1-2:教会でのお仕事
黒狼との遭遇から三日。通りすがりのパーティーに助けられたあと、道まではすぐに出られて村もすぐそこだったこともあり先を急ぐ彼らとは早々に別れ、チャールは再び日常の生活に戻っていた。今日の彼の仕事は教会付属の救護所での治療である。
「チャール~。ベッキーが転んで膝すりむいたー」
まだ朝早くの最初の患者は兄に連れられてきた村の幼い女の子であった。膝を擦りむいてわんわんと泣いている。普段ならどうせ効かないと最初から回復薬を使うところであるが、先日の遭遇で重傷を負った彼らの一人を魔法で癒やしたという記憶もまだ残っている。
「どれどれちょっと見せて。『(半回復)』」
小声でこっそりと呪文を唱えてみるが、やはり魔法は発動しなかった。
「うん、じゃあ回復薬を使うよ。ちょっとピリッとするけど我慢して」
チャールは瓶の蓋を開けて回復薬を傷口にかけた。薬に含まれた魔力が少女の膝小僧に浸透して回復力を活性化させ、傷が癒えていく。
「お兄ちゃんありがとー」
治療を終えた少女は礼を言って帰っていった。それからしばらくは回復薬の調合をしながら待機していたが、昼前になった頃に次の患者がやってくる。
「おう、すまんな。質の悪い釘が混じっててよ。叩いた途端に折れて顔に飛んできやがった。それほどの傷じゃないんだが血が目に入ると仕事にならなくてな」
「うわあ、結構ざっくりいってますね」
二人目の患者は村の大工だった。額に大きく開いた傷口の様子を見ながらまたこっそりと半回復の呪文をかける。
「ん、ちょっと痛みが引いたかな?」
今度はたしかに呪文が効いた感触もあったし傷も閉じかけてはいたがやはり完全には回復しない。
「まだですよ。回復薬使いますね」
当人には見えないのをいいことにまだなにもしていないふりをして回復薬を使うと傷は完全に塞がった。
「ありがとよ。またひどい怪我したら頼むぜ」
大工もまた礼を言って去っていった。その後も空いた時間には調薬をしつつ、ときどき来るけが人の治療に当たってこっそり半回復呪文を試してみたが、やはり発動率はおよそ半分で効き目もほんの僅かな状況は以前と同じだった。
◆ーー◆ーー◆
「あ、アイザック兄さん、おはようございます。今日は朝からお出かけですか」
兄さんといっても血縁関係のある間柄ではなく同門の兄弟子という意味である。
「おはようチャール。今日は俺が回復魔法当番だよ。まあ大丈夫だとは思うが魔力回復薬一本もらっていっていいか」
「はい、これどうぞ。使わなくて済むんならそれでいいですけどね」
「まあそうだな。お前の方は今日はまた素材集めか。魔法が使えないと大変だな」
アイザックはチャールの服装装備を見て採集に行くと判断したようだ。
「そうなんですよ。兄弟弟子は魔法の修行をしてるんですが、昨日の当番で回復薬が残り少なくなっちゃって。」
「それだけじゃないだろ。お前こないだ薬瓶たくさん割ってガラス屋に下取りに出してたじゃないか。あれでだいぶ無駄にしたんだろう。素材集めにいっててコケたのか」
実はチャールは先日のことは周囲の人間には打ち明けていなかった。危険だから素材採集禁止とか言われてしまったら彼の薬師としての存在意義がなくなってしまう。
「まあそんなところです。薬を無駄にしたこと、ジェローム司祭には内緒にしててくださいね」
「うーん、お師匠も薄々わかって黙ってるんだと思うけどな。仕事をしっかりやってる分にはなにも言われないと思うぞ」
どうやら彼らの師匠は厳しく管理するタイプではないようだ。
「それならなおさらのこと僕は薬の材料を集めてこないといけませんね。それじゃあアイザック兄さんもお気をつけて」
挨拶をして兄弟子と別れたチャールは装備を今一度確認すると素材採集に向かった。さすがに前回のこともあり奥へは行きすぎないよう注意して採集に励む。
「そろそろ休んで弁当食おうかな」
太陽はもうほぼ頂点にかかっていた。いつもと同じく干し肉と水という簡素なものを食べ終わって、さて採集を再開しようかと立ち上がりかけたときに森の奥からなにかの気配を感じた。集中するとなにかが藪をかき分けて進んでくる音も聞こえてくる。
「野生動物ならこんな音立てないと思うけど、こんなところに来る人間だったらもっと厄介かもしれないな」
そうつぶやきながら気配と反対側の木の陰に身体を隠す。すると突然横から覚えのある声が聞こえてきた。
「なんだ、こないだのガキじゃないか。おーいディーン、怪しいやつじゃなかったぞ」
声をかけてきたのは先日黒狼から助けてもらったパーティーのハックと呼ばれていた少年だった。少し経ってパーティーの他のメンバーも合流してきた。どうも戦闘のあとのようで何人かは負傷している。その中でリーダーと思われるディーンと呼ばれていた青年が話しかけてくる。
「やあ、君のことは気になっていたんだよ。この間は無事に帰れたようだね。今日も薬草採集かい」
「ええ。僕は回復魔法がうまく使えないんで教会では回復薬をつくってるんです」
「回復魔法が使えない? この間はハックを魔法で助けてくれただろう」
「あのときはうまくいったけどどうにも不安定なんです。成功率も半分ぐらいだし効果は薄いし」
「ふむ……」
ディーンはなにか考え込んでいる。
「その魔法は気になるな。詳しいことを聞かせてもらえないか」
「ええ、それは構いませんけどあなたは……」
「ああ、そういえばちゃんと名乗っていなかったな。わたしの名はディーン」
そこでディーンは一拍おいて続けた。
「『勇者』をやっている」




