1-8:立ちふさがる強敵
ゴブリンの掘った通路を抜けて地下遺跡にたどり着いた一行は魔法使いの索敵魔法により大型魔物の接近を感知して通路に向かって警戒を強めていた。その魔法使いのディアが突然声を上げる。
「なにか飛んでくる!」
その声に反応して散開した一同の間を一抱えほどもある大きな岩が勢いよく通過して向かいの壁に激突した。
「壁が崩れてしまいましたわ!」
思わず振り返った回復役のフリーデが叫ぶ。それにつられて薬師のチャールも振り返るが他の面々は油断なく岩が飛んできた方向から目を離さず警戒を続けていた。
「岩を投げられるような相手となると厄介だな。正体はわからないか?」
リーダーのカールが顔は入口に向けたまま後ろに問いかける。
「アタシの魔法ではまだはっきりしないわ。体が人間の倍ぐらいあって二足歩行してるってぐらい」
ディアがそう答えるのにおそるおそる通路の奥を覗き込んでいた野伏のティナが続けた。
「ちょっと暗くて見にくいけどたしかに人型ね」
「灯りを飛ばしてみる?」
「もうこっちにも気付かれているみたいだからな。やってくれ」
カールが言うのに応えてディアが呪文を唱え光球を奥へ飛ばす。それに照らされた魔物は眩しそうに片手で目を覆った。特徴的な大きな一つの目を。
「サイクロプスね。力も強く素早さもある強敵よ。幸い武器は持っていないみたいだけど」
金属鎧に身を包んで大きな盾を持つシンディーが苦虫を噛み潰したような表情で言う。
「ゴブリンたちはこのサイクロプスから逃げようとしていたみたいですわね」
正面に向き直ったフリーデがやや上ずった声で言う。
「オレ達もゴブリンを見習って撤退したほうがいいかもな。後ろはどうなってる?」
「さっきの岩が当たって崩れた壁で出口が埋もれてる。すぐに逃げるのは無理だね」
チャールの報告にカールは一つ舌打ちをしてまた様子を窺う。サイクロプスはその巨体を屈ませなければ入れないような通路を嫌がってか向こう側からまだこちらに進んで来る様子はない。ときどき周囲を見回しては石を拾って投げつけてくるがその大きさは最初のものよりは随分小ぶりだ。
「どうもあいつの近くにはもう手頃な岩がないみたいだな」
カールがややホッとした感じで言うがディアが反論した。
「言っとくけど最初のに比べて小さいだけで十分大きいからね。当たったら大怪我するわよ」
言われてカールも少しだけ苦笑する。
「そりゃそうだ。しかしこれからどうしたらいいと思う? 前に進んであいつをなんとかして外に出るか、後ろの崩れた出口をなんとかして逃げ出すか」
「前に出るのはまず無理です。私達はゴブリンにも苦戦してるのに、サイクロプスは一体とはいえ遥かに格上ですから」
野伏のエルゼが真っ先に前進案に否定意見を出す。
「エルゼはサイクロプスに遭遇したことあるの?」
「研修中に、一度だけ遠くで見たことが。教官たちから『今は無理だからすぐ逃げるぞ』って言われたから近づいてもいないですけど」
シンディーの問いに答えたエルゼの口調は相変わらずだが落ち着いているだけに教官も回避したという事実が重く感じられる。
「それじゃあやっぱり出口をなんとか開けて逃げる方になるか。崩れた壁はどけられそうか?」
「元の壁が石を積んで作られてたから、数は多いけど一個一個は小さいからね。時間をかければ僕でも十分できるけど、問題はそこが通路の正面でまだときどき石が飛んできてるってことで」
チャールがそう言っている間にも石が飛んできて出口の周囲に当たっていた。
「確かにこれじゃあ安心して作業もできないな。なんとかして投石を防がないと」
「それしか無いんでしょうけど、どうしたものかしらね」
ときどき飛んでくる石を警戒しながらああでもないこうでもないといろいろ話し合った結果、
「オレとシンディーにフリーデが防御力強化をかけて投石を受け流しつつ、ディアの筋力強化をかけたチャールとエルゼが出口を開ける。ダメージ受けたらフリーデの魔法とチャールの回復薬で回復。ディアも攻撃魔法でサイクロプスの気をそらす。こんなところだな」
「結局のところは強引な方法しかないんですのね」
「わたし達ではまだまだできることが少ないですから、できる範囲でなんとかするしかないでしょう」
「仕方ないですよね。じゃあ回復薬も全部渡しておきます。余裕があったら瓶は捨てずに返してくださいね」
「魔力回復薬があったらちょうだい。アタシの魔力だと二人に強化魔法かけると残りが心もとないの」
「防御力強化は有効時間長いですけど念の為にわたくしにも魔力回復薬いただけるかしら」
「魔力回復薬は二本しかないんですよ。一本ずつ渡しておきますからいい感じで融通してください」
なんやかんやとアイテムのやり取りや立ち位置の確認を行って当人たちにとって可能な限りの準備を整える。
「よーし、じゃあオレ達が先に防御魔法かけて通路前に立つからすぐに強化魔法かけて開通作業の開始な。じゃあ始めるぞ。1,2の、3!」
カールのカウントに合わせて一同は一斉に動き始めた。




