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門番たちの悲鳴

「おい、待ちやがれ。見ねえ顔だな」

リメインの街の正門。鉄格子のゲートの前に歩み出た俺たちを遮るようにして、槍を手にした二人の男が不躾に立ち塞がった。

彼らが身に着けているのは、やはり衛兵の制服ではなく、薄汚れた革鎧。ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべるその佇まいは、街道でボコボコにした奴らと同じ、盗賊団『黒い牙』の構成員そのものだった。

「ひっ……!」

俺の斜め後ろで、シエラが息を呑んでフードを深く被り直す。

しかし、そんな付け焼き刃の変装が通用する相手ではなかったらしい。

「あぁん? ――って、おい、その隣の女……まさかルミナス家のお嬢ちゃんじゃねえか!?」

右側にいた小太りの男が、シエラの顔を見て弾かれたように叫んだ。

「ビンゴだ! バルド頭領が躍起になって探してた獲物が、向こうから歩いてきやがったぜ! 運が向いてきたなぁ!」

左側の髭面の男が、下品な歓声を上げて槍を突き出してくる。

人間の、ねっとりとした濁った悪意。他人の不幸を自分の利益に変えようとする、浅ましい感情の波動が、俺の脳へダイレクトに伝わってきた。

いつもなら吐き気がするような人間の汚さ。だけど、今の俺にとっては、これが高級レストランのメニュー表に見えて仕方がなかった。

「なぁ、お前ら。そのバルドって頭領に俺たちを突き出す前にさ、一つ聞かせてくれよ」

俺はブレザーのポケットに手を突っ込んだまま、退屈そうに首を傾げた。

「あぁ? 何だお前。そのふざけた格好は。……あ、そうか! 街道で見張りをしてた前歯の欠けた大男たちを、お前が……っ!?」

髭面の男が、ようやく俺の存在の異常さに気づいたのか、怪訝そうに眉をひそめた。

それと同時に、彼らの心の中に、わずかな『警戒』の感情が芽生える。

しかし、まだ足りない。ただの警戒じゃ、スープのダシにもなりゃしないんだ。

「何を聞きたいかって? ――お前ら、自分が今からどんな目に遭うか、想像したことある?」

「はあ? 何を言って――」

俺は一歩、強く踏み出した。

その瞬間、体内で渦巻く黒い魔力を、正門の周囲一帯に向けて一気に**【解放】**した。

ドォォォォン――ッ!!!

物理的な衝撃波ではない。ただの、圧倒的な『殺気』と『威圧のオーラ』。

だが、第2話で魔狼、第4話で下っ端たちの恐怖を完食して出力バグを起こしている俺の魔力は、すでに一介の人間が耐えられる領域を遥かに超えていた。

「が、はっ……!? な、なんだ、これ……っ!?」

小太りの門番が、突如として空間を支配した『死のプレッシャー』に耐えかねて、その場に膝をついた。

息ができない。まるで首を太い縄で絞められているかのように、彼らの顔がみるみるうちに土気色へと変わっていく。

「ひ、あ、あああ……っ! 身体が、動か、ねえ……っ!」

髭面の男も、持っていた槍をガタガタと震わせ、恐怖のあまりその場に直立不動のまま硬直してしまった。

驚くべきことに、彼らの全身の毛穴という毛穴から、鮮やかで濃厚な青白い『恐怖の霧』が、まるで間欠泉のようにブワァァァッ! と勢いよく噴き出し始めたのだ。

「これこれ! これだよ! 最高の香りがするじゃん!」

俺は狂ったように笑いながら、正門の前に立ち込める彼らの恐怖の霧を、両手を広げて思い切り口のなかに吸い込んだ。

――グ、ブゥウウウウウウッ!!!

「、あ――……ハハッ、美味い! 五臓六腑に染み渡るわ……っ!」

脳が歓喜の悲鳴を上げ、全身の細胞がバキバキと音を立てて再強化されていく。

悪党どもが放つ、社会的立場も、武器の優位性も、すべての自信をへし折られた瞬間の『ガチの絶望』。その味は、街道の奴らのものよりも、さらにプレッシャーがかかっている分、濃厚でジューシーだった。

「ひ、ヒィィッ……!? こいつ、化け物だ、悪魔だぁぁぁッ!!」

小太りの男は、恐怖のあまり完全に失禁し、地面を這いずりながら街の中へと逃げようとする。

対して、髭面の男は恐怖で精神が崩壊しかけており、ただただ「助けてくれ、来ないでくれ」と涙を流してオウムのように繰り返すばかりだった。

「おいおい、門番だろ? 仕事しろよ」

俺は這いずり回る小太りの男の襟首を、まるで仔猫でも摘み上げるようにして片手で持ち上げた。

そうして、恐怖で白目を剥きかけている彼の顔を、至近距離から覗き込む。

「バルドって奴のところに行って、伝えてきな。――『今夜のディナーは、お前だ』ってさ」

「ひ、ひゃいぃぃぃっ……!!!」

俺が手を離すと、小太りの男は腰を抜かしたまま、四足歩行の猛烈なスピードで街の奥へと脱兎のごとく逃げ去っていった。

残された髭面の男は、もはや恐怖の霧を出し尽くしてガタガタと震えるだけの『出がらし』だ。

「さぁ、シエラ。ゲートが開いたぞ。中に入ろう」

俺は、何事もなかったかのようにブレザーの埃を払い、振り返ってシエラに笑顔を向けた。

しかし、当のシエラは、門番たち以上に顔を真っ青にして、完全に硬直していた。

「カイト、様……。あなた、は……本当に、私たちを救ってくれる、神様、なのですか……? それとも……」

彼女のエメラルドグリーンの瞳には、圧倒的な『畏怖』が宿っていた。

無理もない。街を支配する恐怖の象徴だった『黒い牙』が、俺にとってはただの『食材』でしかないのだから。

彼女の身体から、澄み切った、最高品質の青白い霧がゆらゆらと立ち上り、俺の鼻腔を心地よく刺激する。

「神様? そんな大層なもんじゃないよ」

俺は彼女の横を通り過ぎ、開かれた鉄格子のゲートの向こう側――悪党どもの恐怖が満ち溢れるリメインの街へと、堂々と足を踏み入れた。

「俺はただの、お腹を空かせた旅人さ。――さぁ、本番といこうか」

不夜城のように怪しく輝く街の灯りが、俺の狂気的な横顔を、どす黒く照らし出していた。

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