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076 ラッキー



「オウル、なんでオマエが居るんだよ」

「端的に言えばトラブルだよ」


 いつもの口調に戻ったクロウが肘で小突くと、犬の仮面をした男……『おじさま』に扮したオウルはさらりと答えた。

 ここはVIPルーム、もとい『ルミナス・ラウンジ』。

 豪華だが上品な調度品で飾られた部屋は個室となっており、案内を担当したスタッフ曰く「情報の機密も守られるので()()に最適」。


(とはいえ、主人のレットンには内通しているんだろうが……)


 ソルドはかつていた街で似たようなサロン経営で情報を集め、裏でそれを犯罪組織に提供して儲けていた男とその末路を思い出しつつ、一応盗聴器や盗み聞き用の仕掛けが無いか警戒してみる。

 まあ、魔法で盗聴されていたら防ぎようは無いのだが。


「本来君らと合流する予定だった『おじさま』、先に潜入していた工作員が消された。僕はその代わりさ」

「消されたって……」


 絶句するクロウに、オウルは「ああ」と頷く。


「彼の相棒(バディ)から連絡があったんだ。本来の『おじさま』は昨日時点で姿を消し、現時点まで戻っていない。相棒の方は外で待機していたそうだから、そもそもこの『ルミナス・ストリーム』から出る前に()()があったようだ」


 オウルの重苦しい物言いに、ステラが息を呑む。

 その音を聞いたソルドは彼女の意を汲んで、代理で挙手した。


「なら潜入はバレているということか?」

「僕や君らが無事な時点で確証を持たれているわけじゃないだろうけど、感づかれてはいるだろうね。けれど、僕個人としてはむしろラッキーな状況だとも思えるよ」

「向こうは怪しんだやつを消すために接近してくるからか」

「その通り」


 オウルは携えていた鞄から紙を取り出し、テーブルに広げた。

 それは『ルミナス・ストリーム』のフロアの見取り図であり、オウルは「ここだ」とその中の一点を指差した。「仲間が消されてんのにラッキーだと?」と憤るクロウのことは、ソルド共々無視している。


「先に潜入していた彼が最後に調査を行おうとしていた扉がここにある。曰く、地下に続く階段がある、と。僕らは『ルミナス・ストリーム』の既知の出入り口を常に監視しているから、彼が生きているのであれ死んでいるのであれ、ここの階段が一番怪しい。そしてもし、彼が生きたままこの階段から続く地下に囚われているとするならば、レットンも同じ場所に囚われている可能性は高い。人を隠しておける場所がそんなにたくさんあるとは思えないからね」

「要するに、俺たちはわざと怪しまれてここに連れて行って貰えばいい、と」

「またも、その通り。ただしあくまでも平和的に。暴力沙汰で追い出されたりしたらそもそもの前提が吹っ飛んでしまうからね」


 見取り図をくるくると巻いて鞄に仕舞いながら、オウルは仮面の下でニッコリ笑った。


「幸いなことに、平和的に目立つ方法は君自身がさっき示してくれた。アホみたいに賭けて、アホみたいに勝って勝って勝ちまくればいい。大損害が出始めたら支配人も出てこざるを得ないだろうからさ。グッド・ラック!」


 ーーーーー


「こうしてみると、獣人のお手伝いさんを連れている方が本当に多いわね……」

「オレ、じゃない私たちみたいなのは昔っから貴族の奴隷をやっていたっすからね。奴隷制自体が廃止になったところで、できる仕事を選んだらそうなっちまうと言いますっすか」

「スタッフさんも獣人が多いし……わたくしたち、何もしていなくても目立っているのではないかしら」

「ジュースを行儀悪く啜っているところ申し訳ありませんお嬢様。どうして何もせずにこうしてバーカウンターからフロアをボーっと眺めるのに時間を費やしているのでしょうか」

「だって不安なのですもの。そんなにトゲトゲしなくてもいいじゃない」


 ずずずっ、とコップに注いだミックスフルーツジュースを啜って、ステラは不満に満ちた目でソルドを見上げた。


「賭けに勝ちまくればいい、ですって。そんなの作戦でも何でもないわ。賭けというのは、誰も安定して勝てないから成立するのではなくて? 『おじさま』も無茶なことを言うわ」

「理屈としてはまったく正しいです。が、ここでの賭けに関してはその心配は要りません。私がさっきやってみせたでしょう」

「『ジャスト・ジャック』で連勝していたやつですか? あんなの偶然です。それとも、何か必勝法でもあるんですか」

「トータルで勝つだけなら」

「……何かインチキをしているんじゃないでしょうね」

「向こうが先に仕掛けてきているのですから、私も同じことをするだけですよ」

「えっ、本当にインチキをしているの!? やっぱりあんなに6が連続するのはおかしいと思った!」

「お嬢様の時は普通に運でした。ディーラーの手元に不審な動きはありませんでしたし」

「じゃ、じゃあどうしてインチキだってわかるのよ」

「論より証拠と言いますからね」


 ソルドはふぅと息を吐き、場内のギャンブルをいくつか見繕って言う。


「お嬢様の忠実なる執事『S』として、あなたの不安を吹き飛ばすちょっとした手品を披露いたしましょう」

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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