042 重さ比べ
処刑人。
ステラが追う復讐相手、そのひとり。
思わぬタイミングで現れた標的に動揺を悟られないよう、サイボーグは計算リソースの全てを注ぎ込んで平静を保った。
(落ち着け、まだ確定したわけじゃない)
ソルドは照合すべき情報を整理する。
(何よりまずは、こいつがステラの両親を処刑した本人なのかを確認しないと。こいつはまだ自身が処刑人という職業だったと明かしただけだ。それも過去形なのか、決めつけてかかるのは簡単だが……)
ソルドは入浴中のステラが呑気に鼻歌を歌っているのを確認し、静かに息を吐いた。
「処刑人ねぇ、たいそうなタトゥーをされるくらいだから結構な嫌われ者っぽいが。とりあえず背中を仕舞え。話しづらくて仕方がない」
「その反応、君は処刑人を知らないのか?」
「そんな血生臭い職業、俺がいたところじゃとっくに自動化されていたよ。家畜を肉にするより簡単に、流れ作業でな。まあ処刑を待たずとも、処刑されるようなろくでなしはそこら中でくたばっていたが」
「……まさに地獄のような場所からやって来たのだな、君は」
服を着直したエクスは再びソルドに向き合う。
その目に浮かぶのは憐憫の情。
「少なくともこのドラゴシルヴァ王国では、処刑は王によって処刑人に任ぜられた家の者が代々引き継いでそのお務めを果たしてきた。祖父も、父も……そして私もな」
「それじゃあ、あんたもその手で処刑をしたことがあるのか。あんたの今の姿からじゃあまり想像がつかないな」
「ああ。祖父や父ほどではないが、処刑した人数は両手の指では数えきれないほどだ。ただ一刀で首を落とす、それが処刑人の誉れだった」
「できるだけ苦しまないように、ってことか」
「処刑は王からの慈悲だ。縛り首が相当なごろつきならともかく、貴族には名誉ある死が与えられる。処刑人はどのような謗りを受けようと、王の慈悲の代行者でなくてはならない」
「だから貴き使命と、熱心なことだ。その口ぶりだと、実際に貴族の処刑もしたことがあるのか」
「私は探り合いをしたいわけじゃないから先に言わせてもらう」
来るか、とソルドが身構えるのとほぼ同時。
エクスは少し溜めてから口を開く。
「私は、ステラ嬢の父君と母君の首を落とした張本人だ。彼らの処刑を最後に、処刑人の任を辞した」
あっさりと、だ。
ステラが追う復讐相手『処刑人』は出会ったその日の夜に正体を明かした。
しかも、本人がすぐ隣の浴室に居る状況で。
「……それで?」
もっと多くの情報が欲しい。
ソルドはエクスを挑発するつもりで、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「あんたがステラの両親を処刑した奴だということと今の状況が全然結びつかない。むしろ遠くなったとさえ言える。俺はステラから直々に依頼を受けて護衛をしているにもかかわらず、あんたに相応しくないと責められている。ところがあんたはステラの両親を殺した処刑人で……まさか、自分の罪悪感を拭いたいがために、あいつの身柄を寄越せと言っているんじゃないだろうな」
「罪悪感が少しも無いと言えば、噓になる」
ソルドの言葉を肯定し、しかし、エクスは首を横に振った。
「だが私には使命を果たす覚悟がある。ステラ嬢を、彼女に伸びる魔の手から守るという使命を。代々続く家を棄て、王より賜りし貴き使命に背き、王を裏切ることになろうとも」
「大した忠誠心だがその源は何だ? たまたま処刑した貴族の娘を、そこまでして守る理由が分からない」
「……それは、言えない」
エクスは呟くように言い、ソルドにゆっくりと近づいてその右腕を取ると、自らの首元に添えさせた。
「私が言えるのはここまでだ。だが君に、私に勝る覚悟があるのか。あるというなら、その怪力で今すぐ私の首をもぐがいい」
「脅しのつもりか?」
「いいや、本気だ。私の使命はステラ嬢を守ること。それが達成されるなら、私でなくとも君が使命を引き継ぐというのなら、私の命なんかどうなっていたって良い」
「……やりづらいな、全く」
サイボーグは舌打ちし、死にたがりのエルフを軽く突き飛ばす。
「何にせよ、俺があいつを護衛するのはそれが契約だからだ。あんたが自分の命を使命と天秤にかけちまっているように、俺も一度交わした契約をそうやすやすと反故にするわけにはいかない。だがただでさえ厄介事だらけなこの街で、更にあんたみたいな厄介事を増やすのも本意ではない」
ソルドはエクスを真っすぐに見つめて、言う。
「あんたがその気なら協力しないか。この街を出るまで、あんたと俺でステラを守る。そして、俺の腕の修理が終わって、この街を出るとき……あんたの使命に関する結論を出してやる」
「……いいだろう。だがステラ嬢にはなんと説明する?」
「それは俺の仕事じゃねえ。ステラがあんたを拒絶するなら、残念ながら協力関係も無し。さっきの話はあんたがあいつを丸め込める前提だ」
そこまで言って、サイボーグは深いため息を吐いた。
「まあ、もう達成されているも同然の前提だがな」
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