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066 支配

 スラム街も同然のガレット下層には似合わない高級な鎧を着た騎士。

 それが整然と列を成し、男一人と少女二人を厳重に取り囲んで最下層へと向かって行進する様は異様そのものであった。


「ソルド、本当にこのままこの方たちについていくつもり……?」


 ソルドは背中から小声で語り掛けるステラに前を向いたまま頷いた。


「こいつらの高級な装備、そして連携……俺たちがこの街で相手にした凡百のチンピラどもとはワケが違う。今までの感覚でケンカを売ったら、俺ひとりくらいあっという間に殺されるぞ」

「そんな……!」

「なぜデトロスが死んだ途端にこいつらが出てきたかを考えろ。商会のチンピラどもは個々の力は無くても群れていた。群れがこの街への侵略を抑止していたんだ。だから、統率力を欠いたとたんにこのザマさ」

「じゃあ、じゃあわたくしがデトロスへの『復讐』を望んだから……!」

「否定はしないが気にする必要は全くない。ステラ、あんたは知らなかったかもしれないが、これがストリートで暮らしている連中の日常だ。遅かれ早かれ『商会』の力が弱まった段階でこうなっていただろうさ。いつの時代もどんな世界でもストリートは変わらない……変わるのは支配者のツラだけだ」


 騎士たちに制圧され道端で身を寄せ合っている住人達を視界の端に入れながら、サイボーグは吐き捨てるように言った。


「しかしこいつらどう見てもエリート正規軍って雰囲気だが、国王直属の騎士隊ではないのか?」

「え、ええ。たぶん。国王様の騎士は真紅のマントがトレードマークなの。ドラゴシルヴァの国旗と同じ、深紅地に銀竜の刺繍(ししゅう)。この方たちは青いマントだから、違うはず」

「なら他の国の手先か、あるいは……まあそのうちイヤでも教えてくれる気がするが」


 ソルドは隊列が向かう先……見たことが無い量の煙を立ち昇らせているスタームァの工房の方へ目をやって言う。


「どうやらこいつら、俺たちと目的地は一緒だったらしい」


 あっ、と息を呑むステラの声が聞こえた。

 一方でトールの方はとっくに行き先に気づいていたのか、数分前から黙りこくったままだった。


 ーーーーー


「リーダー、連れてきました」

「師匠っ!」


 ソルドたちを連れた隊列が湖畔に到着したのと、トールが叫び飛び出したのはほぼ同時。


 湖畔に設営されていたのは隊列に居るより多くの騎士たちが集まっている簡易キャンプ。

 トールはその中心で椅子に縛られ、剣の切っ先を向けられているスタームァへと手を伸ばす。

 だが周囲の騎士の反応も早い。

 異常行動に出たドワーフの少女に向け、剣は躊躇無く振り下ろされる。


「まったくしょうがないっ」

「ぐえっ!?」


 直後、人間の骨を斬り砕く湿った音の代わりに、金属同士の衝突音が鳴り響いた。

 ソルドが脚部スプリングを解放し、剣とトールのとの間に割り込んだのだ。

 鮮血の代わりに、サイボーグの左腕に仕込まれた砲身と刃とが火花を散らす。

 その足元で、脚を引っかけられて盛大に転倒したトールが潰れたカエルのような悲鳴を上げた。


「あんたも結局肝心な時にバカになるタイプか? 落ち着いて状況を見ろ」

「だって師匠が拷問されてっ」

「だからよく見ろと言っているんだ」


 ソルドは剣を弾き返すと、それ以上の抵抗の意思はないと伝わるように構えを解いて、一歩後ろに下がった。

 遅れて立ち上がったトールも、今度はいきなり飛び出したりせずに状況を見定める。


「おまえはアホか、留学生」


 先に言葉を発したのは椅子に縛られたスタームァ。

 元来濃いクマのあるくたびれた不健康な顔には、多少擦り傷は増えているように見えるが、特に手ひどく扱われた痕跡はない。腕や脚、そのほか身体の部位も同様に。


「確かに縛られてはいるが、こいつらはおれの頭脳そのものを欲しがっているらしい。間違っても殺されることは無い。だがおまえはその浅慮な行動のせいで無意味・無益に殺されかけた。少し話してやれば、おまえだっておれとおなじように丁重に扱われるだろうに」

「そんなのいきなり分かるか! というか、じゃあ、この騎士たちはいったい誰なの!? 師匠の知り合い!?」

「いや? 知り合いじゃない」

「じゃあなんでそんなに平気そうにしているんだよ!?」

「言っただろう、殺されないと分かったからだ。それより留学生、まずはソルドに助けてもらった礼を言ったらどうだ」

「いやだって」

「この街で最も大切なのは『信用』だ」

「……あ、ありがとうございました。ソルド。バカなことをしてごめんなさい」

「構わないさ」


 怒りと羞恥で混乱し顔を赤くするトールを、サイボーグはそっけなく流す。

 背中から「トールさんが助けたのはいいとして、あなたもわたくしを背負ったまま危険な行動に出た事を謝罪するべきなのではなくて?」と低い声が聞こえてくるのも、一旦無視する。

 その目が向いているのはスタームァに切っ先を向けていた人間。

 青マントの騎士にリーダーと呼ばれた、軍服のような服を着た女だ。


「その目つき……やっぱりあなたがかの『竜狩り』にして『冷鉄の悪魔』、ソルドに間違いなさそうね」


 聞くだけで高慢と分かる声で女は言う。


「ずいぶんとカッコいい二つ名をつけてくれたじゃないか。だが俺はこんな兵隊を差し向けられるような覚えはないんだが……せめて名乗ってくれたら、心当たりが二、三出てくるかもしれないぞ?」

「私の名前? そうね、ウルフとでも名乗っておきましょうか。でも初対面ですもの、特に思い出さないんじゃないかしら」


 ウルフと名乗った女は手にしている剣を地面に突き立て、ソルドを睨みつける。


「我らは支配を打倒する者。あなた達に……ステラ・ホライソニア・ウォルムハルトに少し用事があるの。私たちのアジトまで来てもらいます」


 その声は言外に、拒否権など存在しないと告げていた。

読んでいただきありがとうございます!

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