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038 刀のエルフ

「では、こちらから行かせてもらうぞっ」


 律儀に宣言し、ソルドに向かって突進した襲撃者の姿が消える。


「消えた!? 気をつけてソルドっ!」

「問題ない」


 護衛(ボディーガード)は短く言い切り、右腕のブレードを展開する。

 襲撃者は、実際には消えていない。

 身に着けた黒い外套で闇に溶け込み、標的の視界の外から必殺の一撃を見舞うつもりなのだ。


 だが相手が悪い。

 可視光以外でも()()ことができるサイボーグにとって、その戦術は無意味だ。


 ギィン! と金属同士の衝突音が鳴り響く。

 ソルドの左手側から振り下ろされた刀が、彼の左腕から展開された砲身に阻まれた音だ。


「剣も盾も腕から出てくるとはね。悪魔の身体は鉄でできているっていうのは噂通りか」

「厳密には間違いだがな。そもそも鉄ではないし、皮膚(スキン)も筋肉も金属製じゃない」

「斬れないってことが分かればいいのさ。そして君に私の姿が見えていることも」


 ソルドの右腕ブレードによる反撃を避けつつ、後ろへ下がる黒衣の襲撃者。

 攻撃を防がれたばかりだというのに、その声には余裕がある。


「超人的な能力、冷静さ、そして窮地では身を犠牲にする判断力。悪魔召喚で呼び出されるのがみんな君みたいなのだったらこの国はどうなっていたんだろうね」

「俺たちのことは調査済み、と。その割にはえらく遅い登場じゃないか。まさか殺しを咎められないようにこんな無法地帯まで追っかけてきたのか?」

「慎重を期したまで。脅しではないけれど、これでも殺しには慣れている。それにどちらかと言えば、文句があるのは私の方なんだが」

「文句ね。あんたは詐欺師だの成金貴族だのの親類って感じにも見えないが」

「もちろん違うとも」


 襲撃者は刀を水平に構え直し、再び地を蹴った。

 脚を踏み出す方向と、実際に進む方向をずらして軌道を読ませない突進。

 待ち構えるソルドのすぐ前まで一気に距離を詰め、更に刀を水平から大上段へと構え直し、振り下ろす。


 しかし、ソルドはもちろんその多段階のフェイントを見切っている。

 臨戦判断サブルーチンが一手前の戦闘行動を既に学習しており、今度は左腕砲身での防御と右腕ブレードでの反撃を同時に行うべく動作を開始。


 ギラッと白銀に煌めいた刀を鈍色の砲身が防ぎ、


(待て、これは……!)


 ……いや、刃を防ぐ直前。

 傭兵として今までにこなした数々の汚れ仕事が積み上げた経験的直感が、ソルドの身体システムに緊急信号を発した。

 臨戦判断サブルーチンが発した神経信号を上書き(オーバーライド)して防御を中止、刀を受け流す形での回避を試みる。


 直後、スパッ、と斬られた空気が作り物かのようにあっさりとした音を鳴らした。


 戦闘モード中の緊急介入は、普通なら身体システムをむやみに混乱させて隙を見せる自殺行為。

 だが結果として、サイボーグの判断は正解だった。


 何故なら先ほどは刃を弾き返したはずの左腕砲身に刀傷がつき、赤熱している。

 先の一刀を、防げていなかったのだ。


「獣的な直感ってやつか。流石だ」

「くっ……!」


 続く連続攻撃も、ソルドは何とか躱す。

 合金をも切断して見せた刃に斬られれば、サイボーグの身体とてひとたまりもない。


「君は強いが、油断しすぎなんだ」


 必死で回避するサイボーグとは対照的に、襲撃者は刀を振るいながら涼しげに言う。


「そこらのゴロツキも商会の連中も大した違いはない。金に困っていて、汚れ仕事でしか生きていけないが弱い、刃の扱いも知らない素人だ。何人束になってかかってきても君を倒すことなんかできないだろう」

「ずいぶん、お喋りな野郎だっ! そんなに言いたいことがあるなら会合の場でも設けてやろうか?」

「当然彼らを倒し続けても成長はない……代わりに、過ぎた強さは油断を生む。そして油断は命取りになる」


 白銀の刃を繰り出す襲撃者はソルドの皮肉に取り合わない。

 その攻撃と同じく、自分の言いたいことを一方的に押しつけるだけだ。


「だから君は私に殺された方がいい。痛みは少なく、一瞬で地獄へ送り返してやれる」

「話の前後が繋がっていないぞ。それに……油断は、あんたにもあるみたいだなっ!」

「っ!」


 ギィン! と金属の衝突音が鳴る。

 ソルドが白銀の刃を右腕ブレードで弾き返したのだ。


 そして彼の身体システムは襲撃者の体勢が一瞬崩れたのを見逃さない。

 すぐさま追撃し、その顔を覆うフードを斬り裂いた。

 直撃こそできなかったが、襲撃者を後退させるのに成功する。


「……もう()()にしてしまったのか」

「誰かさんが『お手本』を散々見せてくれたからな」


 ソルドは右腕ブレードを掲げて見せた。

 ギラッ、と、その刃が一瞬輝く。


「刃がヒットする瞬間に魔力を流して刃を硬化させる……一応、一通りできるようになってはいたが、正直必要性を感じていなかったんだ。だがこうして必要に迫られた結果、俺の臨戦判断サブルーチンが、いや、俺の身体があんたからより良い使い方を盗んでくれた。ザコばかり倒していても経験値にならないってのは、あんたの言う通りだったな」

「まったく、君には手を焼かされるな。私になじみのある悪魔のイメージとはかけ離れた勤勉さだ」

「俺は悪魔じゃなく人間だからな。むしろ俺もイメージと違いすぎて驚きだ、エルフさんよ」


 森に生きる民特有の咎って長い耳に、端正な顔立ち。

 襲撃者の切り裂かれたフードから露出しているそれらを見て、ソルドは肩をすくめた。


「エルフは白兵戦より弓が得意って話じゃないのか。別にティーン向けファンタジーの熱心なファンでもないんだが、種族単位で刃物の扱いが得意じゃないから商会の連中が弱いのかと思っていた。あんたは連中と違うみたいだが、そろそろバックに誰が居るのか教えてくれてもいいんじゃないか? それともしっかり『質問』しなくちゃダメか」

「……私は、誰の指示も受けてはいない」

「じゃあ趣味で殺しをやってるのか? そんなワケはないよな」

「趣味ね。どちらかと言えば趣味なのかもな」


 吐き捨てるように言って、襲撃者はソルドを睨みつける。


「指示はないが、私には使命がある。それに、君は自分で言った言葉の意味をよく反芻(はんすう)した方がいい。『バックに誰が居るのか』、商会に対してもその意識が及んでいないから私から油断していると(ただ)される羽目になる」

「……」


 ソルドは得意の皮肉で返そうとして、しかし思い留まった。


(商会のバック……)


 以前ステラにも言われていた。

 一体なぜ、商会はステラを狙うのか。

 元気に貴族をやっていた時代に恨みを買ったとかだろうと思っていたが、何の根拠もない。

 そもそもガレットを牛耳っているマフィアだということくらいしか、タインルフェ商会について知っていることも無い。

 そしてタインルフェ商会がマフィアなら、彼らに利益をもたらす何者かが居て当然だ。


 商会がステラを狙うなら、誰がステラの死で利益を得る?

 ステラの死が、なぜ利益をもたらす?

 何も分かっていない。


 これが油断と言わずして何と言う。

 護衛として、致命的な意識の欠如だ。


「どうやら、私の言っている意味が伝わったようだな」

「……まあな。だがそうすると、まずあんたは何者なんだ。ステラを殺しに来たという割には奇妙な言動が多すぎる。俺へ向けていた殺気は本物だったが、今こうして手を止めてお喋りしてくれている理由は何だ」

「答えてやりたいが、まずは」

「まずは、先に俺の質問に答えてもらおうか? 兄ちゃん」


 会話に割り込んだのは男の声。

 黒衣の襲撃者の背後、路地の入口に大柄な男が立っていた。

 胸にバッジが光る灰色のダブルスーツに、途中から千切れたエルフの耳。

 男は咥えた葉巻をゆっくりと吸い、ゆっくりと吐いて、サイボーグの顔を見据えて言う。


「お姫様の護衛がウチのかわいいかわいい従業員たちをえらくかわいがってくれているという話を聞いたんだがよぉ、そりゃあお前のことで合ってるよな?」

「何の用だ。見たとこお偉いさんみたいだが、取り込み中でな。後にしてくれると助かるんだが」

「いや何、俺も時間を取らせるわけじゃねえ。用事はひとつでな」


 葉巻の(エルフ)は両手に握った二振りの凶器を構えた。

 (サイ)に似た三又のそれは、夜闇の中でも白銀に輝いている。


「お姫様ごと、死んでくれや」

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