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018 没落令嬢の必須スキル

「ゴアアアアアアアアアッ」


 大空洞内に理性を失った獣の咆哮が響き渡る。


「ド、ドルエンっ!」


 さっきまで話していた竜から理性が消え去ったのを信じられないのか、ステラがふらふらと前に出る。

 ソルドはその首根っこを掴み、引っ張り戻して言う。


「ステラ、撤退だ。この場所は巨体が暴れても大丈夫なほど丈夫には見えない。ここに居たらいつ死ぬか分からんぞ」

「でも、まだ銀貨のことが聞けてない!」

「こんな状態じゃどのみち聞けない。今は生きて帰ることが最優先だろ。ほら、下がれっ!」

「きゃあっ!?」


 サイボーグ執事に放り投げられたステラは隅の方で怯えていた三匹の下等竜をクッションにして無事に着地したが、直後にドゴォ! と耳をつんざく破壊音が響き渡った。

 理性を失ったドルエンが器用に身体を回転させ、ソルドめがけて太く巨大な尾を薙ぎ払ったのだ


「ソルド!」

「問題ない! 荷重は許容範囲内だっ」


 両手で尾を受け止めたソルドはステラの悲鳴に叫び返す。

 彼自身へのクリーンヒットは避けられたものの、しなった尾の先端部分が大空洞の壁を叩き、天井からぱらぱらと小岩や砂がこぼれ落ちる。

 さらに言えば、サイボーグとしてもノーダメージとはいかなかった。


(右肘の関節(サーボ)に動作エラーが出てるな……許容と言ったって、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もう一発貰ったら、少なくとも右腕はイカれちまうだろうな)


 電子義眼が視界の隅にポップアップさせた警告ダイアログをキャンセルしつつ、ソルドは素早く周辺の状況を確認した。


 ステラは怯えているがパニックにはなっていなさそうだ。隙を見て抱えてしまえば運べそうだが、そのためには退避路の確保が必須。

 ドワーフ親方のトーガンはカバンを抱えて自分が掘ったトンネルに向かっている。ひとまず彼が通り抜けないと他の奴は通れない。

 では女騎士は……と、ソルドが探すのに呼応するように、凛々しい女の声が「こっちだ!」と叫ぶ。


「かかってこい暴れ竜! こっちには貴様を痛い目に遭わせる剣がある! 先に潰しておいた方がいいんじゃないか!」


 挑発の言葉を叫ぶヴィーナが立っているのは瓦礫が積み上げられた大空洞本来の入り口。

 その狙いを察したソルドは足元の小石を拾い、竜の眉間に向かって投げつけた。


「おらついてこいデカブツ! 今度はあっちの岩を投げつけてやるぞ!」


 叫びつつ、サイボーグは転がっていた松明を振り回しながら女騎士に向かって走る。

 竜は苦しみに悶えながらも、その後ろをゆっくりと追い始めた。


「おっ、貴様も同じ考えか?」


 ソルドが近づいてくるのを見て、ヴィーナは楽しそうに言った。


「あんたの下手くそな挑発を聞けばポンコツの配膳ボットだって思いつく。だがデカブツが挑発に乗ってくれないと話にならないが……」

「それに関しては心配ご無用。貴様は松明をそこの岩の近くに置いて、ステラ嬢を迎えに行け。きっと心細くしているぞ?」

「では挑発は……」

「続きはもちろん私が。一応、この剣は飾りではないんでね」


 鞘から剣を引き抜いた女騎士は、下段に構えて走り出す。


「私もなってみたかったんだ、ドラゴンスレイヤーってのにさ!」

「了解」


 ソルドはヴィーナが目印にするのであろう松明を瓦礫の上に投げ、ステラの元へ走る。

 松明の無い暗闇の中だが電子義眼(サイバーアイ)の暗視モードが視界を確保しているうえ、ステラの相対位置は即席マップにマーク済み。加えてドルエンの注意が逸れているおかげで、特に攻撃を受けずに難なく到達。


「ソルド! あ、あなたに置いて行かれたかと……」

「そんなわけが無いだろう。行くぞ」


 泣きそうになっているステラをおぶり、ソルドは再び大空洞の本来の入り口の方へと引き返す。

 連れて来ていた三匹の下等竜も勝手についてきている。


「ね、ねえソルド。なんだか変な声がしない?」


 と、背中から不穏なセリフが聞こえ、ソルドは周囲を軽く確認する。


「変な声って、どんなのだ」

「キィキィって感じの、コウモリみたいな雰囲気の高い声よ。さっきまでは聞こえていなかったのに……」

「コウモリって翼の生えたネズミみたいな生き物だよな。洞窟には普通に生息しているものだろ?」

「そうだけど、でもやっぱり変よ!」


 ソルドが電子記憶から引っ張り出した知識を披露しても、ステラは食い下がった。


「ソルド、あなた目も耳もいいんでしょう? 何の声か確認できない?」

「まあやってみるが……」


 サイボーグはしぶしぶ電子義眼のモードを暗視から熱探知(サーモセンサー)に切り替えるが、松明の熱源が邪魔なのもあってよくわからない。


(コウモリの位置が分かったところで何の意味があるんだか。だが、こいつが情緒不安定になるとトラブルになりかねないからな……)


 ソルドは内心ぼやきつつ、今度は電子鼓膜を収音モードに切り替え、高周波数帯の音を拾うように調整してみた。

 直後、四方八方から騒がしいほどの音が耳に飛び込んでくる。


「なんっ!?」


 思わず声に出てしまうほどの、意識の埒外からの大合唱。

 しかもそれらは天井からではなく、床の方から。

 コウモリが居るなら少なくとも上部からの声になるはずだが、ではこの足元からの声は一体……?


(コウモリは恒温動物で天井付近にいるはず。だというのに熱探知には何も引っかからないうえに、音が足元からするだって? まさか……!)


 イヤな予感に思い至った。だが言葉には出さない。

 ソルドは電子義眼をもう一度暗視に切り替えて、足元の音のする箇所を注意深く確認した。


「マジかよ……」

「ど、どうしたのソルド。やっぱりコウモリだった?」

「竜だ」

「えっ……?」


 ソルドは走る速度を上げ、足元から這い上がろうとしていた小型の爬虫類を振り落としながら叫ぶ。


「ドルエンの身体から剥がれ落ちた鱗を背負った超小型の竜がそこら中にいる! 連中に群がられたらどうなるか分からんぞ!」

「なっ……!」

「くそ、なんで気づかなかったんだ! ヴィーナ!」


 サイボーグが叫ぶとほぼ同時、ゴアアアアア! と、その声をかき消すように竜の悲鳴が上がった。

 女騎士が竜が振り下ろした手に剣を突き立てたのだ。

 竜は痛みに悶え、怒りに狂い、女騎士を殺害せんと追撃を仕掛ける。


「よしよし、このまま私を追って岩のところまで……おわっ、なんだこいつら!?」


 余裕の態度で後ろ向きに走っていたヴィーナは何かを踏んで転倒。

 起き上がった彼女の身体には無数の小型竜が群がっている。


「ちょ、こんなの聞いていないっていうか、今はまずっ」


 慌てて起き上がったヴィーナの言葉が中断する。

 ドルエンが振るった尾が女騎士を捉え、大空洞入り口の岩の山に叩きつけたのだ。

 積み上げられた岩は衝撃でガラガラと崩れ、坑道への道が開通。


「ヴィーナさん!」


 数秒後、ソルドが大空洞入り口に到着。

 その背中から降りたステラは崩れた岩の上でぐったりとしている女騎士に駆け寄った。


「ぐふっ……流石にちょっと、効いたな。こりゃ、報奨で屋敷のひとつでも貰わないと、割に合わない……」

「冗談を言っている場合!? くっ、重い!」


 ひ弱な少女の腕力では、鎧を着込んだ成人女性の身体はびくともしない。


「ああ、どうしてこんな……ソルド! あなたならヴィーナさんを抱えて走れるわよね!?」

「可能だが拒否する」

「どうして!?」

「俺にとってはあんたの身が優先だからだ」

「っ!」

「軽くスキャンしたが、この女の推定重量はあんたと合わせると俺の能力を超えている。どっちか一人を助けるなら、当然あんただ」


 ソルドは大空洞内で暴れまわる竜と足元に這い寄ってくる小型竜に注意を向けつつ端的に言った。

 その目には唇を噛む少女の姿は映っていない。


「だから諦めろ。その女を置いて撤退を……」

「いいえ! 諦めません!」


 だからソルドは、ステラが叫んだ言葉に耳を疑った。


「あんたの足の速さじゃ確実に竜どもに追いつかれて喰われる。だからあんたがなんと言おうと、俺はあんたを背負って走るぞ。そういう契約だ」

「ではわたくしが追いつかれなければいいのですね? あなたたち!」


 ステラがパチッ、と指を鳴らすと、ステラの側に首輪のついた三匹の下等竜が身を寄せた。採掘のために連れてきた竜たちだ。

 そしてソルドが止める間もなく、ステラはそのうちの一匹の背中に跨った。


「わたくしはこの竜たちに運んでもらいます。だからあなたはヴィーナさんを!」

「あんたはいつの間にそんな技術を……」

「言わなかったかしら? わたくし馬には乗れますのよ。そしてこれだけお利口なら、馬も竜も大して変わりはしませんわ!」


 呆気にとられるソルドをよそに、ステラは跨った竜の首を坑道の出口の方へと向けてその尻を叩いた。


「さあ走りなさい! 残りのあなたたちはこの子を支えながら並走! わたくしがちょっと重たいからって、遅く走ったら承知しませんから!」


 令嬢の号令にグエッ、と返事をし、下等竜たちはいっせいに走り出した。


「ソルドも早く!」

「あ、ああ」


 急かされて我に返ったソルドは小型竜たちにかじられかけていたヴィーナを引っ張り上げ、両手で抱えてステラが騎乗する下等竜の後を追った。

 彼がバランスを崩さないよう速度を加減をしているとはいえ、ステラを乗せた竜はその大型犬くらいの身体のどこにそんな力があるのか、彼とほぼ同等の速度で走っている。

 あるいはそれだけステラの乗馬……いや、乗竜技術がすごいのか。


「まったく、ムチャクチャな依頼人(クライアント)だな……」


 坑道入り口の光が見えてきた頃、サイボーグは自分のことを棚に上げつつ嘆息した。

コウモリ

ソルドの居た世界ではすでに絶滅している生き物。だが未だに嘘つきや裏切り者、二枚舌に向かってコウモリ野郎! と罵倒する文化だけは残っている。


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