060 お役立ちサイボーグ
「もう一度聞くわ。ここに女の子がひとり連れてこられたはず。どこに閉じ込めてるの!?」
「本当に何も知らない! 何もぎゃあああああああああああああっ!」
メイスが振り下ろされ、手を床に押さえつけられた商会の男は悲痛の叫びを上げる。
商会の本部で侵入者を迎え討つメンバーのひとりになるくらいだ。男は決して鍛えていないわけではないが、しかし、状況が悪すぎる。
彼を押さえつけているのは通常の人間の何倍もの重さと力があるサイボーグ。
彼に語り掛ける少女の手には、必要以上の痛みを与える仕掛けが施された『質問』用の魔力武器。
他にどうしようもない男がどれだけ泣き叫んでも少女は『質問』を繰り返し、容赦なくメイスを振り下ろし続けている。
「はぁ、はぁ……まだ話さないわけ……?」
「だから俺は、本当に何も知らねえって言ってんだろ! ぶっ殺すぞ!」
「何ですって! このっ……」
「ステラ、そこまでだ」
メイスを振り上げたステラを制止し、ソルドは男の首根っこを捕まえて立ち上がった。
「ダメよソルド! わたくしが必ず聞き出すと……!」
「適材適所、という言葉がある。特に今は緊急事態だからな。これ以上は俺がやろう」
サイボーグは少女の返事を待たず、口を割らない男を今度はうつ伏せで床に押さえつける。
「何だテメエ、少し姿勢を変えたら知らないことを思い出すってか!? 俺は何も知らねえって! ただ商会は給料がいいって聞いて雇われていただけだ!」
「人間の背骨には脊髄ってのが通っていて、そいつが頭からの指令を身体の各部位に伝達するから手足が動くしクソも好きな時にできる。正確な知識としては持っていなくても、経験としてはあんたらにも覚えがあるだろ? 大ケガをして脚を悪くした奴とか見たことないか?」
「無視するんじゃねえ! 俺は何も……ぐっ、え……?」
降伏こそしているものの依然として反抗的な態度を取り続けてきた男は突然のことに言葉を失った。
脚に全く感覚が無いのだ。
腰のあたりをソルドとか言う侵入者が強い力で手で押さえつけているからか、今自分に脚がついているのかすらわからない。
「脊髄ってのはかなり繊細でな。椎骨が少しズレたり、強い衝撃を受けたり、圧迫されるとすぐに動作不良を起こす。無意識にクソとションベンを垂れ流している今のあんたみたいにな」
「なっ……」
「自分で感じるのが早いか。ほら」
「ぐあっ!?」
地に伏せた男は悲鳴をあげる。
腰への圧迫感が無くなったかと思えば背中に激痛が走ったからだ。
だが、痛みなどもはやどうでも良かった。
侵入者が言った通り、太もものあたりに湿っていて不快な異物感がある。
鉄錆の匂いに紛れた異臭も、自分の下半身からくるものだ。
「クソやションベンを漏らしただけじゃ死にはしない。足の指が動かなくなっても、歩けなくなっても、同様に死にはしないだろうな。それだけじゃあ死ねない、とも言えるが」
「……!」
「今度こそ状況を理解してくれたみたいだから、質問を再開しようじゃないか」
サイボーグは再び男の背中を押さえつけ、顔を青ざめさせた男にただ問う。
「あんたらの上司が連れ帰ってきたギーク女はどこに居る? あんたが早く『思い出す』ことができたら、クソを垂れ流しながら地べたを這いずり回って物乞いする未来は回避できるかもしれないぞ」
ーーーーー
「わたくしって、どうしてこうも役立たずなのかしら……」
結局全てを『思い出す』ことができた男から聞き出した『応接室』へ向かう道中。
サイボーグの前に立ちふさがった者が全て絶命した手狭な廊下で、ステラが力なく呟く。
「あんたが戦力にならない理由を話せ、という意味じゃないよな」
「いちいちトゲのある言い方をしないでよ……わたくしは本気で、嫌なの」
その声が少し震えているのに気がついたソルドが振り向くと、ステラは目に涙を浮かべ、彼の目を真っすぐに睨みつけていた。
「エクスだけじゃない。敵も味方もたくさんの人を死なせて、その間わたくしはあなたの背中を鳥の雛のように追いかけまわすだけ。これじゃあ行く先々に危険と死を振りまくだけの迷惑な存在でしかない」
「親の仇を殺すために『悪魔』と契約しておいて今更それを言うのか?」
「それは、正当な復讐のために……」
「殺しに正当も不当もありはしない。あるのは殺す者と殺される者、そして報酬だけ。現にこの『第三の復讐』がそうだろう? 本来の復讐相手を殺した、むしろ感謝するべきとも言える相手を殺そうとしているんだ。正当さなどどこにもありはしない。本当はあんたも分かっているはずだ」
「……」
ソルドは口を閉ざしたまま睨み続けてくる視線へ向けてわざとらしく肩をすくめてみせる。
「深く考えるな。殺しなんて大げさな感じがするだけで実際のところはそこらの血だまりよりも底が浅い、人間が自我を持って以来続くただの行為でしかないんだからな。浅い底を掘り広げたってなにも埋まっていやしない。最終的に気に食わないやつを全員殺してスッキリする、それだけ考えておけばいい」
「……」
「それとあんたがいちばん気にしているらしい人間としての利用価値にしても、高いからといい事ばかりじゃない。金は稼げるが、役立たずの方が気楽だぞ」
「それって……やっぱりそんな言い方しかできないのね。もう」
呆れを隠さずに大きなため息を吐いたステラは乱暴に涙を拭い、少し笑った。
「どうせわたくしは死を振りまくだけの役立たず女ですよーだ。さ、ムカつく男を殺す前に友人を助けましょう。それくらいは余裕でこなしてくれないと困りますわよ、護衛さん?」
「当然だ。俺の身体はあんたらの何百年も先の技術で『お役立ち』に改造されているんだからな」
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