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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第二章】ドラゴンと少女と自警団
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人間と魔族の契約

 「ねー、団長さま。まだその話長くなる?」


 再びレッタの何の緊張感もない言葉。

 団員にも一気に脱力が広がった。

 「ずっと立ってるの疲れるから、アリアを座らせたいんだけどいい?」

 ジャルバ団長もすっかり毒気を抜かれた顔をして、ホートライドに至っては苦笑いを隠す事もなかった。

 「好きにしろ!」

 団長が投げやりに叫ぶ。

 「やったね。ありがとう。」

 そう言ってレッタは、アリアに手を添えながら一緒に石段に座った。少し高くなってきた太陽が二人を暖かく包んだ。

 しかしこの二人の少女の緊張感のなさが、状況を良い方向に動かし始めた。

 なにせ一番の被害者であるはずの少女たちが、全く恐れても困ってもいないからだ。


 「と、とにかくだ。」

 ジャルバ団長が咳払いをする。気を引き締めようとしたのだが、一度抜けた緊張はそうそう戻るもではない。

 「キルトランス、お前の言い分をひとまず聞こう。」

 団員がざわめくのを団長は一喝した。

 「団員整列!」

 そこはさすが私兵と言えども自警団。団員たちは弾かれたように走り、団長の後ろに整列した。

 「それでは暫定として、一時的な不可侵契約を結ぶ事とする。」

 ジャルバ団長はそうはっきりと宣言して剣を正眼に立てる。これは団員の誓いの姿勢であるが、もちろんキルトランスにはよく分からなかった。

 「期限は三日とする。この間、キルトランスはこの屋敷から出ない事を誓え。」

 キルトランスはしばし考えたがはっきりと答えた。

 「誓おう。」

 「それでは我がタタカナル自警団はこの間、この屋敷に立ち入らない事を誓おう。」

 そう言うとジャルバ団長が流麗な納刀をする。乾いた音が小気味よく鳴る。

 それに合わせ団員も納刀をした。


 目まぐるしく状況が変化する中でもジャルバ団長は必死に思考した。

 この圧倒的戦力差。自警団が全員集まっても恐らく瞬殺。それどころか、村を壊滅させるのすら容易(たやす)いだろう。

 もし先ほどの炎を村の中心で爆発させたら、それだけで中心部は全滅かもしれない。故にここで戦うのは完全な下策。

 もちろんキルトランスが早々に飽きて、村を出て行ってくれれば万々歳。だが、どうもその可能性は低そうだ。

 ならば何らかの対策を取るまでの時間稼ぎがしたい。

 そう考えた上での提案であった。


 「それでは団員は本部に撤収するぞ!」

 そう言うと団員たちが門の出口に向かって歩き出した。その時キルトランスが声をかける。

 「ジャルバ、団長。」

 「なんだ?」

 驚いてジャルバ団長が振り返る。まさかドラゴンから声をかけられるとは思わなかったからだ。

 「三日間の間、お前と…そこの…顔を出している人間。」

 「ホートライド・ガルだ。」

 ホートライドはご丁寧に名乗りを上げる。

 もちろんこれも小芝居だ。昨日の夜、二人は会っていない、初対面だと印象付けるための。

 「ホートライドとやら、二人は屋敷に入っても良いぞ。」

 「…何のために?しかもなぜホートライドを?」

 (いぶか)しげに団長が問い返した。

 一瞬答えに躊躇(ちゅうちょ)したキルトランスだったが、

 「話をするためだ。それと…顔を隠してなかったから、顔を覚えたのはお前たち二人だけだからな。」

 ともっともらしい理由を咄嗟(とっさ)にでっち上げた。

 ジャルバ団長は考えた。ドラゴンから何を話すことがあるのだろうか?

 だがキルトランスはそれを見越したように言葉を続ける。

 「話さなければ三日間、何も変わらないからな。」

 それはその通りであった。

 完全に三日間を対策の時間稼ぎだと思っていた団長は、虚を突かれてハッとする。

 「なるほど…分かった。それでは何かあればオレかホートライドが使いとして来よう。」

 そう言うジャルバ団長の隣でホートライドが頭を下げた。

 ジャルバ団長は確信した。このドラゴンは完全に知性があり、話し合いが通じる相手だと。

 そして相手も話し合いを希望するような、平和的なモンスターなのかもしれない。ともすれば、平和的解決の道があるのかもしれないと。

 だがそんな希望的予想を頭の中から振り払ってジャルバ団長は門に向かった。

 彼はこの町の治安を維持する責任者である以上、常に最悪の事態を考慮しなければならないのだ。


 ジャルバ団長が門を出たのを確認して、ホートライドが門を閉めようとした時に、突然レッタがホートライドを呼び止めた。

 ここでさっそくキルトランスの提案が生きたのだった。

 レッタはホートライドの元に駆け寄ると、お昼の食材を買ってくるように頼んだのだった。

 爆笑する団員たち、苦虫を噛み潰したような顔のホートライド。浮かない顔のジャルバ団長。

 ホートライドは真剣な顔で一度家に戻る事を提案したが、レッタはさっさと彼に背を向けて歩き出した。

 「アタシはアリアが大丈夫になるまで帰らないよ。てか今までだってそうだったじゃん。」

 そう言ってくるりと振り返ると、「それにこのまま帰ったら、絶対にお父さんもお母さんも、二度とアリアのところに行かせてくれないに決まってるし!」と続けた。

 それは娘を心配する両親として当然の対応であろう。

 だがそのあまりにも屈託のない笑顔と言い方にホートライドは頭を抱えた。ご両親になんと説明したらいいのやら、と。

 ふり返ったレッタに何か声を掛けようと口を開いたが、上手く言葉が続かない。そんな彼を尻目に、後ろ手に手を振りながら「じゃあね」とアリアの元に歩き出すレッタ。


 色々な思惑が交錯したにしろ、タタカナルの自警団と魔世界の住人との初の邂逅(かいこう)は、辛うじて平和裏に終わる事が出来た。



 だがホートライドの仕組んだ茶番劇の効果は思った以上にあった。

 圧倒的な力を見せつける事によって、前夜から自警団内を二分していた強硬派は一気に消沈して、とにかくドラゴンを怒らせないようにする、という方向に帰結したからだ。

 もちろん最後まで強硬論を唱える若者もいたが、現場に居合わせた団員たちによって(なだ)められてしまった。

 そのかわりに平和的解決案が多数派になりつつあった。

 そしてその筆頭が団長ジャルバである以上、他の団員はおおっぴらに強硬意見を言いづらくなってしまったのだ。


 しかし庭での対話の時にアリアが叫んだ「キルトランス様」という言葉が、後々に一つの禍根になってしまう事をこの時の彼女が知る由もない。

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