


クリーナーが追加投入される。


三機同時。


連携。


電磁ネットが射出される。


「ヤバ――」


遅い。


絡みつく。


拘束。


「くそっ……!」


思考が追いつかない。


身体が重い。


判断が遅れる。


『……やむを得ません』


一拍。


『言語野を一時停止します』


「は?」


『静かにしてください』


次の瞬間。


「――――!?」


言葉が消えた。


代わりに。


世界が“見える”。


線。


光。


軌道。


敵の動き。


弱点。


未来予測。


全部が、理解できる。


(ああ、そうか)


(こう動けばいいんだ)


翼が展開する。


黄金の粒子が噴き出す。


一歩。


それだけで。


二機の間に入り込む。


腕を振る。


――ズバッ!!


衝撃波。


脚部、切断。


崩れる。


回転。


蹴り。


爆発。


爆発。


沈黙。


静寂。


『……接続解除』


言葉が戻る。


「はぁっ……はぁっ……!」


全身が汗で濡れている。


動いてないはずなのに。


『予想通りです』


セラが言う。


『あなたは黙っている時が最も優秀ですね』


「ぶっ飛ばすぞ……!」


だがその時。


『報告です』


セラの視線が、外を指す。


『先ほどの衝撃波が、地上構造に干渉しました』


嫌な予感。


瓦礫の向こう。


潰れたコンテナ。


そこから、溢れているもの。


茶色い液体。


「……あ」


理解した瞬間。


『本日搬入予定』


『テリヤキバーガー、十四個』


一拍。


『全損です』


「……あ、ああ……」


『圧縮、および冷却水の浸入により』


『可食部ゼロ』


「……あああああああああああああああああ!!」


膝から崩れ落ちる。


「嘘だろ……」


「俺は……何のために……」


「戦ったんだよ……!」


涙が止まらない。


世界を変える力。


最強の機体。


そんなものより。


たった一つのバーガーの方が。


重かった。


『……理解不能です』


セラが言う。


『ですが、マスター』


『絶望している場合ではありません』


『塔のメインシステムが、私の起動を検知しました』


一拍。


『あなたの顔も、完全に記録されています』


「……は?」


『おめでとうございます』


『あなたは現在』


『この星で最も優先度の高い――』


『“食欲テロリスト”です』


「なんだそれ!!」


だが。


シオンは、ゆっくりと立ち上がる。


涙を拭う。


「……いいさ」


義手を握る。


「どうせ全部失った」


目に宿るのは、空腹と怒り。


「なら――」


「食い物の恨み、全部ぶつけてやるよ」


『……非合理的です』


だが。


『出力は上がっています』


白銀の巨体が、静かに唸る。


“味覚”という名のバグが。


世界を侵食し始めていた。

次話へ続きます。

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