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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第二章】ドラゴンと少女と自警団
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二人きりの夜 その1

 エアリアーナの部屋に入ってから、彼女の頭は混乱の極みであった。

 なにせ部屋に入ってから未だ一歩も動かず、後ろにはキルトランスがどうしたものかと立ち尽くしている状態が続いているほどである。

 そもそも部屋に向かうあいだも、頭の中は「部屋は綺麗だったかしら?」「どこに寝ていただいたら…?」など考えっぱなしである。

 そのおかげで長年慣れ親しんだはずの自分の部屋に戻る間に、二回も突き指をしてしまった。

 その度にキルトランスに心配をされるが、彼女は大丈夫と言い張って振り切ってきた。本当は爪が痛いのに。

 そして部屋はレッタが綺麗にしておいてくれていると信じて、部屋に踏み込んでからも次々と悩みが彼女を襲う。

 実は一緒に寝ると言っておきながら、どこで寝るのかを全く考えていなかったのだ。

 それもさることながら、彼女は今一つの非常に重要な事に悩んでいた。


 着替えるべきか、そのまま寝るべきか。それが問題だ。


 アリアは基本的に着替えもレッタに助けてもらっていた。

 もちろん簡単な袖を通すことや、ボタンを留めるという行為は自分でやっていたが、細かい部分や背中の紐を結ぶことはレッタに頼んでいた。

 もちろん脱ぐことはできなくはない。そして簡単な寝間着に着替えるくらいなら彼女一人でもできる。

 一番の悩みはキルトランスが今、自分の背中に立っている事だ。

 レッタと二人きりの時は何も考えずに着替えさせてもらっていた事も、その相手がキルトランスとなると話が変わってしまう。

 もちろんキルトランスに服の着脱を手伝ってもらうのは、恐らく彼が人間の服に精通していないために困難だという事は想像に難くない。

 目下、最大の悩みは「キルトランスの目の前で裸になるのが恥ずかしい」という事だ。


 とは言え、年頃の乙女の悩みとしては至極正常な内容であろう。

 裸とは言っても、もちろん下着は着ているから本当の意味での全裸ではないのだが、下着一枚あればいいという話でもないのだ。

 子供の頃ならいざ知らず、彼女の体も年々成長を遂げ、今では十分に女の体になってしまっている。

 もちろんレッタには昔から裸を見られまくってるし、触られまくっている。

 なにせ村の風呂屋に行けば、彼女に体を洗われるのは昔からだ。しかしレッタは何と言っても同性である。

 雄…男のキルトランスとは感じ方が雲泥の差だ。

 いくら目が見えなくて他人の視線には気づきにくくても、キルトランスが魔世界のドラゴンだったとしても、見られるのが恥ずかしい事には変わらない。

 ましてアリアは自分の体を触覚以外に知らない。自分の体が客観的に見て、どうなのかが全く分からないのだ。そして唯一の比較可能な対象がレッタであるが故に、自分の体に全くの自信が無い。

 もちろん「いったん外に出ておいて」と頼むのも手ではあるのだが、そもそも一人で完璧に着替えられる自信もなければ、何分かかるのかもわかったものでは無い。


 ふと気が付くと、アリアは部屋のソファに座っていた。

 そしてキルトランスは窓辺で外を見ていた。

 あまりにも混乱した頭は、何がどうなって現在の状況になったのかを思い出してはくれなかかった。

 それでも現状を把握したアリアは、大きく一度深呼吸をして再度悩み始めた。

 そんな彼女をキルトランスは一瞥(いちべつ)したが、特に話し始める様子もないのでやはり黙って様子を見ることにした。

 彼の目から見ても、アリアが何かを考えているのであろう事くらいは感じ取れたからだ。


 「キルトランス様…寝ましょうか。」

 たっぷりと時間が過ぎた後、彼女はこう言った。

 キルトランスは「ああ」と短く答えて彼女の方を向いた。


 結果として彼女は着替えないで寝る方を選択したのである。

 服のまま寝たらレッタに怒られるかな、なども頭の中をよぎったのであるが、恥ずかしい思いをするくらいなら怒られた方がマシだと思った。

 実際はレッタはそんな事では怒りはしない。

 むしろ一番怒る理由があるとするなら、それはキルトランスと一緒に寝る事であり、その前では服など些末(さまつ)な問題であろう。


 「キルトランス様は昨日はどのようにして寝られたのですか?」

 ふと思ってアリアは尋ねる。

 「レッタに言われたとおりに…。」

 彼はそう言って少し止まった。

 昨日初めて教えてもらった「ベッド」という単語が出てこなかったのだ。

 仕方なく指して「それの上で…。」

 そして再び硬直。

 指し示したところで、アリアには分かってもらえない事に気が付いたのだ。

 仕方なくしばらく考えた結果「その白い寝床の上で寝た」と伝えた。

 そして意思疎通がこんなにも難しくなるものかと思った。少しだけ人間の常識を知らない自分と、少しだけ目が見えないだけの少女、ただそれだけであるのに。

 だがそんな状況も、なぜか億劫(おっくう)ではなかった。


 覚悟を決めたアリアはゆっくりとベッドを探しだすと、その縁に腰をかけた。

 「それでは寝ましょうか。」

 そう言ってベッドに手を置く。

 キルトランスは(うなず)くと、ふわりと宙に浮いてベッドの上に移動すると寝る姿勢になって、言われたとおりにベッドの上に降りた。

 するとベッドはギシギシと悲鳴を上げた。その音にアリアは驚いて飛びのいた。

 それもそうであろう。

 これは人間用のベッドであり、どんなに重くてもせいぜい百キログラム程度の人間が寝ることが前提で作られているのが普通で、キルトランスとアリア、合わせて二百キログラムを超える重量用には作られていないのだ。

 「…壊れませんかね?」

 アリアは恐る恐る再び腰をかけて様子を見る。

 「…さあな。これがどういう物かが分からないから何とも言えない。」

 丸くなったまま答えるキルトランス。


 実は昨日の夜、キルトランスも同じことを悩んでいた。

 二人が部屋を出て行って一人になると、言われたとおりにベッドの上で寝ようとしてベッドの上に立つと、ベッドがものすごい音を立てて(きし)んだために慌てて宙に浮いた。

 一瞥(いちべつ)すれば木製のベッドであることはキルトランスにも分かったので、「ああ、これは枝が軋む音と同じだ」とはすぐに気が付いたが、それによって逆に「これはもしかしたら折れるのではないか?」との不安が(よぎ)った。

 客人として部屋をあてがわれた以上、その部屋の物を初日から壊すのはいかがなものかと思い、試行錯誤の末、魔力で浮きながら何度も体重をかけて、ゆっくりと負荷をかけながら耐久度を試すと言う方法と採用した。

 そして何度目かの試行の後に、ようやく壊れなさそうだと判断して魔力を抜いた。

 途中、面倒だからもう床で寝てもいいのではないかとも思ったが、人間が寝ていると言うベッドを使ってみたかったという好奇心が勝った。

 彼の努力の甲斐もあり、結果としてベッドというものは思った以上に柔らかく快適に寝られた。多少狭い事を除いては。

 キルトランスがアリアに言われるがままにベッドに寝転がった行為の裏には、昨夜の彼の努力の結果があった事は誰も知らない。


 そしてアリアも昨夜のキルトランスよろしく、腰を下ろして少し体重をかけてみたりして試した後に、大丈夫だろうと判断して寝る姿勢になろうとした。

 そこでまた新たな問題に直面することになる。

 「あ…。」

 シーツに手を滑らせて横になろうとした時に、彼女の手がキルトランスの体に触れたのだ。もちろんキルトランスがベッドの上にいることは彼女も分かっていたので、それに驚くことはなかった。

 それよりも驚いたのは彼の大きさである。

 そのベッドはレッタと二人で寝る分には十分なサイズのセミダブルであった。

 だから二人で寝られると思って提案したアリアであったが、キルトランスの大きさはその予想を超えて大きかった。

 もちろん人間であれば、仰向けで寝ればそこまで場所をとることもないのだが、ドラゴンというより「翼を持つ者」すべてに共通して言えるのは「仰向けで寝ることが出来ない」という現象だ。

 もちろん鳥はともかくドラゴンは知能の高い種族である。

 翼の間隔よりも狭い枝を探して、そこに仰向けになれば翼を傷めることなく寝る事は出来る。そのくらいは誰でも出来る行為であり、むしろドラゴンの子供の通過儀礼的な遊びである。

 小さなドラゴンが木の枝でひっくり返っているのを見て、大人のドラゴン達は昔を懐かしむのはよく見かける風景であった。

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