068 責任ある領主
「出ろ」
船が停止して数分後、食糧庫に入ってきた青マントの騎士二人のうちひとりが端的に告げた。
彼らはソルドたちを閉じ込めた部屋の入り口を見張っていたのだが急停止の際にコケたらしい。微妙にズレた兜は首を傾げているように見え、ぶっきらぼうな言葉がかえって間抜けに見えた。
「じろじろ見なくてもケガはしていない。人質として申し分ない健康体だよ、ぼーっと突っ立っていてずっこけたあんたと違って」
「っ! 貴様……!」
「よせ」
ソルドの挑発に乗りかけた騎士をもう一人が止めた。
「すまない、君らを乱暴に扱っている自覚はあるんだが、敵意があるわけでもないんだ。ただ大人しく従ってくれると嬉しい」
「敵意が無いという割にいつでも剣を抜けるようにしているだろう。筋肉の緊張、目の動き……身体は正直、ってな」
「……その通りなんだけど、参ったな。僕らも仕事でね、手は抜けないんだよ」
兜の下に隠れているのに、なぜか騎士が苦笑するのが分かった。
一方で、自分がコケたのを逆ギレしていた方の騎士はソルドたちに聞こえるように舌打ちする。
(良い警官と悪い警官……意識的にやっているのかは知らんが、捕虜の尋問に慣れている感じがするな)
ジョージの船が来ていなければ楽しい質問タイムだったに違いないが、今でもも一歩間違えればそうなるだろう。
ソルドは改めてステラを後ろに隠しつつ、おおげさに肩をすくめた。
「俺もこのお姫様を守るのが仕事でな。しかもあんたらと違って素手かつ生身だ。あんたらが今すぐその剣を仕舞ってくれれば、大喜びでどこへなりとも行ってやるんだが」
「テメエ調子に乗るなよ!」
「いいや、ここは少し歩み寄るべき時かもしれない」
良い警官ならぬ良い騎士が声を荒げた悪い騎士を手で制する。
「クロウ、彼に例のものを返してやろう」
「なっ……! オウル、何か起きたら真っ先にテメエからぶちのめすからな」
クロウ、と呼称された悪い騎士は良い騎士オウルの命令に背かず、しかし不機嫌を隠さないままどこかへ歩いていき、一分もせずに戻ってきた。
「そ、その刀……!」
口を閉じていたステラが息を呑む。
クロウが持ってきたのは漆黒の鞘に収まった刀。
デトロスとの戦いで弾き飛ばされた『処刑人』の遺品だった。
「ほらよ、テメエのだろ。受け取れよ」
「なぜ君のだと分かったのかは簡単、デトロス・タインの身体に残っていた傷とこの刀の刃幅が一致したからだ。鞘は道に落ちていたやつだけど、ピッタリだったし合ってるだろ? さ、君がそれで武装するのを許可する。これで素直についてきてくれるかい?」
「……分かったよ」
ソルドは刀を受け取り、腰のベルトに差し込んだ。
「こいつの持ち主は俺。その通りだ」
「そうだよね、良かった。商会本部の資料は全部持ち帰ってこっちで調査することになっているんだけど、明確に持ち主が分かっているものを持って行っちゃうのは忍びなくてさ」
オウルはにこり、と笑った。またも兜越しに分かる表情。
「それじゃあ船首の方に行くよ。クロウに着いて行って。僕は君たちの後ろから着いて行く」
「了解了解」
これ以上の譲歩は引き出せそうにない。
そう確信したソルドはステラの手を引いて横に立たせた。
「て、手を繋ぐなら一声かけてよね」
と、殺気立っているサイボーグとは対照的にステラは呑気なものである。
(明らかに誘拐され人質扱いされているというのに、これが貴族の器ってやつか?)
なんて妙な関心を覚えつつ、ソルドはふぅと息を吐いた。
「安全のためだ。前や後ろで歩かせるとリスクがある。子供扱いするなということなら、これで最大限妥協している。あるいはまた前にやったみたいに抱えて歩くが、どっちがいい」
「今のままでお願いします……!」
ーーーーー
「おお、思ったよりは元気そうだねステラ。それにソルドも」
船首に着くと、そこには驚くほどあっさりとしたテンションのジョージが立っていた。
ソルドが周辺をスキャンして推察するには、反乱軍の行く手を阻んだ船から移動用の小舟に乗り換えて近づき、縄はしごを登ってきたらしい。
そしてなんと、ジョージは護衛を連れておらずひとりだった。
行動的というか、タフな領主様が居たものである。
「ジョージ様、なぜわたくしたちを助けに? というかどうやって……」
「おや? 助けに来たとは一言も言ってないよ」
「えっ!?」
「なんて脅かしつつ……タネは簡単でね」
領主ジョージはステラのダイナミックな表情変化を見てふふ、と意地悪く笑った。
「余裕があるとは言えない僕だけど、領主のたしなみで私兵くらいは抱えている。で、大事な技術者と恩義のある客人を危険地帯に送り出した責任として少し見張らせていたのさ。そしたらガレット全体がキナ臭くなってきたというから君らを迎えに行ったら、丁度君ら……ではなく、スタームァ君の方から緊急事態を知らせるのろしが上がった、というわけだね。だから感謝は彼に……」
「再会の挨拶はそのくらいにしてくれますか、ジョージ様」
騎士たちのリーダー、ウルフと名乗った女が遮って言う。
「単調直入に言います。ジョージ様、あなた様が少しでも今の王政に疑問を抱いているのであれば、このまま私たちにステラ・ホライソニア・ウォルムハルトの身柄を明け渡してください。私たちにはこの国の未来のためにやり遂げなければならないことがあるのです」
「残念ながらその要請には応じられない。僕は今の王政は正しく、適切だと考えているからね。それに言っただろう? 僕は彼女らを助けに来たんだ」
力強く言い切るジョージ。
だが次の瞬間、彼はにや、と笑った。
「ただ……この国の未来のためにすべきこと、とやらには興味がある。話を聞かせてくれないか?」
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