072 お供
「その様子だと『説得』は済んだみたいだな。気に食わねえ」
ソルドたちの『客室』から少し離れた場所にある給水塔。
そのそばにある比較的大きな小屋に彼らを連れて現れた良い騎士オウルに対し、鉄扉の前に立つ悪い騎士クロウは吐き捨てるように言った。
その表情は相変わらず兜の下だが、相変わらず分かりやすくムカついているらしい。
「むしろやり込められた方だ。彼らの方から歩み寄る申し出があったから話がまとまっただけだよ」
「はいはい、分かったからその人造さわやかスマイルをオレに向けるのをやめろ。気持ち悪ぃ」
「君だって一生懸命怒り顔を作っているくせにね。ところでリーダーの交渉の方は?」
「とっくに終わってるよ。あの領主の野郎、時々悩むフリをするがリーダーが何を言うのか全部分かっているみたいな態度だった。気に食わねえ」
「相変わらず見張り中の盗み聞きを堪えられられなかったのか。まあリーダーも分かってるんだろうけど……それじゃ、扉を開けてくれ」
「へいへい」
いかにも面倒であるという態度を露わにしつつ、クロウは鉄扉をノックした。
「入れ」
短い返事を聞いて扉を開けたクロウはわざとらしい礼をしつつソルドたちに部屋へ入るように促す。
相棒の敵意丸出しな態度に肩をすくめたオウルが先に、ステラ、ソルドと続いて入室。
ソルドが部屋の中で堂々と立っている軍服女……ウルフと応接セットらしきソファに腰かけて優雅に紅茶を嗜んでいるジョージを認識した辺りで鉄扉が閉まり、クロウが再びその前に立った。
「リーダー。ステラさんが協力を申し出てくれました。例の計画を前に進められます」
「ご苦労。そしてステラさん、ご助力に感謝します」
「あっ、えっ、ど、どうもです……?」
ズバッ、と音が鳴るほどの勢いで礼を放ったウルフに気圧され、ステラもペコペコと頭を下げた。
「ではしばしの休憩の後、目的地への移動を開始します。作戦の詳細説明は移動中に行うので、食事などは各自で済ませておくように!」
「はっ!」
胸に手を当てて『了解』のポーズをとったオウルは鉄扉へと踵を返し、そのまま部屋を出て行った。
一方、鉄扉の前に立つクロウはオウルを通した後、再び鉄扉にもたれる。
どうやらまだ『見張り』を続けるらしかった。
「ステラさん、私はあちらのデスクで些細な仕事を片付けておくので、質問があったら直接いらしてくださいね?」
「はぁ、分かりました……」
そしてステラの返事を聞いたウルフは満足げに頷き、部屋の奥に設置されたそれっぽい机について何か書類のようなものに筆を走らせ始める。
「彼女、面白いよね。どうやら公私の区別があまりないようなんだ」
一連の様子を見ていたジョージが口を開く。
「結局レットン・グリドールのところに行くことにしたんだね。ウォルムハルト家の人間らしい親切さだ。あるいは冒険心に火がついてしまったのかな?」
「ジョージ様……あ、あの、ジョージ様は彼女たちと何のお話をしていたのですか?」
「ひとつは、僕らの身の安全の保障について。客人、ラクミス家の優秀な技術者、大切な友人……そして僕自身が望むように行動して、無事に家に帰れるようにするための交渉だ。特にスタームァ君はあれで結構無理をしていたようだから、既に僕の船に移動してもらっている。トールも一緒だ。ステラ嬢は特にケガも無いみたいだけど、ソルド君は結構派手にやられているようだね?」
「ハッ……!?」
ジョージの指摘に、ステラはたった今初めて気がついたと言わんばかりにソルドの全身についた傷と汚れをじろじろと眺め、あわあわと口を震わせ始めた。
ソルドは没落令嬢が泣きわめき出す前に先手を打って「自己診断は済んでいる。問題ない」と宣言しつつつ、
「それで本命の話は出来たのか? 領主様」
と問いかける。
対するジョージはふふ、と笑って、
「たっぷり話せたよ。僕は国王の治世を疑ったことなど無いから彼らと共には歩めないが、一方でレットン・グリドールが自身の領地で行っているという不適切行為のことは気がかりだ。それにせっかくこの辺りまで兵たちを連れてきてしまっているから、彼らの『調査』とは別で独自に動くつもりさ……もっとも兵たちにはそれなりに裁量を与えているから、偶然同じタイミングでアドリブ的に協力し合うということはあるかもしれないがね」
「あんたの忠誠心も大概生臭だな」
「僕は思考を柔軟にしてより良い領主であろうとしているだけだよ。もちろん、スタームァと同じくらい大事な友人である君たちとも良い関係を続けて行こうと考えている」
「……レットンから情報を得たら共有しろと?」
「それが民のためになるならば、出費を惜しむ気はない」
ジョージは愛想よく笑い、紅茶のカップを置いて静かに立ち上がった。
「それでは一足先に失礼する。良い報告が得られると期待しているよ、『竜狩り』の友人」
まるで自室から出るかのようにリラックスした足取りで部屋から出て行ったラクミス領主。
その背中を扉の向こうへと見送ったクロウは「けっ」と毒づいた。
「どいつもこいつもいけ好かない態度の奴ばっかりだ。もっとスカッとしたヤツはいないのかよ」
「……おやクロウ、ラクミスの領主へ向けてその言葉遣いは良くないな。本人がいないところで口にした言葉でも、いずれ本人の元に届くというのに」
「リーダーは人が良すぎるんだよ。あんなに胡散臭いやつと手を組むことなんかないって」
たしなめられた騎士は反論したが、当のリーダーは事務机の上からちら、と視線を投げて首を傾げる。
「どうやらあなたには少し礼節を学ぶ機会を与えた方が良さそうね?」
「は? 何を急に……」
「ステラ・ホライソニア・ウォルムハルト、そしてその護衛ソルド、あなた方を支援する騎士をひとりつけます」
そしてウルフはクロウを無視し、ソルドたちの方を見て宣言する。
「レットンの荘園への潜入作戦は、こちらのクロウと協力して行って貰うわ」
「はぁああああああああ!?」
命令を受けた二人がぽかん、とする中、悪い騎士クロウだけが不服の声を叫んだ。
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