1-7:想定外の事態
キノコを栽培していた洞窟に住み着いたゴブリンを退治してくれとの依頼を受けた一行は苦戦しつつもなんとか討伐に成功したが、事前に聞いていた最奥部だったはずのやや広がった空間にはさらに奥へと続く裂け目があった。リーダーのカールはこの奥にまだ脅威があるのではないかとさらに調査することを決断し、一行は更に奥へと進んでいた。
「この壁の感じだとまだ掘られてからあんまり長い期間は過ぎていないようですね」
罠が仕掛けられていないかを警戒しつつ先頭で進んでいた野伏のエルゼが報告する。
「自然にできたわけじゃなくて何者かが掘ったってことなのね。やっぱりあのゴブリンたちでしょうね」
魔法使いのディアがそれに応えて言う。
「あいつらも狭すぎるのは嫌だったのか人間でも歩ける程度には広いのはいいな」
カールはそう言うがときどき屈まなければつっかえるぐらいの高さの場所もあるし幅も一定ではなく、やはりゴブリンだけあってそれほど丁寧な仕事ではない。
「全く進みにくいったらないわ。わたしには狭すぎるわよ」
大きな盾を持った戦士のシンディーは歩きにくそうにしている。ちょっと狭くなると角が地面に引っかかることが多いようだ。
「あなたは小さいから通りやすくていいですわね」
「そちらこそ凹凸が少なくて引っかかりがなさそうで」
回復職の二人、フリーデとチャールが言い合っているのも既に恒例になってきた。主にフリーデのほうが突っ掛ける側である。フリーデは魔法による回復と補助がメインだがチャールは薬をつかって弓矢も使う後衛兼用という半端なところも嫌われているようだ。
「壁の様子が変わったわ。みんな注意して」
先頭のエルゼが報告すると流石に全員の顔も引き締まる。
「様子が変わったとは?」
「掘ってできた壁なのは変わらないけど、掘られてからずいぶん長い時間が経ってるわね。ゴブリンたちがここを通ってきたのならこの先がもともと使われてた可能性高いと思うわ」
「生き残りがいるんならこの先かも知れないってことか。ディア、この先に何か居たりしないか?」
「アタシの魔法の範囲内にはいないわね。でもあと50歩ほど進んだ先にかなり広くなってる場所があるわよ」
「わかった。エルゼは引き続き仕掛けに注意しながら前進。ディアも索敵を継続してくれ。拠点だったなら近くに罠を仕掛けることは十分あるだろうからな」
ゴブリンの残党も近くにはいないと判断したカールは罠の発見を優先して野伏のエルゼを先頭にしたまま進む。
「あ、あったわ。単純に紐を張って引っかかると鳴子が音を出す程度だけど。これならまたぎ越しちゃったほうが早いから気をつけて通ってね」
カールの判断も間違いではなかったようでエルゼが罠を発見した。部屋の主がいない状況で鳴子がなってもそれほど意味はないかも知れないが用心するに越したことはない。
「まあゴブリンの仕掛けた罠ですからそんな複雑なものはないでしょうね」
そう言ってシンディーがまたぎ越していくのに全員が続き、少し歩くと索敵の情報通り広い空間に出た。
「ここはどう見ても人の手が入った部屋ですわね。ちょっと教会の様式に似ていますわ」
周囲を見回したフリーデが口を開く。きっちりした四角形ではなく意図的に角を落としたり不規則な凹凸を付けたりと実用よりも装飾を優先した構造だ。出てきた洞窟の反対側にはしっかりした通路の入口がみえる。
「やっぱりここがゴブリンたちの住処になっていたみたいね」
部屋を調べていたディアは焚き火の跡や食い残した動物の骨や皮を見つけて予想を述べる。
「洞窟の入口はしっかりした仕上げじゃないからゴブリンたちが壁を崩したか偶然崩れた先を掘ったのかな」
「そうかも知れませんね。ゴブリンは寝るときは狭いところを好むようですからこの部屋は落ち着かなかったのかも」
カールとシンディーも部屋の様子を見ながら話し合っている。
「こちらにあるのは略奪したり拾ったりしたものかしら。洞窟にいたゴブリンたちが持っていた剣と同じ紋章がついているものもありますわ」
フリーデは部屋の隅に無造作に積まれていたアイテム類を見ている。ある程度は村の洞窟の方に移動させていたようだが、ゴブリンにとって重要ではなかったであろう大柄な武器や防具、装飾品の類がまとめて残されている。
「薬草とか残ってないですか。略奪してもゴブリンに薬を使う知恵はないから時々あるっていうんですけど」
薬師のチャールも残留品に興味を示すがそれをリーダーのカールがたしなめた。
「漁るのもほどほどにしておけよ。しかしどうやらここからゴブリンがやってきたのは確実みたいだが、なんでわざわざ横穴を延長してまで村の方に抜けようとしたのかな」
カールの疑問に、不意に緊張した顔になったディアが答えた。
「そりゃやっぱりここから出ていきたいような事情ができたんでしょ。それも向こう側の出口を使わずに」
ディアの視線は入ってきた方と逆側にある出口に向いていた。
「なにか大きなのが来てるわよ。みんないつでも動けるよう警戒してね」




