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第33話:不死

流血表現有り



 ヴィタリの捻くれた性格を十全に発揮した喧嘩を売りながらのフォローによって、マルコとは多少打ち解ける事ができた気がする。

 好意の種類が友情であっても、もっと言えば全然関係無い話であっても、「好き」という言葉を向けられるのだけはどうにも苦手らしく、最後まで慣れる事は出来なかったが、それはこちらが意識していれば避けられる事なので大きな問題にはならないだろう。

 むしろ、ニコニコしながら肉を飲み込む様に食べるイメージしかなかったが、言葉一つで真っ赤になるという、可愛らしい一面を知る事ができて良かったなと思う。マルコにとっては不本意かもしれないけれど。



 お茶会が終わった後、マルコとヴィタリは仕事に戻っていった。

 ヴィタリは仕事を全部終わらせたと言っていたが、やはり何だかんだ少しは残していたのだろう。

 そんな小さな嘘を吐く程に、心配をかけていたのだろうか。

 ……振り返ってみても、心当たりしかない。

 申し訳ないなぁとは思うけれど、性格や思考を変えるのは難しい。特に、咄嗟の行動だけはどれ程気を付けていても抑えられない。


 せめて仕事ぐらいは邪魔しない程度に早く成長したい所なので、今日も大人しく図書室に籠ろうかと足を向けた所で、廊下の先に魔王様の姿が見えた。


「お疲れ様です、魔王様」

「今日は休みだと聞いていたが」

「えぇ。先程までゆっくりさせて貰ったのですが、早くヴィタリのお荷物を脱出したいので、図書室に行こうかと」

「ヴィタリは気にしていないと思うが……」

「私が気になるのです」

「ベールは真面目だなぁ」


 魔王様は眉尻を下げて、小さく笑う。顔が整っていると、どんな表情になろうとも絵画の様に見えるのだなとしみじみ思った。


「ならば、これからマルコ部隊の訓練見学に行く所なのだが、ベールも一緒に来ないか? 自分の所は見ているだろうが、マルコの方はまだだろう?」

「よろしいのですか?」

「もちろん」


 魔王様は柔らかく微笑む。

 確かに何度か自分の部隊訓練には参加させてもらっているが、マルコの所は見た事が無い。


 マルコの部隊は、魔法も扱うが主な攻撃手段は剣になる。

 これは魔王城警備を主に行っている事に起因している。


 魔獣討伐には、遠距離攻撃ができる魔法が基本的に有効と言われており、故に私の部隊は街の治安維持の為にほとんどが城外に出ている。

 それに対して、今時魔王城に攻めてくるのは勇者ぐらいで、更に勇者の持つ聖剣は魔力を切る事ができる。

 だから、純粋な剣での斬り合いになる事が過去多かったらしく、魔王城警備は剣技特化にしているらしい。



 というような事を道すがら魔王様に聞きつつ、訓練場へと移動した。

 私の部隊が訓練を行っている所とは別の場所で、数人が二人一組で訓練用の木刀を片手に打ちあっており、その周囲を更に数十人があれこれ口出しをしながら見学している。

 周囲を見回してみたが、マルコの姿は無い。執務室に戻ると言っていたので、今頃は部下の男と一緒に書類仕事と格闘しているのだろうか。

 マルコを探すついでに、訓練する集団の中に城内で見かけた顔がいくつかあるが、流石に名前までは把握していない。


 訪れた魔王様に気づいた一人の魔族が、こちらへと駆け足で寄ってきた。

 魔王様がその男と会話をしている間、傍に立っているのも邪魔だろうからと少し離れる。


 今行っているのは模擬戦闘のようだ。それぞれが木刀を持ち、打ちつけ合っている。

 私は剣技に関してはさっぱり分からない。

 過去に騎士タリスから、何かあった時の護身用にと躱す事だけは徹底して練習させられたが、目の前で繰り広げられる打ち合いを避けられる自信は無い。

 少し前に勇者達の攻撃を避ける事ができていたが、あれは過去の記憶と癖を知り尽くした相手だった故に生き延びられたのだろう。

 癖を知らない、この世界のエレノアによる攻撃だけは避けられなかったし……。


 よくよく考えてみたら、結構危ない事をしていたのだなと他人事の様に思った所で、模擬戦闘の流れに変化が現れた。

 何度目かの打ち合いの果てに、一方の木刀が折れたのだ。

 驚く間も無く、折れた木刀の先が運の悪い事にこちらにまっすぐ向かって飛んでくる。

 しかし、突然の事に動けない。

 なのに飛んでくる木刀の動きはやけにゆっくりと見える。

 身体を少し横に動かすだけで避けられると分かっているのに、指先一つ動かせない。

 過去、騎士に攻撃を避ける訓練を受けたというのにこの体たらく。

 最近は他の事に手いっぱいで実技特訓もしていなかったので、知識以外の能力も上げていかないといけないかなぁと、ボンヤリ思いながら目を瞑る。


 痛みを覚悟したのだが、痛みは一向に訪れない。

 恐る恐る片方の目だけ開けてみれば、目の前広がるのはすでに見慣れた人の後姿。


「魔王、様?」

「大丈夫か、ベール?」


 振り返ったその人は、心配そうに私の姿を確認して、無事と知ると小さく安堵のため息を吐いた。

 だが、私の視線はどんな表情でも様になるその顔では無くて、目の前のその背中、正確には脇腹辺りにジワリと滲む赤い色に釘付けになっていた。

 視線に気づいたのか、魔王様は何てことない態度で、平然と自身に刺さっていた木刀を抜いた。


「ま、魔王様!」

「私は大丈夫だから、心配はいらないよ」


 震える声で叫べば、落ち着かせるように頭を撫でられる。

 だが、そんな呑気な状況では無い。


「ち、治療を――!」

「その必要は無いよ」


 魔王様は私の手を取ると、木刀が刺さっていた場所へと触れさせる。

 その行動に驚いたのは一瞬で、触った感触に刹那で別の意味で驚愕した。


「へっ、あ、えっ?!」

「聖剣以外で、この私に怪我を負わせられる者はいないんだよ。これでも……魔王だからね」


 驚く私が面白かったのか、魔王様は声を出して笑っているが、私はそれどころではないし、周囲の魔族もそれどころではない。

 平謝りするマルコ部隊の者達に、魔王様は朗らかな笑顔で気にするなと言っている。


 城の地下書庫で見た、魔王は不老不死だという記述を思いだす。

 確かに、触った場所に怪我は無かった。だが、数秒前には間違いなく木刀が刺さっていたし、その証である血が今も魔王様の服には残っている。


 聖剣以外の怪我は即座に回復する、それは魔王様の言葉からも分かる。

 だからと言って、痛みが無い訳では無いはずだが、魔王様はそれをおくびにも出さない。


 その優しさが、何だか少し悲しく思えた。



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