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048 真のデモンストレーション

「グギャアッ!」


 ソルドが右腕のブレードを展開した直後、正気を失ったナーダラは一番近くに居た標的……ソルドに営業を仕掛けていたエルフ男に飛び掛かった。


「ひえええっ」

「ったく世話の焼ける!」


 短く叫び、サイボーグは鉤爪がエルフ男の喉笛を引き裂く前に介入、横っ腹への蹴りでナーダラを吹っ飛ばす。

 別に情が移ったわけじゃない。

 ただ単にその一瞬が攻撃するのに適していただけ。


「あ、ありがとうござい」

「邪魔だどいてろ」

「ぐえっ」


 ソルドはエルフ男を部屋の隅に放り投げ、体勢を立て直しつつあるナーダラと対峙した。

 電子義眼による高速スキャンによれば、ナーダラの身体は今や見える範囲の六割程度が竜の鱗に覆われている。

 爪や牙が鋭くなり、現在進行形で全身の筋肉量が増加しているものの、流石にドルエンのような巨大竜に変化している様子は無かった。

 そして、特に目立つのが肩や腕の咬み傷。

 デモンストレーションで竜にやられたのであろう痛々しい傷が、熱探知に引っかかるくらい目に見えて発熱している。


竜体化人(ドラゴモーフ)ってか? 咬まれて竜になるだなんて、ゾンビ映画じゃないんだぞ」

「グギャアアアアアアアアア!」

「当然会話はできない、とっ!」


 今やソルドはナーダラ、いや、ドラゴモーフの敵だ。

 人間を超えた速度で接近する牙や爪を躱しつつ、ソルドは周辺の状況を把握する。


 このフロアのまともな出口はひとつ、一階から移動するのに使ったリフトだけ。

 それも客が殺到していてほとんど機能不全になっている。

 一応通りに面している方には曇りガラスのようで、いざとなったらぶち破って脱出もできるだろう。


(とはいえトールはまだ戻ってこない。そして、俺の役割は陽動だったな)


 分析を終えたサイボーグは攻撃が身体を掠めたにもかかわらず、思わず笑みをこぼした。

 ここには、玩具(オモチャ)がたくさんある。


「せっかくだからな、色々試させてもらうぞドラゴン野郎!」


 ソルドはドラゴモーフが突き出した爪を躱し、脚でショーケースを蹴り割った。

 中に入っていたのは槍。

 サイボーグがそれを掴み出すと持ち手の部分が熱を帯び、小さな刃が無数に生えているねじれた槍先が高速回転を始めた。


「コイツが俺の生命(いのち)を吸ってるってワケか。見合った威力を発揮してくれよ」

「ガアアアアアアアアッ!」


 ドラゴモーフの牙が迫る。

 ソルドはそれを槍の柄で受け止めて押し返し、回転する穂先をがら空きの胴体に突き入れる。

 一回、二回、三回。

 凶悪に回転する槍は、しかし、サイボーグの手に手ごたえを感じさせない。


「鱗で防がれているな……見た目ほどの貫通力はない。ということはコンセプト通り、生身を狙って傷を悪化させる方法でしか役に立たないな。つまらん武器だ」


 ふっ、と息を吐き、ソルドはドラゴモーフの横へと回り込んでその脇腹に槍を突き刺した。


「グオァアアッ!?」

「うおっ!」


 鱗の無い生身の腹に槍を突き入れられたドラゴモーフは痛みに悶えたが、ソルドが想定したほどは怯まない。

 それどころか痛みに反応するかのように素早く反撃の爪を振り、すんでのところで躱したソルドの服が裂ける。


「流石にまともに食らうのは避けたいな。ならっ」


 ソルドはジャンプして距離を取り、手放した槍の代わりに卓上で放置されていたクロスボウを手に取った。

 グリップを握った瞬間手から魔力が流れ込むのを感じ、自動で回転する滑車が弦を強く張った。


「これができるなら、銃の発明もすぐだろうな」


 感想を零しつつ、ソルドは本体と同時に拾った矢をクロスボウへ装填し、引き金を引く。


 もしサイボーグ同士の撃ち合いなら互いの射撃精度以外にも、武器の性能、火器管制(FCS)への妨害(ジャミング)身体(ボディ)の防弾性能など、気にすべきことはたくさんある。

 だがこの場にサイボーグはソルドひとりだけ。

 冷たい機械は電子計算の精度で容赦なく矢を撃ちこんでいく。


「ギュアアア!」


 だがドラゴモーフも文字通りの化物だった。

 矢で身体中を貫かれつつも硬い鱗によって致命傷を避け、痛みなどまるで感じていないかのようにスピードを落とさないままソルドとの距離を一気に詰める。


「アドレナリンの過剰分泌どころではない痛覚の麻痺……魔力紋の性能か。本当に義体化(エンハンス)のようなことをしているのか」


 高火力を誇るクロスボウも接近戦では何の役にも立たない。

 ソルドは手にしたクロスボウを放り捨て、展開したブレードで鉤爪と切り結ぶ。


 最初は意味の分からない概念だった魔力も、こう何度も使用していればコツを覚えるというもの。

 白くに輝くブレードが一方的に竜の鉤爪を削っていく。

 だが、ソルドは途中で気がついた。

 槍や矢でつけた傷が、気がつけば塞がりかけている。


「命の前借り、今日を生きる能力ってか。厄介だなっ」


 ソルドは再び手近なショーケースを壊し、魔力武器を遠慮なくドラゴモーフへ叩き込んでいく。

 剣にメイス、爆薬に大砲。

 どれも直撃させているが、鱗と再生能力によるダメージの軽減もあって、決定打に欠けていた。


「まったく、イカれたやつを相手にしていると埒が明かない……!」

「ゴァアアアアアアアアア!」


 悪態をついたサイボーグへの勝利宣言か如く、ドラゴモーフは咆哮する。


「……!」


 だがソルドの電子鼓膜は別の音を感知していた。


「あまり痛くないといいんだがっ」


 ドガッ! と。

 ドラゴモーフが放った蹴りがソルドの腹に直撃し、金属の身体が派手に床を転がる。

 そして転がったサイボーグは起き上がりざまに、ドラゴモーフへ背を向けて走り出した。

 誰の目にも明らからな敗走。

 すでに人間としての理性を失っているドラゴモーフはその背に鉤爪を振り下ろしとどめを刺そうと駆け出した。


「思ったよりも脚が速いが、好都合っ」


 背中を引き裂かれる直前、ソルドは前方に跳躍して穴を潜り抜けた。


 それはドラゴモーフへと変じた戦士ナーダラがこじ開けた穴。

 飛び込んだサイボーグは当然、自ら檻へと入った格好だ。

 その後を高速で追うドラゴモーフも器用に穴を潜り、再び檻の中へ。

 結果的に、デモンストレーションの続きのような構図となる。


「さて」


 背を向けていたソルドは檻に入って来たドラゴモーフへ向き合い、中指を突き立てる。


「かかって来いよ、騎士で居られなかったゴロツキ野郎」


 ドラゴモーフに理性は残っていない。

 まして突き立てられた中指の意味も分からない。

 だがある種の本能的だろうか、彼はそれを侮辱と受け取り、吠えることもせずに飛び掛かる。


「やれっ!」

「はいよ!」


 ソルドが叫ぶのとほぼ同時、少女の声が天から降る。

 いや、降ってきたのは声だけではない。

 檻の上部に開いた穴……戦士ナーダラや彼と死闘を繰り広げた竜が『入場』した穴から、大人の背丈をゆうに超える棚がひとつ、ドラゴモーフの頭上へと落下した。


「ギャガッ……!」


 ドラゴモーフは落下した重量物に直撃されながら、しかし、魔力紋でブーストされた反射神経で押しつぶされるのを寸前で回避した。

 だが彼が不幸だったのは、相対していた男がその展開を読んでいた事。


「逃がさんっ」


 ソルドは脚部のリミッターを解放、まだ空中にあった棚をそのままタックルで弾き飛ばした。

 避けたはずの棚が()()()()()()()ドラゴモーフは棚と檻に挟まれ、肺の空気を強制的に絞り出された。

 当然抵抗したが、もはや決着はついている。

 反対側から驚異的な力で押され続けた棚に押しつぶされ、ドラゴモーフは意識を手放した。


「ふぅ……ようやく黙ったか」

「ソルド! こっちから跳んでもいい?」

「……保証はしないぞ」


 サイボーグがそう言ったにも拘らず天井の穴から跳んだドワーフ女ことトールは無事に抱き止められ、そのまま床に降ろされた。


「さっすがソルド。耳がいいから、合図したら聞き取って分かってくれると思っていたよ」

「まあな。それよりもあんた、よくあの棚をひとりで動かせたな」

「これをちょっと借りたのさ」


 トールが突き出した右腕には魔力紋が刻まれている。

 痛々しいが、紹介されていたような強制的に魔力を吸い上げる機能は停止しているようだった。


「あんたも大概躊躇が無いな」

「これを持って帰るのが使命と言ってもいいからねアタシは。それと、時間稼ぎどうも。おかげで豊作だったよ」

「そりゃなによりだ」

「さて、どうする? ここから」


 トールは未だに混雑するリフト付近を指差して言った。

 ソルドがそちらに目をやると、客に交じってフロアに入って来ようとする人間も何人か見える。

 おそらくはタインルフェ商会の手先だろう。


「まあずらかるしかないだろうな。誰かさんは落下が平気だともわかったことだし」

「てことは……うわわわわっ!?」


 ソルドはトールを肩に担ぐと、檻から出て窓を破壊し、そのまま通りへ飛び降りた。

 興奮して叫ぶドワーフ女を担いだサイボーグは、一方で冷静に思考する。

 ドルエンと、今回竜体化した男の違い。

 そんな現象が起きる理由。

 そして……それらと無関係とは思えない、竜をまるで何でもないかのように従えていた依頼主(ステラ)


(繋がりを見出すのは早計だが……)


 とりあえず現状で答えが出せないのは確かだ。

 サイボーグは一刻も早くトールが持ち帰った情報をインプットすべく、騒然とし出した街を駆け抜けていった。

読んでいただきありがとうございます!

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