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【悲報】伝説の最終兵器、テリヤキ強奪に失敗

これは、人類が「味覚」を手放した後の世界の物語です。


「な、なんだこれ……!? 身体が、身体が……鋼鉄の巨神になったみたいだ!」


セラフィオンのコクピットに強制接続されたシオンは、己の変貌に絶叫した。 だが、その恐怖を塗りつぶすほどに――圧倒的な『力』が、指先まで満ちていく。 さらに、パニックになる脳を叩き起こしたのは、内蔵モニターに明滅する【予熱完了:三〇〇〇万度】の文字。


(いける。この熱なら……あのレシピを、完璧に再現できる!)


そんな脈絡のない確信が、生存本能よりも先に脳を焼いた。 そこには操縦桿もペダルも存在しない。全天周囲モニターが映し出すのは、地下格納庫の三百六十度の光景。だが、それは「画面」として見えているのではない。


自分の目が、鼻が、肌が、セラフィオンの外装そのものと入れ替わったかのような、暴力的なまでの感覚同期シンクロ――。


今のシオンにとって、この白銀の装甲はもはや肉体であり、この超高熱リアクターは「最強のコンロ」そのものだった。


『静かにしてください。あなたの叫び声は私の聴覚ログにおいて、

不規則なノイズとして処理されます。


……それから、脊髄を通じて伝わってくるあなたの「空腹感」が、あまりに不快です。脳内のテリヤキ・データを直ちに圧縮しなさい。さもなくば、戦闘機動の三割が「よだれ」の分泌に回されてしまいます』


「無理言うな! むしろこの腹の減り具合こそが、俺のガソリンなんだよ!」


天井の穴から降下してきた全自動処刑機『クリーナー』が、その赤く光るモノアイをセラフィオンへと固定した。  

シュゥゥゥ……と、高出力プラズマカッターがチャージされる音が響く。地上の掃除ドローンとは格が違う、純粋な「抹殺」のための駆動音だ。


『ターゲット、挙動不能と判断。……微粒子化処置を開始』


全自動処刑機『クリーナー』の、感情を去勢された機械音声が格納庫に響く。


「処置されるのは、お前の方だ、この粗大ゴミ!」


シオンが反射的に右拳を突き出した。 三〇〇〇万度のプラズマが、四肢の駆動液を一瞬で沸騰させる。 その瞬間、セラフィオンの巨躯が、物理法則を無視した加速で踏み込んだ。


ドォォォォン!!


白銀の拳が、クリーナーの正面装甲を紙細工のようにぶち抜いた。

火花と共に飛び散る破片。しかし、直後にシオンの感覚は驚愕に染まる。


「……っ!? 手応えが、直接来る!? 鉄を殴った感覚が、俺の拳に……!」


それは単なるフィードバックではない。 拳に伝わる硬質な抵抗、装甲がひしゃげる不快な振動、そして――三〇〇〇万度の熱に焼かれた敵の潤滑油が放つ、鼻を突く焦げた臭い。


「ハ、ハハ……なんだこれ、最高だ……! 自分の手で、ぶち壊してる実感がしやがる!」


『当然です。このセラフィオンは、搭乗者の情動を直接エネルギーに変換する

情動駆動型エモーショナル・ドライブ」ですから。……ですがマスター、今のあなたの拳には「知性」の欠片もありませんでした。ただの「腹を立てた幼児の殴り書き」です。もっとマシな演算を私に提供しなさい』


「知性なんて、テリヤキソースと一緒に飲み込んだよ! 次だ、セラ! 左から来てるぞ!」


『落ち着きなさい。全自動処刑機『クリーナー』ごときでは、このセラフィオンの表面処理に傷一つ付けられません。さっきの要領で左腕を振り回してください。今度は知性をもって』


『クリーナー』は一機ではなかった。天井の崩落口から、さらに二機の同型機が雪崩れ込んでくる。それらは連携し、電磁ネットを射出してセラフィオンの動きを封じようとする。シオンがおろおろしている間に電磁ネットが絡みつく。


『……やむを得ません。マスター、あなたの脳の「言語野」を一時的にシャットダウンし、そのリソースを空間把握に回します。……喋れなくなりますが、その方が静かで好都合です』


「は!? ちょっと待――あう、あ、あうーっ!?」


シオンの口から、言葉が消えた。  

代わりに、視界の中に無数の光る線が見え始めた。敵の攻撃予測線、構造上の弱点、そして回避すべき最短ルート。  

シオンの意識は、猛烈な勢いで「加速」していく。

セラフィオンの背中の翼が展開し、黄金の粒子が噴射される。  

それはまるで、暗い地下室に舞い降りた一筋の光の矢だった。  

一歩。わずか一歩で、セラフィオンは二機の『クリーナー』の中間に位置取り、両腕を水平に振った。


――ズバッ!!


白銀の装甲から放たれた衝撃波が、『クリーナー』の脚部を一瞬で切断した。

バランスを崩した処刑機に対し、シオン(の身体を借りたセラフィオン)は、優雅ですらある回し蹴りを叩き込む。

爆発。爆発。そして沈黙。  

格納庫には、焼き焦げたオイルの臭いと、シオンの激しい呼吸音だけが残った。


『……接続解除。言語野を復旧します。……お疲れ様でした。予想通り、

 あなたは黙っている時が一番「兵器」として優秀ですね』


「ぷはぁっ! 死ぬかと思った……! おい、セラ!

 勝手に俺の脳味噌をいじるなよ、怖えだろ!」


『怖がる機能があるなら、もっと自分の生活習慣を怖がってください。

 ……それより、報告です。……先ほどの戦闘による衝撃波の余波を確認しました』


「余波……? なんだよ、勝ったんだからいいだろ」


セラのホログラムが、格納庫の外――地下ダクトの先を指し示した。  

そこには、地上の配給センターへと繋がる廃棄用コンテナが、瓦礫の下に無惨に潰れている光景があった。  

そして、その隙間から溢れ出しているのは……。


「……あ。……あ、あ、あああああ……っ!」


『……推計。本日搬入予定だったテリヤキバーガーの未検品個体、計一四個。……衝撃による圧縮、および冷却水の浸入により、可食部ゼロ。……残念でしたね、マスター』


「嘘だ……嘘だと言ってくれ、セラァァァ! 俺は……俺は何のために戦ったんだ!

目の前の『クリーナー』(ゴミ)を片付けて、本物の宝物ゴミを失うなんて……!」


シオンはセラフィオンのコクピットの中で、崩れ落ちた。


――だが、その瞬間。

セラの声が、淡々と告げる。


『……訂正します、マスター。あなたが失ったのは「今日のテリヤキ」だけです。

……世界には、まだ“上位配給”という概念が存在します』

『……ここまで読んだのね。

あなた、案外ヒマなのかしら。それとも……興味がある?


マスターの行動ログは、まだ安定期に入っていない。

つまり、明日も何が起きるかは未確定。

……私は予測できるけど。たぶん。


続きを確認するなら、明日16:30。

探すのが面倒なら、ブックマークという手もあるわ。

合理的判断ね。』


――セラ

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