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054 行きつく先

「それで……トールはどうしたんだよ。あんた一緒だっただろ」


 ガレット下層部。路上生活者すらも存在しないまるで迷路のように入り組んだ路地にて。

 地面に下ろしたステラの埃を払いながら、ソルドはエクスに問う。


「あの子はひとりで逃げ切れると言って私をお前とステラ嬢の援護に向かわせた。君には『いつもの場所で待っている』と伝えろと」

「いつもの場所……」


 トールが言っている場所はおそらくスタームァの工房。

 しかし工房は下層の中でもいちばん下、ガレットがまだ漁村だった頃に栄えていた廃港にある。

 エクスのアジトがあった場所から見てかなりの距離が開いているが、いくら地理に多少通じているとはいえ、この街を根城にするマフィアの刺客から逃げ切れるものなのだろうか。


「ここからは二手に分かれよう。私はあの女の子を探しに行ってみる」


 エクスはソルドの懸念に先回りするかのように言った。


「いつもの場所とは、おそらく君たちが匿ってもらっている工房のことだ。君たちは最短ルートで工房に行き、状況を確かめてくれ」

「俺たちの秘密基地が筒抜けなのはこの際良いとして、あんたはいいのか? トールはステラの肉親でも何でもないただのギーク女だ。ステラの両親に恩があって行動しているあんたが助ける義理は無いんじゃないのか」

「君も分かってて言っているだろ。私の目的はステラ嬢をお守りすること。そしてステラ嬢は君を戦力として強化する約束をあのトールとかいう子と交わしている。あの子の無事の確保が、巡り巡ってステラ嬢の身の安全を高めるんだ。なら、私はそのように行動する。それに……」


 エクスは何かを言いかけて中断すると、フードを深く被り、ソルドたちに背を向けた。


「私には我が身を省みずに他者を助けようとした彼女を見捨てることなどできない。こんな腐り切った世界でそのように振舞える人間は、そう多くは無いのだから」

「……義理堅いというか、頑固な奴だな。そんなんじゃ早死にするぞ」

「ふっ、どの口が言うのだ? その言葉を」


 フードで表情を隠す暗殺者エルフ、しかしその表情はソルドには容易に想像がついた。


「君が悪魔でも人間でもどっちでもいいが、それだけの力を持っていながらただ他者に尽くすその姿勢は奉仕の精神そのものだ。あるいは、ただの贖罪なのかもしれないが」

「贖罪ねえ、そんな高潔な精神じゃないさ。俺はただ……」

「君は私に似ている」


 エクスは皮肉のひとつでも言ってやろうとしたサイボーグの言葉を遮って言った。


「もう少し時間があればもっと分かり合えたか、あるいはより対立が深まったか。いずれにせよ、私たちが行きつく先はきっと同じ場所になる」

「……」


 ソルドには何故だかその言葉の続きが分かる気がした。

 最終的に、地獄へ落ちる。


「エクス……あなた、少し休んだ方がいいんじゃないかしら」


 静かに去ろうとしたエルフの背中に、ステラが声を投げかけた。


「あなたはお父様とお母様の友人なのでしょう? ならわたくしはあなたがむやみに傷つくのを望みはしない。トールさんも大事だけど、あなたのことも同じくらい大事なの。あなたはわたくしに奉仕しているんじゃなくて、まるで自分を罰しているみたいで、心配で……」

「お優しいのですね、ステラ嬢。でも大丈夫ですよ」


 エクスは少女の方を振り向いて表情を見えるようにすると、にこりと笑って言う。


「これは私が自分で勝手にやっていること。どんな運命となっても、受け入れる覚悟はできています」

「……」

「あなたの助けとなる機会をいただけたこと、感謝しています。ご友人は、必ず無事にお連れしますので」

「あっ……」


 ステラが何かを言う前に、エクスは素早く駆け出してそのまま路地の先へと消えていった。


「ソルド、早く工房に向かいましょう」


 少しだけ目に浮かべた涙を拭って、没落令嬢は護衛に両腕を伸ばす。


「仰せのままに」


 護衛のサイボーグは少女を背負い、メモリに記録した路地を素早く駆け抜けていく。


 謎に湿っぽくなってしまったやり取りも、トールがあっさりアジトにたどり着いていればただの笑い話になる。


(だが、そうはいかないだろうな)


 ソルドは経験則が導き出した未来予想図を思考の隅に追いやった。

 いま必要なのは悲観でも楽観でもなく、適切で素早い判断と集中力。

 それ以外にはない。

少し短いですが今回はここまで!


読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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