021 完璧な作戦
「ステラ、あんたがいいなら俺は構わないが……そんなのどこに居たんだ」
「わたくしたちのコテージの裏の檻よ」
何でもない風に答えるステラにトーガンが「ちょっと待った」とツッコミを入れる。
「そいつはドルエンが銀の探索用に用意したがデカい上に気分屋で使えないから檻に入れてあったんだぞ。お嬢ちゃん、危ないから降りた方がいい」
言いつつ、トーガンはちら、と横目でソルドの表情を伺ってきた。
サイボーグ保護者は肩をすくめて「……だそうだが?」と問うも、竜に乗る令嬢は「そう? 全然大丈夫だけど」と聞く耳を持たない。
「というか近づいても全然吠えないから傍にあった鍵で檻を開けてやったのよ。馬具を着けている間も大人しかったし、わたくしを自分から背中に載せてくれたし」
「あんたは……いや」
あんたは自分から俺に護衛を頼んだクセに、時々信じられないリスクを取るよな。
ソルドは言いかけた小言を呑み込みつつ、この世界に発信機とか盗聴器とかが無さそうなのを悔やんだ。
「もしかして妥協でこの子を選んだと思っているの? ちゃんと馬としての性能を吟味したに決まっているわ。ほら、こんなに軽やかに切り返せるのよこの子。わたくしが今までの人生で乗ったどの馬よりも素晴らしい!」
ステラが手綱を引っ張ると、乗られている下等竜はギャア、ギャアと小さく吠えながら前後に跳ねた。
短い前脚はほとんど手のようなもので、代わりに太く強靭な後ろ足がその動きを支えている。
「わたくし気に入りました。この種の竜を交配で増やし、馬に代わる移動手段とするべきです。騎竜とでも名付けましょう」
「今後のことはともかく……ステラ嬢も合流したことだし、もう一度作戦の確認をしておこうか?」
興奮気味に喋るステラをなだめる代わりなのか、ヴィーナは自らも馬を連れてきつつ苦笑して言った。
「簡単に言えば落とし穴への誘導作戦ってところだな。坑道から出てきたドルエンを迎撃装置で攻撃しながら誘導して落とし穴まで連れて行って、うまくハマったらあとは投石機でありったけの岩を投げ込んで潰す。囮は私とステラ嬢、迎撃装置の起動はドワーフたち、ソルド、貴様は……なんだっけ?」
「俺はステラの護衛だ。ステラの様子を見つつ適宜動く。場合によってはドルエンへ直接攻撃することもあるだろうな」
「要は何でもやるってことだったな。まあとんでもない怪力だし、ひとりで竜退治したこともある貴様なら大丈夫だろ」
「うーむ、完璧な作戦ね。我ながら感心するわ」
作戦の立案者たる没落令嬢は下等竜もとい騎竜の上で満足げに頷く。
一方で、サイボーグ執事は怪訝な表情だ。
「ステラ、本当にあんたが囮になるのか。泥臭い役割はそこの女騎士に任せておけばいいだろう。肋骨が折れてもピンピンしているような本職の兵隊だぞ。こいつは岩にぶつかろうと竜に弾き飛ばされようと無事かもしれないが、あんたはそうもいかないだろ」
「なんか失礼な物言いだなオイ。私はこれでもか弱き乙女なんだが?」
ヴィーナのツッコミにソルドは少しも反応しなかったが、ステラは「いいえ、これはわたくしの役割です!」と声を張って彼の言葉を否定した。
「皆が命を賭して戦うという時にひとりでじっとしていられないわ。それに、ようやくこんなわたくしでも果たせる役割ができたのよ。武勲を立てずして何が貴族ですか」
「血気盛んなのは良いことかもしれないがな。あんたには……目的があるだろ。俺との契約はその大いなる目的のためのもののはずだ」
「そして続く言葉は、別の方法でも何か役割があるはずだ、ですか? ふふ、ご心配はありがたく受け取っておきます。この選択がかなりの危険を伴うことも、もちろん理解しています。ですが昨晩も言った通り、わたくしはクソデカいことを成し遂げたいのです」
ステラは芝居がかった口調で言いつつ、ソルドをビシッと指さして言った。
「危ない時はあなたが守ってよね。そういう契約のはず。最強の悪魔だし、できるでしょ?」
その声は、常人には聞き取れない程度ではあったが、震えていた。
それを電子鼓膜で聞き取ったソルドもそろそろ理解している。
契約がどうなろうと、ステラが守れなくとも自分にはなんの損もない。
所詮はその程度の関係だ。
だから、これは同情ではない。
別にこのちんちくりんで世間知らずの泣き虫女に未練があるわけでもない。
やれることをやるだけ。
少しでも気持ちよく生きるために。
「了解、お嬢様」
ため息でも混ぜないと口に出せないこの言葉は、あくまでも自分のために、だ。
「んん、今もしかして悪魔って言った?」
と、何かを耳ざとくヴィーナがニヤニヤしながらステラに問うた。
直後、没落令嬢の表情は誰がどう読み取っても「しまった!」と読み取れるように変化する。
「いいい言ってません! 言ってませんわ! わたくし悪魔召喚なんかしていませんし、ソルドとは昔っからの顔なじみでしてよ!? なんかこう、ホラ、アレです! お家が没落しても仕えてくれる忠義の騎士のようなものです! ねえ!?」
「……悪いが首を縦には振れないぞ」
「ちょっと!?」
などと、和気あいあいとし始めた次の瞬間だった。
「っ! この地響きは……!」
異変にいち早く気づいたのはトーガンだった。
そして地響きは、その場の誰もがイヤでも気がつくほどに大きくなっていく。
「おっ、とうとう来るみたいだね。ステラ嬢、準備はいい?」
「もも、もちろんですわ。ですけれど、こんなに大きな地響きがするなんて……!」
ヴィーナは素早く馬にまたがると、不安がるステラの肩に手を置いた。
「あれだけの大きさの竜が坑道を掘り返しているんだから、地響きくらいはするさ。前もって準備できるからむしろありがたい。さ、深呼吸して備えな」
「すぅーーーはぁーーーすっ、すぅゲホゴホッ!?」
「緊張しすぎだぜお嬢。大丈夫、すぐには出てこないから落ち着きなよ」
「そ、そうでしょうか。わたくしなんだかイヤな予感がするんだけども」
「おいおいそういうことは言うものじゃないよ。ただ落ち着いてどっしり構えていたらトラブルなんて……」
「いや待て。やはり様子がおかしい」
二人の会話に割り込んだのはソルド。
サイボーグは電子義眼による坑道入り口の観測と電子鼓膜による地響きの解析で、現在進行中の事態の正確な把握を試みた。
(坑道の出入り口に振動も土埃も見られない。地響きの発生源も少しズレている……なるほどな)
ソルドはフゥー、と長い息を吐き、待機させていた戦闘システムを本格的に始動させていく。
ほとんどのダイアログは正常。右腕のみ、注意すべきエラーあり。
体温が上昇し、神経伝達にブーストがかかり、視聴覚が明晰化していく。
「……ソルド? 何か分かったの?」
「ああ。ステラ、そしてヴィーナもすぐにでも走れるように構えろ。トーガンはドワーフたちに迎撃装置の狙いを可能な限り素早く修正するよう指示を出せ」
「それってどういう」
「やっこさん、どうやら寄り道がしたくなったらしくてな。多分坑道の横っ腹に他の出入り口をぶち開けて出てくるぞ」
「え」
「そろそろだ。三、二……」
「ちょ、ちょっと待って!」
待たないというか、待てない。
サイボーグがゼロ、と告げる代わりに、坑道から真横にかなりの距離離れた山肌が爆発した。
いや、実際に爆発したのではない。
ギャアアアアアアアアアア! と。
黄金色に輝く巨大な竜が咆哮と共に出現し、爆発かと錯覚するほどの土砂崩れを発生させながら這い出てきたのだ。
そして土砂崩れに見えたものもまた、半分は彼の眷属たる小型竜。
「全く本当に、ひとつも上手くいかねえなこの世界は」
まあ前の世界でも上手くいった試しなどないが。
なんて心中で皮肉っぽく続けつつ、ソルドは呆けてしまっている他の全員に代わって号令をかける。
「作戦開始だ!」
完璧な作戦
上手くいかないたくらみのこと。
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