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044 敵ではないが、友でもない

「そういえばなんでさっきからアクセサリーを買いまくってるの? 金ぴかのシュミが悪いやつばっかり」


 表通りに戻ったソルドがアクセサリーを買い足したあと、トールはソルドの左腕でチャラチャラと鳴る金のブレスレットを眺めながら問う。


「せっかくこういう服装をしているからな。カモフラージュの効果を上げるためだ」

「ふぅん……?」


 トールは首を傾げ、ドワーフ特有の低位置から真っすぐな視線をじっ、とソルドの顔に向けた。

 背の高いサイボーグから見てその表情は興味津々の子供の様でもあり、客の表情を読むポーカーのディーラーの様でもあり、尋問じみたやりづらさを感じさせる。


「……銀貨を圧縮するためでもある」

「ほう! なるほど!」


 観念したソルドが口を開くと、トールは待ってましたとばかりにポンと手を叩いた。


「確かにお前はなんか資金的な余裕のありそうなことを言ってたよね。それにあの荷物……日ごろ手ぶらで居るお前がいったい何を持っているのかと思えば全部銀貨なのか」

「まあな」

「ふむふむ。そしてその銀貨、さては出所(でどころ)がチョットだけアヤシイやつだろ」

「ご名答。かなりの量を手に入れたはいいものの取り回しが悪くてね。電子化とはいかずとも、せめて軽くしておかないと動きが鈍くなってしまう。特にこういう治安の街じゃ、大事に仕舞っておいた財産がいつまでそこにあるかもわからないしな」

「師匠は客の荷物を盗るような人じゃないけどね。そしてその治安の悪い街で金品を買えるということは、ソルドのその眼は金の真贋(しんがん)を判別できるってことだ」

「……あんたに身体をバラバラにして組み立て直して貰った方がいい気がしてきた」

「アハハ! お前の身体は確かに全部見てみたいけど、流石に未知の技術で組み立てられた機械をいきなりバラバラにするのは気が引ける。ひとまず腕で満足しておくよ」


 快活に笑うトールに対し、ソルドは内心すこし落ち込んでいた。


(何をやっているんだ俺は……この女だって信用できるわけじゃないってのに、ベラベラと全部喋っちまって。ジョージに仕えていると分かっているだけあの襲撃者エルフよりかはマシだが、そのジョージだってそもそも信用できるのか疑問だぞ)


 商会のバックに居る王城の誰か。

 そいつが貴族であるジョージと繋がっていないなどと何故信じられる。

 そもそもエクスが言っていることも壮大な狂言の可能性だってあるのに。


 いま真実だと言えるのはタインルフェ商会がステラを狙って襲撃をかけてきている事のみ。

 その事実が、自分を責めるソルドに頭痛を錯覚させる。


「おーい、大丈夫かい鉄の男よ」


 ドワーフ女が目の前でぴょんぴょんと跳ねているのを見て、ソルドはようやく我に返った。


「ん、ああ……気にするな。悩みが尽きなくてね」

「まあポッと出の女に主人を取られたんじゃ心配だよね。なんとかよりを戻せるように考えないと」

「もしかしてあえてムカつく言い方を選んでいるのか?」

「いやいや。まあ誰かさんも泥棒猫だってのは否定しなかったじゃん?」

「……」


 ニヤニヤ笑うトール。

 ソルドは電子記憶に確かに記録されていた少し前の会話の記録を封印(アーカイブ)して、失言を思い出さないようにする処理を始めた。


「取られたって思うってことは、それだけ大事に思っていたってことだよ」

「俺は傭兵だ。金で雇われているのだから、雇用の危機とあれば気分も悪くなるものだろ」

「ふぅん?」

「……その顔やめろ」

「お望みとあらば」


 トールは笑いを押し殺しているのが丸わかりな無表情でうやうやしくお辞儀をし、顔を上げてから咳ばらいをひとつ。


「で、どうする? 情報収集するんなら商会の下っ端をひとりずつ締めていてもしょうがないと思うけど」

「ん、あんた本気で俺に付き合うつもりなのか?」

「いやいや当たり前でしょ。そうでもなければただの買い物にタラタラ歩いてついてこないって」


 ドワーフ女は頬についた黒い油の汚れをぽりぽりと掻きつつ、さっきと違って天然物の真顔で言ってのける。


「ガレットに来るのは初めてだけど、師匠と手紙でやり取りしていた時から色々調べていたからさ。もし他に心当たりが無いんなら私の心当たりから巡っていくのはどうよ」

「……」


 トールの提案に、ソルドは思考を走らせる。


(こいつは信用できない。それはずっと変わらないが、一方で金に頓着の無さそうなこの女が俺たちを裏切る意味も想像がつかない。その気になれば排除も容易だろうし、それに……)


 その先へ言語化が進む前に、ソルドは思考を打ち切った。

 自分のような傭兵(クズ)が油断するのは自殺と同じ、あるいはもっと酷いかもしれない。

 根拠の弱い信用は時に致命傷になる。

 思考の片隅にでも残しておくわけにはいかない。


「分かった。その心当たりとやらに案内してもらおうか」

「そう言ってくれると思っていたよ。それじゃあ早速やって欲しいことがあるんだけど……」


 トールはにっこりと笑って、手のひらを突き出して言った。


「おかねちょーだい!」


 ーーーーー


「んー、やっぱり高級な空気は違いますな。肺が洗われるようだ」

「まあ確かに幾分か有害物質の濃度は下がってるな」


 約一時間後。

 ソルドとトールは縦に伸びた違法建築上等の街ガレットの上層部へとやってきていた。

 スラム丸出しの下層部、比較的小奇麗だが密集した要素がカオス化している中層部と違い、上層部はデザイン性に富んだ建物がずらりと並んでいる。

 相変わらず狭苦しくはあるが、観光地化したアジア人街のような街並みにはむしろ洗練された雰囲気すら感じる。


「この門見てよ。通行証を持たない者は検知して警報を鳴らす仕掛けがあるみたいだ。さっき買わされた札を魔術か何かで検知するってことかな?」

「そんな門の近くで不振な動きをするな。顔が割れていないと言ったって、不審な奴は普通に取っ捕まるぞ」

「この街はスラムから成り上ったつもりのバカがいっぱいいるんだからこんなことでいちいち目くじらは立てられないって。それに横にイカつい傷顔(スカーフェイス)の男も立っているんだし、ちょっかいかけてきたりはしないでしょ」


 トールが飛ばした下手くそなウィンクを避けつつ、ソルドは己の顔にそっと手を触れる。

 その額から頬までを横断しているのは大きな傷跡。

 魔術を使った特殊メイクだ。


 上層部に行くにあたり金銭を要求したトールは二人の素性を特定されないための工作を行った。

 ソルドの顔を魔術による生体改造(ボディアート)を行う店でこしらえた大きな傷で偽装し、自身は銭湯で身体を洗って清潔にしてから新しい服とソルドが購入した金のアクセサリーをバランスよくつけて成金の女に化けたのである。


(魔術のせいで技術の発展具合にムラがあるな……ナメてると寝首を掻かれないぞ、これは)


 ソルドが密かに警戒心を高めていると、娼婦とはまた違う軽薄な笑みを(おそらくわざと)浮かべたトールが腕に絡みついてきた。


「何してる」

「何してるって、いつもこうしているでしょダーリン❤」

「ダーリン……」

「成金のごろつきとその軽薄な妻、そういう感じでヨロシク。というわけでさっそく目的地に向かいましょうよ」

「……まあ構わないか。それで? その目的地ってのはどこだ」

「ほら、あそこに大きな看板があるでしょ」


 トールが指差す先、すこし坂になっている通りの突き当りにそびえている豪華絢爛な建物には、確かに魔術で発光している巨大看板が掲げられている。

 タインルフェ護身道具、の文字列の両端に刀身が湾曲した刀が掲げられているデザイン。


「タインルフェ商会って何を売ってるの? って私ずっと気になってたのよ~! 彼らは用心棒だけじゃなくて、武器を売っているんですって!」

「偽装のことは分かったからそのわざとらしい演技はやめた方がいい。逆効果だぞ」

読んでいただきありがとうございます!

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