一緒に寝るというだけの事
「あの…今晩はどちらで寝られますか?」
「私の部屋は昨晩と同じ部屋ではないのか?」
エアリアーナの長き沈黙の中での苦悩は、朴念仁の即答によって水泡に帰した。
「あ…はい。そうでございますよね。」
少し落胆した表情で応えるアリアと、その質問の意味が全く理解できていないキルトランス。
「…?部屋の交換をするのか?」
「いえ、そういう意味ではございません…。」
「ではどう言う意図だ?」
本気で理解できていない彼の追及には容赦がない。
言い出すだけでもけっこうな勇気が要った彼女にとっては、これ以上の追及はある種の羞恥攻めにも近い。
「あ、あの…その…。」
必死で慎重に言葉を探すエアリアーナ。
その慌て振りにさすがのキルトランスも少々気が引けたのか、口を閉ざして言葉を待つようにした。
「今晩、同じ部屋で寝ていただけませんでしょうか?その…一人で寝るのが…なんだか少し怖くて…。」
たっぷりと時間をかけてようやく少女は口を開いた。
彼女の名誉のために述べておくが、少女エアリアーナは決して邪な気持ちで言ったのではない。それは純粋な恐怖心からであった。
先ほどキルトランスが愛でていた静寂は、彼女にとっては異質で恐ろしい物であった。
いつもであれば村人の活気が感じられる宵の口。
その余韻を感じながら眠りにつき、鳥の声とともに目覚める少女からしたら、今宵の静寂は今まで体験した事のない物であった。
昨夜はレッタがずっと共にいて、そんなものも気にならないほど彼女が世話を焼いてくれた。しかしそのお節介好きの少女も今晩はいない。
そして先ほどの静寂の中、ふとそろそろ寝る時間であることに気が付いたアリアは、急に静寂が怖くなったのだ。それは村が死に絶えたような静寂であったからだ。
そんな中、一人で眠る事を考えると途端に寂しくなって、ふとキルトランスと一緒に寝たら安心できるのではないのかと思い至ったのだ。
しかし少女も決して子供とは言えない歳であった。それこそ結婚を意識するほどには。
一般的なアルビの家庭であれば、子供は子供で寝るのが当たり前の歳であり、一人で寝るのが怖いなどと言えば村人たちに笑われる歳である。
そういう事情から、アリアはキルトランスに提案するのを憚っていたのだ。
「そうか。分かった。」
彼女の躊躇いなどどこ吹く風。キルトランスは即答した。
なにせ人間の風習など何も知らない彼は、どんな状況でも(そんなものなのか…)と納得するしかない。
昨晩のエアリアーナとレッタが一緒の部屋で寝る、と言うのも「そうか人間は寄り添いあって寝るものなのだな。」としか思っていなかった。
会って数日の自分が警戒されて、別の部屋で寝るのは致し方ない事である。過剰に警戒するレッタに対しても仕方あるまいと納得していたのだ。
なにせ人間は弱い。
弱い故に力を合わせて寄り添いあって生きるものだ、という彼の中の納得もあった。
だから今晩の寄り添う相手がいないエアリアーナが、キルトランスに助けを求めるのは十分に理解できることであり、そして彼女はキルトランスを全く警戒していない事は、この三日間で十分に知っていた。
だからこそ、彼は彼女の提案に何の躊躇もなく同意したのだ。
「ありがとうございます…。」
アリアは少々恥ずかしそうに、はにかみながらもお礼を言った。
もちろん彼にもやましい気持ちなど微塵もない。
それは当然である。そもそも人間と言う他世界の異種族を数日前に初めて見たのだ。
エアリアーナにしても、しばらく人間をいろいろ観察していてようやく雌雄の区別をつけたほどなのだ。彼女を雌として認識するにはまだ早すぎる。
人間で言えば、一緒に寝る犬が雌だったからと言って、心配する人間がいるのか?という程度の話なのだ。
こうして二人は夕食を片付けて彼女の寝室に向かう事になった。
今回は少々短くてすみません。これでしたら前回の話に含めても良かった気がします。




