円卓の七人 その3
宴会狂想曲も時が経てば多少は落ち着くもので、ひたすら食べていたイルシュも少しずつ話す余裕が出てきはじめた。
「タタカナル…田舎の村とバカにしてたけど…なかなかどうして…美味いものが多いじゃん…。」
食べながら話すイルシュ。
「この村は豊かじゃないが、海、山、川、野、全ての食材が手に入るんだぜ。」
メインを一通り食べ終わって、今は酒と肴を楽しんでいるジャルバが自慢げに話す。
もぐもぐと食べながら帝国南部の地図を思い出したイルシュは、その位置を見てなるほどと納得した。腐っても諜報課。その辺の情報はしっかりと頭に叩き込まれているようだ。
「それにしても…。」
小魚の干物を頭からかじりながらアリアの方を見るイルシュ。
「エアリアーナは盲目でもけっこう器用に食べるなあ。」
アリアが食べている様子を見ながら感心する。彼女も盲目の人は見かけた事はあるが、生活の様子を具に見た事はなかったからだ。
突然自分が見られている事を自覚したアリアは恥ずかしそうに恐縮する。
「い、いえ…。私なんかまだレッタがいろいろ手伝ってくれないと、何も一人ではできなくて、お恥ずかしい限りです…。」
食事の手を止まる。自分の食事作法に自信のないアリアは、人から見られていると思うとなかなか恥ずかしくて手が止まってしまうのだ。
「そんなことないよ。アリアは一人でもちゃんと食べられるもんね。はい、あーん。」
レッタがからかってアリアの口元にスプーンを近づける。
「も、もう…やめてよ…。」
照れながら少し怒ったように眉をしかめるアリアに、表情がデレデレするレッタ。
(私の目から見ても普通にかわいいよなぁ、腹立つことに…)
小魚の尻尾まで平らげて少しため息をついたイルシュ。
それをみてジャルバ団長がいらぬちょっかいを出す。
「お、さすがのイルシュ軍曹もそろそろ満腹か。」
「へ?いや、まだ全然食べれるし?」
このおっさん何を言ってるんだ?といった表情で次の皿に手を伸ばすイルシュ。
「そんな小さな体のどこに入るんだか…。あ、おっぱいか。」
そう言って笑うジャルバ。
イルシュの手が止まり、レッタの目が冷たいものになる。彼女の胸の豊満さを知らないアリアだけが何のことを言っているのか分からない顔だ。
「ほんっっっとさぁ…男って胸しか見ないのな…。毎度毎度同じ事言いやがって…、聞き飽きたっつーの。」
食事はまだ入るが、その手の話は心底満腹と言った感じの表情のイルシュ。
確かに彼女の人生で胸の事で男からからかわれる事など日常茶飯事であり、実際にさっきのジャルバと全く同じ言葉を言われた回数なら、両手両足を使ってもまだ足りない。
だがアリアの目の事を言った彼女も、お互いさまと言えばお互い様かもしれない。
本人は飽きるほど言われた事でも、初めて見た人にとっては気になる事なのだから仕方ないのだが。
だが思わぬ方向から横やりが入った。
「でもイルシュのおっぱいってホント大きいよね。私もさっき見て思った。」
グラス片手にレッタが真顔で言った。
言っている事は同じなのに、イルシュが突然恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「え…さ、さっきって…?」
「ああ、お風呂で。」
しれっと言い切るレッタ。
「あああああああ!!やっぱ見られてた!!」
顔を真っ赤にしながら恥ずかしがって頭を抱えるイルシュ。
同じ見られるにしても、服の上から見たジャルバと、直接見たレッタでは恥ずかしさの度合いが違うのだ。
レッタは苦笑いしながら言葉を続ける。
「ああ、ごめんごめん。でもさすがに女のアタシでも、そのおっぱいは思わず見ちゃうわ。」
謝っているのやら、言い訳してるのやら。
「ですよねー…。ホントこのデカい邪魔なもんのせいで人生苦労しっぱなしだわ…。」
しみじみと漏らすイルシュ。その声には体験した本人にしか出せない苦労がにじみ出ていた。
「分かるなぁ。イルシュほどじゃないだろうけど、アタシもけっこう言われてヤな思いしてるし…。」
うんうんと同意するレッタ。するとイルシュは慌てて否定した。
「いやいや、お姉さまマジでスタイルいいし!私、さっき初めて見た時、びびったもん。」
「えー、そんなことないって。」
苦笑しながら手を振って謙遜するレッタ。
そこに再びジャルバがいらぬちょっかいを出す。
「おいおい、なんでオレの時と反応違うんだよ。レッタは見てもいいのかよ。」
すると二人は死んだ魚のような眼で真顔になる。
「なんて言うか…イヤなの。」
「胸を見られるのがイヤなんじゃなくて、男に言われるのがウザい。」
「黙ってチラチラ見るならまだしも、なんでわざわざ言うかな?」
「言ってもウザいけど、黙っててもウザい。」
二人はブツブツと恨み節を垂れ流す。
その異様な光景にさすがのジャルバも大人しくなった。
ふと我に返ったレッタがため息をつきながら話した。
「…イルシュ。この話やめよっか。おっさんたちが喜ぶだけだわ。」
「そうっすね…レッタお姉さま…。」
こうして巨乳同盟(?)の話は強引に幕を閉じられたのであった。
もっともおっさんたちと言っても、ホートライドが少し恥ずかしそうにチラチラ見ている程度で、モルティは我関せずと淡々と食べていたし、キルトランスに至っては完全に話を聞かずに食べていたのだが。
だがもっとも可哀想だったのは、女であるにも関わらず全く会話に参加できず、同意もできずにポカーンと聞いているだけであったアリアだったのかもしれない。
「そ、そういや、どういう経緯でキルトランスはここに?」
沈黙をごまかそうとイルシュが突然キルトランスに話を振った。
話を全く聞いていなかった彼はしばらく固まっていたがポツポツと話しはじめた。
「どこから話すべきなのか分からぬが…。」
こうして彼がアルビに来てからの詳細な足取りを、イルシュに話す事になった。
それはキルトランスの話ではなく、ここにいる六人の、この村の物語である。
時に一人で語り、時に互いの知っている事実を補完しあう。
一人の龍が今、こうして円卓を囲むに至った物語。
それを興味深く聞いていたイルシュ軍曹は(なんだよ。いちいち調べなくてもこいつら勝手に全部話してくれんじゃん。ラッキーだなおい。)と内心ほくそ笑んでいた。
そして先ほどから話を邪魔されたモルティ副団長は(遠回りしましたが、これでようやく本題に入れそうですね…。)と内心ため息をついた。




