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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第四章】ドラゴンとメイドと来訪者
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円卓の七人 その4

 キルトランスがタタカナルへやってきてからの顛末(てんまつ)をあらかた話し終えると、イルシュはしばらく腕を組んで沈黙していたが、絞り出すようにして「なるほどなぁ…」と(うめ)いた。

 意外な事に話している途中に彼女からの質問はほとんど無かった。

 それはつまり、彼女が比較的素直にこれらの話を受け入れたということなのだ。

 その穏やかな時間を破るようにモルティ副団長が口火を切った。


 「それはともかく…」

 一瞬言葉を止めて様子を伺うモルティ。さすがに三度目の邪魔は入らないようだ。

 「今度は、イルシュ軍曹がこの村に来た経緯をお聞きしたいのですが、よろしいですか?」

 彼女をしっかりと見据えて言うと、虚を突かれたイルシュが少し慌てる。

 「え?あ、ああ、理由?うんとね…。」

 動揺を隠しきれない様子で、何か適当な理由を考え始めたようだが、そこにモルティ副団長がぴしゃりと言い当てる。

 「噂のドラゴンの偵察に命じられたのでは?」

 「あ…う…うん。」

 何か誤魔化そうとはしたが、結局素直に認めた。

 「いえ、そんなに恐縮しなくて結構です。」

 少し緊張を緩めたモルティ副団長はゆっくりとパンに手を伸ばす。

 「別にあなたの謀略が見破られた、とかいう話ではありませんから。」

 一つ千切ったパンを口に運ぶ。

 「近隣の街に、タタカナルがドラゴンに襲われて全滅した、という噂が流れているのは、こちらでもすでに知っていました。」

 「…すげえ速さだな…。」

 イルシュが素直に驚く。それに対してモルティが少し微笑む。

 「ですから、こちらも近いうちに帝国軍が動く可能性があるのではないか、と予想はしてたんです。」

 「そこにあなたがやってきた。」

 そう言ってスッと開いた目でイルシュの瞳を見つめた。特に悪い事をしていたわけではないのに、なんとなく気まずくて視線を逸らす。

 「恐らく、斥候を命じられたのでしょう。」

 「そ、そうだけど…?」

 諦めたように肩の力を抜いて正直に白状するイルシュ。

 だがその真剣な空気をジャルバがぶち壊す。

 「いや、てかさ。自分で諜報課って名乗った時点で、どう考えたって偵察だろ。」

 そう言って笑う。

 「あ…。」

 あまりの当たり前すぎる結論に、次第に顔が赤くなるイルシュ。

 「まあ、俺も(やぐら)の時点で帝国軍の偵察だって分かりましたけどね。」

 隣のホートライドも苦笑する。

 「うあああああ!!」

 恥ずかしさのあまりに赤面するイルシュ。もしかしたら、本気で彼女は自分が隠密をしてたとでも思っていたのだろうか。

 それでも彼女が少し落ち着くのを待って、モルティ副団長は話を切り出した。

 「で、どのような使命を受けてきたのか、差しさわりの無い程度に教えていただけませんか?」

 「え、そ、それは…。」

 さすがに口ごもるイルシュ。どんな簡単な命令でも、仮にも軍事行動を軽々しく口にするのは軍紀違反である。

 そこにレッタが彼女の頭をポンポンと叩いて

 「ね、誰も怒らないから、正直に話してよ。」

 とにっこり笑った。

 「いや、単にドラゴンがいるかどうか見てこいって言われただけだし。」

 ラクメヴィア帝国軍の諜報課は本当に大丈夫であろうか?

 あまりにあっさりと白状したので、一同拍子抜けである。

 「なんだよ。見てこいって言われただけか?」

 あんぐり口を開けたジャルバ。

 「う、うん。居ても居なくても報告するだけ。」

 子供のおつかいである。

 とは言え、本来諜報課は情報を集めて伝えるのが仕事であり、そこからの作戦は上層部が考える事なのだから、正しいと言えば正しいのだが。

 「で、実際にキルトランスがいたわけですが、どうしますか?」

 モルティ副団長の言葉にアリアが少しそわそわとする。やはり処遇が気になるのだ。

 腕を組み首をかしげ(うな)るイルシュ。

 「いやあ、私も見て来いって言われただけだから、『いました』って報告するだけだしな…。」

 「しかし、村を襲ったわけでも、村人に被害が出たわけでもないのです。」

 要は口添えをして欲しいという事を暗に言っているモルティ副団長。

 「そうなんだよな。問題は『ドラゴンいました。でも大丈夫な奴です』って報告して、上司が納得してくれるかどうかなんだよ…。」

 それを聞いて一同が笑う。


 それはそうであろう。

 それで「あ、そうなんだ、じゃ大丈夫だね」などと納得する軍部があるとしたら、いよいよ帝国崩壊の序曲になりえる由々しき状況だ。

 かといって「ドラゴンはいませんでした。」と虚偽の報告をしても、人の口に戸は立てられぬと言うもので、キルトランスの噂は広がってしまうだろう。

 まして「ドラゴンいました。村は壊滅していました」などと虚偽の上塗りをすれば、恐らく帝国軍は動くだろうし、運が悪ければ帝国聖騎士団(パラディン)が動きかねない。

 そうである以上は、イルシュは事実をそのまま伝えることしかできないのだ。


 モルティ副団長はみんなが笑う中、一人で思案しながら言葉を(つむ)ぐ。

 「イルシュ軍曹の悩みも分かりますから、ここはあなたが見たままの事実を報告してくれれば問題ありませんよ。」

 そう言われてもイルシュは納得しきれない。

 「でも、そんな報告したら、あいつらに『お前、絶対ビビッて見てこなかっただけだろ』ってバカにされる気がする…。」

 一堂が「あ~…。」と納得する。

 人間と言うものは自分の常識外の報告をされても、それを理解・納得しようとする賢明な者は少ないのだ。

 それはキルトランス襲来からの村の自警団を見ても明白である。

 しかしそう思うと、自警団からの報告を素直に信じて対処を命じた村長は、実は賢明な者なのかも知れない。


 ふと腕を解いて顔を上げるイルシュ。首を動かしてキルトランスの方を見た。

 「てかさ。私まだキルトランスが良いヤツだって信じてないし。みんなが話してただけじゃん。」

 どうやら彼女も自分で見ないと信じられない方の人間のようだ。

 それに対してキルトランスは不敵に応じる。


 「ここの皆が勘違いしている事がある。」

 その予想外の言葉に一同の空気が変わる。

 「私は良い者では無い。」

 自警団の面々とイルシュが眉をひそめる。

 「ただ、悪い者であろうとも思ってはいない。あくまでも私は自分の倫理で動いているだけだ。」

 察しの早いジャルバ団長がニヤリと笑う。

 「最初の三日間で言ったであろう。私は自分を襲う者に容赦するつもりはない。」

 「私が人間を…いや、ここタタカナルの村人を襲わなかったのは、彼らが私を襲わなかったからだ。」

 そう言って自警団を見る。三人ともすでに意図は理解したようだ。

 イルシュはそれを聞いてさも不思議そうに言った。

 「え、それって当たり前じゃん?誰だって襲われれば戦うし。」

 アリアとレッタも彼女に同意する。

 「それって善悪関係ないだろ。」

 それを聞いてキルトランスは少し顔をほころばせた。この程度の倫理観すら合わない相手であれば話し合いは難しいからだ。

 「そして私が自警団に協力しているのも善意では無い。あくまでもエアリアーナの家に泊めてもらっている恩返しのつもりだ。」

 それを聞いてアリアは複雑な顔をする。なぜなら彼女はキルトランスに村を守ってもらうために自宅に泊めている訳ではないからだ。

 するとイルシュ軍曹は再び首を(かし)げた。

 「うーん、それって普通だな。私だって帝国から給料もらって国を守ってるわけだし。それって善悪の問題じゃないよ。」

 そこにレッタが尋ねる。

 「じゃあさ、イルシュはお金もらえなくても帝国を守る?」

 彼女はそれに即答する。

 「んなわけねーじゃん。」

 その表情に一切の迷いはない。ある意味ではさすが職業軍人の家系とも言える。

 その清々しいまでの言いきりに一同は笑う。

 「な、なんだよ!私間違ってねーだろ?!」

 「ああ、全く持って間違ってないぜ。」

 ジャルバが笑いながら言葉を続ける。

 「ただ、正しいとも言えないけどな。」

 「あ…!」

 その言葉でアリアがハッと顔を上げた。珍しい彼女の発言に皆が顔を向けた。

 「つまりキルトランス様は、良いドラゴンでも悪いドラゴンでもなく、普通のキルトランス様ということですね。」

 その顔は嬉しそうであった。そしてその言葉を聞いたキルトランスも微笑んだ。

 「そういう事だ。先ほどから善悪で話をされていたのでな。勝手に『良いドラゴン』を押し付けられたら迷惑だと思ったまでた。」

 彼の唐突な話の意図が分かった一同は安堵(あんど)した。

 「なるほどなー。」

 そう言いながら椅子の後ろ足でゆらゆらと遊びながら、頭の後ろで手を組むイルシュ・バラージ。六人中三人が(おっぱいでけぇ…)と思った。

 「でもそれだったら、私はなんて報告書を書けばいいんだよ…。」

 そう言って少し考えたようだが、ふと思いついたように椅子をガタンと前に戻して手をテーブルに着いた。


 「よし!しばらくキルトランスを監視して見極めさせてもらうわ!」


 全員が驚きイルシュ軍曹を見た。

 「な、なんだよ…見られてマズいもんでもあるのかよ?!」

 予想外の反応に焦るイルシュ。ホートライドが焦りながら尋ねる。

 「それって…もしかして、しばらくタタカナルに滞在するってことか?」

 「ああ、もちろんそのつもりだ。」

 彼女は当然のように応える。もちろんしばらくの監視であるのならば、村の中に滞在するのは当たり前かもしれないが。

 レッタは少し興味がありそうに尋ねる。

 「どこに住むつもりなの?」

 「そりゃ、監視なんだから…エアリアーナの家だろ。」

 その言葉にアリアは戸惑いを隠せなかった。だがレッタはその決断に喜んだ。

 「アリアがいいのなら、ぜひそうしようよ。キルトランスが変なことしないか監視してもらおう。」

 三日に一度自宅に戻る生活をしているレッタにとっては、その一晩が気が気では無い。だからこそ、自分がいない間にキルトランスを監視してくれるイルシュはありがたい存在なのだ。

 「でも、アリアは迷惑じゃない?」

 自分の思惑があるにしても、やはり家主のアリアが許可を出さなければ、如何(いかん)ともしがたい問題である事には変わらない。

 その問いにアリアは戸惑いながらも応じる。

 「ええー…、わ、私はかまいませんけど…。キルトランス様は変な事はいたしませんよ?」

 「だから、それを確かめるために監視するんだってば。」

 もはや決定事項とばかりに強気のイルシュ。

 少女たちがワイワイと妙に楽しそうに話を勧めるのを聞きながら、キルトランスは思った。


 (…なぜ監視される私への同意確認がないのだろう…?)

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