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041 三人目

「ソルド! すごいわ、本当に清潔なお湯がある!」

「それは良かったな」

「出る時には言うから、そこで待っててよね。わたくしを置いてどこかへ行ったら承知しないから!」

「はいはい、久しぶりのご入浴をお楽しみくださいお姫様」


 壁にもたれかかって立つソルドがため息混じりに言うと、ばしゃ、ばしゃとドア越しに水音が響き始めた。


(ひとりになるのが心細いんだろうが、男を脱衣所に待機させておくことに抵抗は無いのかね?)


 令嬢様の感覚は分からんな、なんて思いつつ見張りをしていると、脱衣所のドアが開き女がもうひとり入ってきた。

 ソルドたちを襲撃したのに風呂つきの隠れ家を提供している奇妙なエルフ、エクスだ。


「ステラ嬢には満足していただけているかな?」

「大喜びだったが、あんたも混ざるって言うんじゃないだろうな。依頼人が最も無防備な瞬間に殺し屋を招き入れるほど俺はバカじゃないぞ」

「いいや、私は君に用事があるんだ。君がステラ嬢と一緒にいる時には話したくなくてね」

「今もドア一枚の向こうにいる。タイミングによっては丸聞こえだ」

「私はまあ最悪聞かれてもいいんだが、君の方が彼女に聞かれるのを嫌がるだろうと思ってね」

「……」


 現時点で話したがり女の目的は不明。

 普通に断っても良いのだが、王政、商会、反乱組織、そしてこのエルフ女本人……情報が広がった割に空白だらけで、ソルド自身整理しきれていない自覚があった。

 それにステラに聞かせたくない話、というのが気がかりだ。

 ソルドは電子鼓膜の設定をいじり、エクスの声だけを好感度で拾えるように設定した。


「何か小声で話してみろ」

「では……一応聞いておくけど、君は自分のことを人間だと言ったよね。あれは本当か?」

「本当だ。俺は人間で、断じて悪魔などではない」

「はは、聞こえるんだこれで。しかも君は声を小さくしているのに、まるで耳に直接ねじ込まれるようによく聞こえるし」

「舌と喉に細工してある。やろうと思えば、声に指向性を持たせて話せるってだけだ。疲れるし効果的に使える場面も少ないが、時々こうして役に立つ」

「だけって割にはそれだけで一儲けできそうな曲芸だ。そういうところも含めて聞いておきたい」


 エクスはソルドに好奇心を隠さない眼差しを向けて言う。


「君が人間だと言うのなら、君はどこから来た何者なんだ。私だって悪魔や神をまともに信じてはいないが、かといって君のその超人的な能力を説明できる知識が無い。まだ悪魔が人間を名乗っているだけって方が説得力がある」

「そのクソみたいな質問に答えろってか? まあいい。俺はここでは無い遠い国から来た。もはや別世界と言ってもいいくらい遠くからな。そして何者かだが……いわゆる傭兵だ。金のために殺しをやる。そういう意味じゃ商会の連中が一番近い。ただ俺がいた国では人間を改造する技術が発達していて、それがあんたの言う『超人的』な力を俺に与えているだけさ」

「改造人間か。そんな技術もあるんだね。この国でそんな技術が開発される未来はまだまだ遠そうだ」

「どうだかな。ブレイクスルーだの天才のひらめきだので、案外すぐ実現するかもしれないぞ」

「それなら早く実現してほしいところだね。何せ、そのせいでステラ嬢に迷惑がかかっている」


 ソルドが飛ばした軽口が気に障ったのか、エクスは眉をひそめて言った。


「その右腕といい、怪力も、脚力も、煙幕の中で私を迷いなく追跡する目も……君の超人的な力は目立ちすぎだ。いくら戦力として最高クラスだからといって、ステラ嬢の護衛として、ふさわしく無いと私は思う」

「そう来たか……」


 ソルドは大きなため息を吐きたいのをぐっと堪えた。


「没落貴族令嬢を殺そうと襲ってきた奴が隠れ家を提供したかと思ったら謎の『真実』をベラベラと喋り、今度は護衛の弾劾請求とはね。どんな思考回路をしていたらそんな行動ができるんだ」

「私はステラ嬢の身を守りたいだけだ。死んだという情報が広まれば彼女を狙う者も居なくなる。襲撃はただそのために……」

「甘いな。企業(コーポ)だろうとマフィアだろうと、政治家だろうと根っこは一緒だ。欲しいものは必ず手に入れなくちゃ気が済まない。死んだと聞いても、部下から上司(ボス)に情報が伝わるたびに情報が歪んで、最終的には命令が『死体を持ってこい』に変わるだけさ。あんたもそれくらいのこと、察せないわけじゃなかろうに」

「……」


 ソルドの言葉を、エクスはただ黙って聞いていた。

 だが、ソルドのスキャン機能は彼女の口や手の微細な動きから精神的な動揺……怒りのような感情の動きを感知した。


(ステラに執着する理由を、コイツにも聞いておかなくちゃな)


 壁から背を離し、ソルドは静かにエクスへと近づく。


「だいたい、あんたに何の関係がある。俺をこんな国に呼びつけたのはステラ・ホライソニア・ウォルムハルト本人で、本人の意向で契約してあいつの護衛をやっている。あんたが同業者で契約を横取りしようと言うなら話は別だがそれも違いそうだ。あんたの方こそどこから来た何者で、何が目的なのかを話すべきだろ」

「……分かった」


 サイボーグの詰問を受けたエクスは小さく頷くと、自らの服に手を掛けた。


「待て、なぜ脱ぐ」

「信頼を得るためだ。本当はステラ嬢にも直接見せるつもりだったが……君には先に見せておく。ここで見たものを君がステラ嬢に見せるかどうかは、君に任せる」


 言いつつ、上半身裸となったエクスはくるり、と後ろを向いた。


「……!」


 その背にあったのは巨大なタトゥー。

 誇れるものでは無いのだろうとひと目で分かる不気味な紋様は、電子義眼で記録せずとも記憶に強く焼き付く。


「私は、王より賜りし貴き使命を持つ家の生まれだ」


 エクスは少し区切って、続ける。


「私は処刑人。正確には、処刑人だった」

ちょっとリアルが忙しいにつきやや短いですが今回はここまで!


読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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