第22話:結果
ヴィタリのサポートもあり、以前よりも部下との交流は増えた。
部隊訓練にも参加するようになったが、ヴィタリが勇者達の連携を拙いと評したのも納得のチームワークを発揮しており、魔族の練度の高さが分かった。
人間は魔族よりも寿命が短い分、人数が多い。だから連携よりも数で押し潰す考え方。
魔族は人間より寿命が長い分、人数が少ない。だから数で押す事は出来ない代わりに、個人個人の練度も高く、少ない人数で最大の効果を出すために連携にも重点を置いている。
どちらにも一長一短がありどっちが良いとは言えないが、とりあえずハッキリしているのは、数押し作戦の人間であるはずなのに勇者パーティーの人数が少なすぎるという疑問が生まれた事だろう。
ヴィタリに話を振ったら、呆れ顔で「知りませんよ」と突き離された。
よく今まで、聖剣を持った勇者を返り討ちにする魔王がいなかったものである。
交流が増えたのは部下だけではない。
メイドさんにお手伝いを頼んでから、身の回りのフォローもしてもらうようになり、かなり親しくさせてもらっている。
特にイリーナという同じ歳くらいのメイドさんがいるのだが、彼女とは一緒に街に出て洋服を見たり、カフェでお茶をしたりとまるで友人のように接してもらえるようになった。
最初は恐縮しきりだったイリーナだが、今では私の見立てた服を「ダサい」「二百年ぐらい前に流行ってそう」等々、ストレートに評価してくれる所には色々な意味で涙が止まらない。
ヴィタリとイリーナのサポートを受けながら、魔族としての常識や仕事や生活方法を学び、なんとなくだが魔族社会に溶け込めた様な気もし始めた頃。
以前魔獣減少の報告が届き、勇者が現れるのではないかと警戒していた街に、本当に勇者一行が現れたという知らせが届いた。
配備していた部隊によって、大した被害もなく追い返す事に成功したという話がセットで届いており、いつの間にか固く握りしめていた拳から力を抜く。
「ベール様」
「分かってる、次の対策よね」
傍に控えていたヴィタリが、一つ頷く。
と言っても、もはや過去と流れは変わってしまった今、私の記憶はそれ程役に立たないだろう。ヴィタリもそれは分かっている筈だ。
「まずは魔王様にご報告と、相談ね。今回の事を受けて勇者達がどう出てくるかは分からないけれど、本格的に動きだしてくるはずだから、その対策は他の人達も含んで会議したい所だけれど」
「マルコ様は、今度こそ自分が出ると言うでしょうね」
「そうね……それは困るわ」
前回は記憶喪失だからという理由で無理やり納得させたけれど、流石に今回も大人しくしていてもらうのは難しいだろう。
ただでさえ、前世では一人突っ込んでいった実績がある。
「ヴィタリには、私と魔王様の考えを話したじゃない?」
「人間と共存というのですか?」
「そう。それで、一応受け入れてもらったと思っているけれど、マルコも協力してくれると思う?」
「それは……難しいかもしれません」
「そうよね~、何だかマルコ、人間嫌いな気がするし」
ヴィタリに加えてマルコも協力してくれれば百人力なのだが。
唸る私を、ヴィタリが微妙な表情で見てくる。
「何?」
「……私の口から言っていいものか分かりませんが、マルコ様は人間によって兄君を亡くされています」
「……え?」
「故に、私のようにすんなりとは行かないでしょう。例え魔王様や、貴方に頼まれたのだとしても」
ニコニコ笑ってステーキ肉を飲み物のように食べるマルコの姿からは、想像もできなかった。まさか、そんな事があったとは……。
「難しいというか、もう無理な気がする……」
執務室の机に突っ伏す。
何となく、マルコに私の正体はバレてはいけないとは思っていたけれど、その原因を聞いたら絶対にダメとしか思えない。
「……貴方次第、かもしれません」
頭上から振ってくるヴィタリの声に、緩々と顔を上げる。
逆光でヴィタリの表情が読めない。
「どういう事?」
「先程も言いましたが、すんなりとはいかないでしょう。でも……もしかしたら、貴方だったら、マルコ様を説得できるかもしれません」
「でも……」
確かに見た目は魔族のイザベラ・ベールだが、中身は人間のエレノア・ユンカースだ。
ヴィタリが私ならば、というのは中身が人間である事を踏まえている筈。つまり、マルコに正体を明かせば、もしかしたら……という話だろう。
「もちろん駄目だった場合、貴方の前世のように、剣をぶっ刺されるかもしれませんが」
「一度体験しているだけに簡単に想像できるからやめて!」
「失礼しました」
慇懃に頭を下げるヴィタリ。もしかして、私はまだ嫌われているのだろうか。
「しかし、今はまだやめた方が良いでしょう。魔王様とも、よく話したうえで、この話は慎重に進められた方が宜しいかと」
よく話したうえで、を強調された。
「分かってるわよ、こればっかりは私の命がかかってるし」
「私の場合も、一応可能性はゼロでは無かったと思うのですが?」
「え、そうなの?」
驚いてヴィタリの顔を見れば、呆れたという感情を隠す事も無く深いため息を吐きだされた。
「とりあえず、マルコ様への対応は一朝一夕には終わりません。しかし勇者達も待ってくれる訳が無いので、そちらへの対応はすぐにされた方が」
「そうね。マルコの件は、魔王様と相談しておく」
「それが良いかと」
とりあえず、片付けられる事からコツコツと。
椅子から立ち上がり、魔王様の下へとヴィタリと一緒に向かう。
今回の一件で、またしばらく勇者達が大人しくしてくれればいいのだけれど……。




