第25話:服装
「肉が食えるのか?!」
「え、えぇ。友達に美味しいお店があるって聞いたけれど、一人で行くのはちょっと……」
「肉なら俺に任せろ!」
「そ、そう……なら、良かった」
どうやってマルコを誘おうかと考えていたが、美味しいお肉料理のお店、辺りからすでに食いついてきて、二つ返事で話が進んでしまった。
いつものように食堂で出会ったマルコは、肉料理を飲み物の如く食べながら、次の肉料理に思いを馳せている。食い意地の張った器用な男である。
そのままどんどん話は進み、日程も決めた後、見ているだけで胸焼けしそうな暴力的な肉の塊達をその胃に収めたマルコは、鼻歌を歌いながら食堂を去っていった。
入れ替わりでやって来たヴィタリが、空いた正面の椅子に腰かける。
「マルコ様とお話されたのですか?」
「えぇ。食事に誘ってみたのだけど、肉を食べながら別の肉の事を考える、という器用な事をしてたわよ」
「……お二人で行かれるのですか?」
「そうだけど……ヴィタリも食べたい?」
ヴィタリは感情の読めない変な顔をした後に、深いため息を吐きだした。
「いえ、私は結構です。マルコ様ならば大丈夫でしょうし」
「何が?」
「何でもありません」
ヴィタリは肉料理よりも、もっとさっぱりした方が好みなのかもしれない。今もパスタをフォークにくるりと巻いて、優雅な所作で食べている。
「肉が嫌なら、パスタでも食べに行く? 前に話したかもしれないけれど、メイドのイリーナもちゃんと紹介したいし」
「……私は三人ですか」
「だから何が?」
「何でもありません」
再度深いため息を吐き出される。
別にマルコと二人なのは、どんな話をするか分からないから念の為なだけだし、ヴィタリにはお世話になっているイリーナを紹介したいというそれだけで他意はないのだが。
「ヴィタリって結構細かい事を気にするのね」
そう言えば、ヴィタリの眉間にぐっとしわが寄る。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。今回は、普通に食事するだけ。特に何も話すつもりは無いわ……今の所」
「流れや雰囲気によってはうっかり口を滑らせる可能性も?」
「何事も可能性はゼロではないわ」
「その比率が高いかどうかが問題なんですよ」
眉間のしわを揉み解しながら、ヴィタリが深いため息を吐きだす。
ここ最近のヴィタリは、眉間のしわよりもため息が深くなったなぁと、他人事の様に思いながら、のんびりと食事を続けた。
*
それから食事の日程が決まった旨イリーナと相談し、予約から当日の服装までサポートをしてもらう事となった。
やたらと気合の入ったイリーナは、新しいドレスを! と力強く主張してきたが、流石にただの食事にそこまで気合を入れる必要を感じないし、相手はマルコだ。美味しい肉には興味があっても、私の着ている服に関心は持たないだろう。
結局普段の服装だけれど、少しだけ小物を足したり化粧の雰囲気を変えたぐらいで、イリーナには手打ちにしてもらった。
マルコとは城内で待ち合わせしているのだが、予想以上にイリーナの気合が入ったのか、予定よりも部屋を出るのが遅れてしまった。
小走りで城内を移動し、待ち合わせ場所である城門前に、黄金色の髪の毛が月の光を受けて輝いているのを見つけた。
「待たせてごめんなさい、マルコ」
声をかければ、マルコがくるりと振り返る。
マルコの服装は普段よりカジュアルになっているが、シンプルなシャツとスラックスだった。当たり前だけれど、武装していない分何だがいつもとは違う雰囲気がある。
「俺も今来た所だから、気にするな」
私の姿を確認すると、何故だか背を向けてくる。いつもニコニコ笑っているマルコにしては、随分不自然だ。
「……マルコ、何かあったの?」
「な、何にも無いぞ?!」
そう言っているが、マルコの頭から飛び出す獣耳は、辺りを警戒するようにピンと立っている。
小走りでマルコの正面に回り込めば、マルコも素早くターンして背を向ける。明らかに挙動不審である。
「それで何も無いは無理があり過ぎるわよ」
「うっ……」
マルコが、チラリと振り返って横目で私を見てくる。
「隊の皆に、ベールと食事をしてくるって言ったら、デ、デートだって……」
「デート? ……デート?!」
すんなり意味が頭に入らずに、言葉を繰り返して首を傾げ、遅れてやって来た意味に気付いた途端、頬が熱くなる。
「そ、そんなつもりじゃなかったのだけど、ご、ごめんなさい」
「い、いや、俺もそんなつもりじゃなかったから、でも、ベールが」
「私が?」
「ベールが……綺麗だったから、俺、何もしてこなかったのに」
マルコの耳が、ぺたりと力無く垂れ下がる。
まさかマルコにそんな事を言われると思って無くて、私の脳みそが一時停止する。
褒めてもらったけれども、服装はいつも着ている動きやすさ優先のシンプルな緑色のドレスで、普段は見に着けない装飾品を多少着けてきたがそれ程でもないし、イリーナが時間を過ぎてまで施してくれた化粧は確かに気合が入っていたが、マルコがその差を理解できるとは思って無かった。
「その……ありがとう。でも、気にしないで。これはメイドの趣味みたいなもので、深い意味は無いし、今日はただマルコと楽しく食事ができれば、それでいいと思って来ているから」
私がそう言えば、マルコは少し安堵したのか表情を和らげる。
落ち着いた所で城を出る時に、城門警備をしていたマルコの部下らしき男が、微笑ましそうな笑顔でサムズアップしてくれた事によって再度マルコが混乱状態に陥ったが、その後はイリーナに貰った詳細な地図を頼りに、迷う事なく店へとたどり着く事ができた。




